1985/04/17 朝日新聞朝刊
非同盟の功罪(国連・40年の光と影:4)
ワシントンのシンガポール大使館で、トミー・コー大使に会った。六八〜七一年、七四〜八四年と、二度にわたって国連大使を務め、アジアきっての国連通といわれる。
一連の国連活動でエール大から八四年に法学博士号、スタンフォード大からもこのほど賞を受けた。四十七歳。
安保理をまず話題にした。
「十三年間にわたって、安保理の改革案を私は考え続けているが、妙案を思いつかない。結論は、米ソがもっと歩み寄って、本格的なデタント(緊張緩和)が達成されるまでは安保理の活動に大きな期待をかけられそうにないということ。安保理が駄目なら国連全体の活動もおのずから制約される」
〇責任ある態度必要
――安保理はマヒしているのか。
「安保理の足かせになっている要因は二つある。常任理事国五国、とくに米ソの足並みの乱れと、他の非常任理事国の利害の対立。だから、例えば、私の国シンガポールが近隣の大国から攻撃を受け、それがまぎれもない侵略行為であったとしても、安保理全体の合意は得られないのではないか。こう思うと絶望的になる」(苦笑)
――安保理をよみがえらせる道は?
「第一は米ソの協調。第二は非同盟グループが“自分の家をきちんと秩序ある状態に”おくこと。非同盟諸国は互いに説教し合うことは得意だが、仲間、とくに“地域の乱暴者”が非同盟運動の精神や国連憲章を破る行為をしても、何も出来ない。国連を必要としているのは第三世界のわれわれなのだから、非同盟諸国は国連でもっと確固たる責任ある態度をとらなくてはなるまい」
――だが、非同盟グループといってもキューバのようなソ連寄りの国もある。
「十五ないし二十カ国は、非同盟といっても、共産圏の同盟国に近い。キューバを筆頭とする、これらの国は積極的に自分たちとソ連ブロックを結びつけようとし、非同盟の中にしこりを生む結果になっている」
〇紛争の拡大を防ぐ
――それでは非同盟は国連でまとまった力を発揮できない。
「そうともいえない。七三年の第四次中東戦争で、ソ連は米国に早期停戦を求めたが、米国は応じなかった。その理由は先手を取られたイスラエルに反撃の機会を与えようとしたためだ。イスラエルの巻き返しで、シナイ半島に上陸したエジプト第三軍団が孤立するに至ってソ連は国連から和平軍を送ろうとしたが、米国は応じない。米ソ対決の深刻な事態を迎えようとしたわけだが、非同盟諸国が一致して安保理で停戦を決議し、紛争の拡大を防いだ。非同盟がいかんなく力を発揮したケースといえよう」
――では、どの国が非同盟のまとめ役となれるのか。
「中小国で、中立的立場にあるスウェーデン、オーストリア、ユーゴスラビア、ハンガリー、ノルウェー。こういう国がグループを引っ張っていく形が望ましい」
〇協力的でない西側
――西側は国連に協力的か。
「ノー。私の感触では西側諸国のほとんどは国連に対して基本的に関心を失っている。ある米国連大使に“米国の国連における目標は何か”と質問したら、彼は“損害を少なくすること”と答えた」
――国連を再生するために国連憲章改正が必要だとの声を聞く。
「憲章をいじることには米、ソ、英、仏がこぞって反対するだろうし、条文を改正したからといって国連が一気によみがえるとは思わない。安保理のメンバーを十五から二十、あるいは二十五に増やしても、この機構が機能的になるだろうか。問題は憲章の精神を加盟国がいかに尊重し実行するか、ということだと私は思う」
――それでは、いま国連に一番求められているのは。
「国連には無駄が多過ぎる。たとえばウィーンに麻薬問題を扱う専門機関が三つもある。こういう例を挙げたらきりがない。国連の行政改革が緊急に必要であるという点で私は米ソの主張に完全に同意する」
――行革を遂行する責任はだれにあるのか。
「総長と加盟国だ。総長ができることもあるし、総会がやらねばならないこともある」
(ニューヨーク=久保田特派員)
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