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1990/01/23 朝日新聞朝刊
女性はなぜ天皇になれない 皇室典範めぐり国会で議論(記写縦横)
土俵に女性を上げない日本相撲協会に森山官房長官がかみついたと思ったら、今度は社会党の土井委員長が日本記者クラブでの講演(17日)で「男系の男子しか天皇の位を継げない皇室典範は男女平等を定めた憲法と矛盾する」と、改正の可能性を検討し、国会でも積極的に論議していく考えを示した。なぜ日本の天皇は男性でなければならないとされているのか。他国の王室はどうか。そして、あなたはどう考えますか?
(皇室問題取材班)
〈これまでの論議〉
皇室典範は第1条で「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する」と定めている。社会党がこれを問題にしたのは、今回の土井委員長が初めてではない。
「天皇が国民統合の象徴であれば、国民の2分の1以上を占める女性を排除する理由は何らないと思います」。昭和60年の参議院予算委員会で久保田真苗氏はこう主張し、「典範は改正すべきではないか」と迫った。折しも男女差別撤廃条約を批准するため国内の差別を無くす条件整備を迫られ、この委員会でも様々に論じられていた。皇室典範は、国内法に残されたほとんど唯一の「差別」条項と見られていた。
答弁に立った小和田恒・外務省条約局長(当時)は「(典範は)女性の人権および自由を害するものではないから条約の対象としている差別には当たらない」と説明。宮内庁の山本悟次長(同)は「我が国の古来の伝統を採用するのひと言に尽きる」と繰り返した。しかし久保田氏は「(皇祖神の)伊勢神宮の神様は天照大神という女神。女帝もたくさん存在した」「女子を排除したのは明治以降のこと」と、納得しなかった。
久保田氏は昨年2月の内閣委員会でも、現天皇の即位に伴う「剣璽(けんじ)等承継の儀」から皇后さまや妃殿下方が排除されたことを引き合いに、同条項を「男女差別のシンボルだ」と批判。「古い意味で家の制度とか女性の地位の低さ、女性の排除、皇族費の面でも半分でしかないという差別を受けているということ、こういったことが全部ここから発生している」と指摘した。
これに対し、政府側は小渕恵三官房長官(同)が「現在、現実に男系の男子であります皇太子殿下がおられ、あえて女帝も考えなければならない時点ではない」、宮尾盤宮内庁次長も「女帝という例外は当時の皇子がご幼少など特別の事情での中継ぎで、全体として男系を外れたことは一つもない」と防戦したが、たじたじだった。
〈諸外国では〉
欧州では、女性を王位から排除しない国の方が多い。
北欧のスウェーデンでは、1979年、男性にしか認められていなかった王位継承権を男女平等に認める憲法改正を行い、差別なく長子を王位継承順位第1位とした。古い憲法の王制規定を近代化した一環で、日本の皇族に相当する継承者のない同国で王位の安定を期した面もあった。共和制を綱領にうたう社会民主党が議会で多数を占め、王制を守ろうとする保守党と妥協した結果の改正、とも言われている。当時、国王には女の子しか無かったことや、同国が国連で差別撤廃条約を熱心に推進していた立場から王室にもそれを持ち込んだ、という事情もあったという。
これで、欧州の8王室のうち、女性が王位を継げるのはイギリス、スペイン、オランダ、デンマーク、ルクセンブルク、スウェーデンの6カ国となり、男性に限っているのはベルギーとノルウェーの2カ国だけになった。現在、イギリス、オランダ、デンマークが女王をいただいている。
○〈日本の女帝〉
日本でも、10代8人の女帝が即位した歴史がある。第33代推古、第35代皇極(重祚して第37代斉明)、第41代持統、第43代元明、第44代元正、第46代孝謙(重祚して第48代称徳)、第109代明正、第117代後桜町の各天皇だ。宮内庁は「男系を守るつなぎで、実際、女帝の後は男系に戻った」と説明しているが、現典範はその「中継ぎ」すら排除している。
昭和天皇には現天皇陛下と常陸宮さまという男子があり、現天皇陛下の長子も皇太子さまだから、この議論は当分は現実味に乏しい。しかし、今後ますます男女平等が進み、仮に皇太子さまの長子に女子が生まれたり、男のお子さまがなかった場合、皇室典範の改正が課題に上らないとは限らない。
マドンナ旋風に乗る社会党の女性議員らは「該当の方が現れて、どちらかにせねばならないという状態になれば、こういう制度の研究はむしろできなくなる」(久保田氏)と、制度論議に積極的に挑む構えだ。
●男子主義は窮屈では
京都国立博物館長・上山春平さんの話
子細に研究したわけではないが、皇位継承を男子に限るという明文規定は律令にはない。井上毅らがプロイセンなどにならって天皇の政治的・軍事的役割を重くして作った明治の典範からだろう。今の典範も明治のものを少し手直しした程度で使っているが、明治の男子継承主義はちょっと窮屈すぎる気はする。歴史的に見てもむしろ女帝が容認されているのが伝統だから、そのほうがなじむのではないか。
●歴史の重みは大事に
評論家・村松剛さんの話
天皇の本質は祭祀(さいし)王だと思うが、過去に卑弥呼など祭祀女王があり、女帝も存在したことから言えば、女帝は理論的にはありうる。しかし、女帝はあくまで中継ぎであったし、男系が続いた歴史の重みは大事にすべきだ。国民の男女平等と、国民の聖なる精神的部分を代表してもらう君主とは別問題だ。女帝となれば、天皇制そのものが変質し、皇室の権威にかかわる。
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