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私はこう考える【天皇制について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1992/08/26 朝日新聞朝刊
「歴史」に区切りをつける旅(社説)
 
 天皇、皇后両陛下が10月23日から中国を訪問されることが決まった。日中関係正常化20周年を記念する「友好の象徴」として初めての旅となる。
 同時に、両国間の深い溝となっている不幸な歴史に区切りをつけ、未来へ道を切り開く新時代の出発点として極めて意義深いものがある。
 特に中国と韓国が国交樹立に踏み切り、東アジア情勢が激動するとき、両国との善隣友好関係を維持していくことは、日本の国益にとって極めて重要な意味を持つ。
 日程には北京、上海に西安(昔の長安)が含まれている。陛下は4月に訪日した江沢民共産党総書記との会見で、奈良や京都が唐の都長安にならって造られたことなどをあげ、「日本は古い時代から中国の文明を採り入れてきた」と述べた。文化伝来へのお礼の旅とすることもできるだろう。
 それにしても、訪中問題がこれほどまでに政治問題化し、2カ月前になってやっと正式決定したのは異例だった。
 過去の歴史を考えると、欧州や米国よりも、中国や韓国をまず訪問するのが筋であった。体制の違いや歴史の後遺症を考えても、遅きに失した感は否定できない。
 反対論で気になるのは感情論である。ある若手代議士は、南京虐殺や賠償問題を例にあげて、「何でぼくら戦後世代までがいつまでも、この問題をひきずらなければならないんだ」と発言した。過去の清算は政治レベルの責任であり、陛下に負わせるのは政治利用だとしている。
 私たちの考えは違う。戦後世代を含め、いやおうなしに「過去」をひきずっていかざるを得ないのだ。陛下や政府はもとより国民の一人ひとりが歴史の教訓に学ぶ努力を積み重ね、信頼を得ることで、初めて戦前の世代が残した「過去」を乗り越えられるのではないだろうか。
 両国が永遠に隣人であり続ける以上、時に波風が立つことがあっても、うまく付き合っていくしか道はない。分別ある、大人の態度が求められている。
 「お言葉」の問題では、20年前の日中共同声明で知恵を出し合っている。これを基礎に、陛下の率直なお気持ちと、国民の意思がはっきり伝わるように表現すればよいのではないか。天皇は国民統合の象徴でもあるからだ。
 歴史の認識の差は時にトラブルを生む。当時の田中首相が「ご迷惑をおかけしました」とあいさつした部分が、中国語では軽い言葉で訳され、翌日の会談で周恩来首相が日本軍の罪状を次々に数字をあげて迫った場面が思い出される。
 原則問題は譲らない中国も、微妙な変化が見られる。江総書記が「中国は過去のことを忘れて未来を見つめること、日本は過去の歴史を真剣に見つめて平和的な発展の道を堅持することが重要だ」と語った。中国の過去から未来志向への切り替えは、天皇訪問へのシグナルともいえよう。
 中国人の天皇観は一様でない。「戦争責任者」「軍部に操られた形式的な責任者」など年配者の厳しい受け止め方は当然としても、戦争を知らない世代にはマスコミが報道を避けていることもあって、日本の天皇制はほとんど知られていない。
 今回のご訪問は、それが戦前のイメージから新憲法の民主主義の下で、根本的に変わったことを知ってもらう絶好の機会になるであろう。
 新たな相互理解が生まれれば、それは両国民の間に存在する「空白」を埋める旅となるに違いない。
 
 
 
 
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