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私はこう考える【天皇制について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1999/11/12 朝日新聞朝刊
馬車は静かに揺れよ 即位10年(社説)
 
 昨年夏亡くなった戦後詩の代表的詩人、田村隆一さんが残した作品に、「新世界より」というのがある。
 波乱の昭和が終わり、新たな時代を迎えた人々の気分を、詩人の直観でつづってほしい。雑誌編集者のそんな求めに応じて、一九八九年に発表された一編だ。
 第一次世界大戦までは
 世界は王様だらけだった
 と始まる二十行は、こう結ばれる。
 「静かにゆれよ、楽しい馬車」
 馬車を、日本や世界と置き換えてみてもいい。そこには、当時からみた未来への思いが込められている。
 十年が過ぎた。
 この十年の世界と日本は、静かな揺れどころか、激震に見舞われ続けた。
 天皇家もまた多忙だった。中国訪問、皇太子ご結婚。良いことばかりではない。一時期は、バッシング現象も起きた。
 天皇に向けられる人々のまなざしは明らかに変質した。昭和天皇は、戦争と平和、現人神(あらひとがみ)と国民統合の象徴を、一身にして生きた。そこに漂っていたドラマ性や、ある種の重苦しい空気は随分薄らいだ。
 九年前のきょう、即位の礼が行われた。政府はそれに合わせて、「御在位十年記念式典」を主催する。民間の奉祝委員会と、共産党を除く超党派でつくる奉祝国会議員連盟も、「国民祭典」を開く。
 「国民祭典」には、人気ロックグループや、プロ野球、サッカーなどの有名選手らが多数参加する。彼らを目当てに多くのファンが集まるのを期待したとすれば、何のための祭典か、といわざるを得ない。
 いずれにしても、昭和のころには考えにくかったことだ。
 国民の冷静さとは対照的に、政府は「式典当日、学校、会社、その他一般においても国旗を掲揚するよう」呼びかけている。そこまで力む必要があるだろうか。
 昭和天皇の在位五十年、六十年の式典のときにも協力要請しており、「今回改めて行う処置ではない」(野中広務・前官房長官)というのが、政府の説明だ。
 けれども、今回は国旗・国歌法が成立したばかりである。どのように対応したものか、困惑している人は少なくない。
 天皇は即位にあたっての記者会見で、天皇制をめぐるさまざまな論議について問われ、「言論の自由が保たれるということは、民主主義の基礎であり大変大切なことと思っております」と答えた。
 皇室と日本の社会の間に新しい風が吹き始めた、と感じたものだ。
 発言には、戦前の社会への反省だけでなく、民主主義への深い洞察があった。
 民主主義は、全体主義に転じかねない危険を常にはらむ。数の論理が前面に出過ぎると、少数者の権利を抑圧する。
 内心や表現の自由をはじめとする人権保障を徹底し、社会の多様性を確保しなければならないのは、そのためだ。
 君が代を歌いたい人は、歌いたくない人の自由を尊重すべきだし、反対に君が代を歌いたくないと考える人も、歌いたい人の自由を尊重すべきである。
 ともあれ、政府がお祝いに便乗して、人々の内面に「踏み絵」を突きつけるような行為に出るのは是認しがたい。
 社会の変化とともに、天皇制もまた変わっていく。大事なのは、大方の国民の意識とずれないことだ。馬車は、静かに楽しく揺れるのがいい。
 
 
 
 
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