1985/04/27 朝日新聞朝刊
苦しい財政 累積赤字4億ドルへ(国連・40年の光と影:12)
「分担金の支払いを一刻も早く」――初めは文書で、後には電話で、国連財政担当者から日本国連代表部に矢のような催促。この2月から3月初めにかけてのことだ。
日本の送金が遅れたわけではない。わが国は毎年、各国に先がけて支払っている。が、各国とも送金をできるだけ遅らせる傾向があるから、年初からしばらくはとくに苦しくなる。4月の職員の給料支払いが危うくなって、担当者は大スポンサー、日本に泣きついたわけだ。
結局、3月末に日本から3300万ドル(ことしの国連本部への分担金6790万ドルの2分の1)が届き、ともかくも急場をしのいだ。国連はいま、金銭的には身動きできない状態にある。
国連の累積赤字はことし4億ドルを超えることが確実視されるに至った。通常予算は、加盟国の国力に応じて配分が決まる分担金で形成され、平和維持活動に要する経費も同じ比率で各国が負担する。ところが、分担金の不払い、滞納が年間600万ないし700万ドルで、これまでに9300万ドル。国連軍の経費をまかなう平和活動維持費のそれが84年は4000万ドルで、こげつき債権を含めた累積では2億8000万ドル。2つ合わせると、4億ドルの大台は目前。
○米ソの見解が対立
滞納の筆頭はソ連で、通常予算で4145万ドル、平和維持活動費では1億4600万ドルと、ともに滞納分全体の約半分を占める。ほかに、共産圏諸国、南ア、イスラエル、アフリカ諸国の一部。米国もここ2、3年、パレスチナ問題部局、ジャマイカにある国際海底機構事務局の経費分担を拒み、滞納額は400万ドルほど。
不払いには、政治的と経済的の2つの理由がある。
ソ連は前者。国連は60年に始まったコンゴ紛争に2万人の軍隊を送って4年間に4億ドルを使い、この資金繰りのために国連債を発行した。ソ連は「このコンゴ派兵は事務総長(ハマーショルド氏)の越権行為」として、経費の分担を拒否するばかりか、国連債の引き受けにも応じていない。レバノン暫定軍(UNIFIL)、兵力引き離し監視軍(UNDOF)の派遣については「イスラエルの侵略行為に責任がある」として、やはり経費分担に反対する。米国も「政治的に偏向している」としてパレスチナ問題部局などへの支払いを行っていない。
これに対して、自国の外貨事情の悪いチャド、中央アフリカ、赤道ギニア、エルサルバドルなどは後者。
○運転資金も綱渡り
問題になるのは、前者の「意図的な不払い」。国連財政当局は、トラの子の運転資金の1億ドルを転用したり、派兵国への支払い延期を依頼したりして“綱渡り”を続けているが、オランダからは「兵士の手当がきちんと払われなければ国連軍に協力できない」と離縁状を突きつけられる始末だ。
国連憲章第19条には「延滞金がその時までの満二年間に支払われるべきであった分担金の額に等しいか、これを超える時は総会で投票権を有しない」とある。
ことし、これに該当する国はルーマニア、南ア、パラグアイ、チャドなど13カ国に達するが、うちザイールとセントルシアは19条にひっかかるとわかった時点で支払いを済ませた。ソ連がこのままの方針を貫くと、19条に該当し、総会での投票権をはく奪されかねない事態を迎える。
○ソ連が半分占める
64年12月に開会された第19回総会では、ウ・タント事務総長が提出した、ソ連、白ロシア、キューバ、ポーランドなど16カ国が19条に該当するとした報告書をめぐって、米ソの意見が対立し、審議らしい審議は行われなかった。
ソ連は今回、「あくまでも支払う義務がない」として強行突破を試みるのか、中国が81年の36回総会で、中華民国時代の分も含めた滞納金5500万ドルを事実上棚上げし、500万ドルを支払ったように、妥協的態度を見せるのか。
トロヤノフスキー大使にこの点をただすと、「私は、この件についてなにもいう立場にない」。ソ連は年末までに450万ドルを支払えば、とにかく1年間は19条から逃れられる。
(ニューヨーク=久保田特派員)
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