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私はこう考える【天皇制について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1989/05/16 朝日新聞夕刊
王権の象徴(権威の構造 天皇論のいま・第2部:6)
 
 中心と周縁とが葛藤 国家・政府の制度こえる
 文化人類学者の山口昌男東外大教授は最近『天皇制の文化人類学』(89年刊)を出した。そこで山口氏を訪ね話を聞いた。
 ――私は天皇を考える場合に2つの視点を心がけてきたつもりです。ひとつは日本人の心の奥深く埋もれている天皇制の構造を明るみに出した方がいいということ。制度的な支配機構のメカニズムのなかからしかとらえられない天皇観をやぶろうとしました。もうひとつは、日本のなかだけで通用するような論議はしたくない。日本のなかの牢(ろう)名主のような学問スタイルはとりたくないと思いました。だから日本、ヨーロッパ、アフリカという3つの軸で王権論という普遍的次元によって天皇観を相対化しようと試みてきた訳です。そのための方法として「中心―周縁」の二元論を使ったのです。
○神話論から構造的に
 山口氏の天皇論は、精神史として日本固有のものととらえず、神話論・宇宙論という観点から構造的にとらえようとしている。天皇制を含む王権を、中心にある天皇(王)と周縁としての皇子(王子)の神話的弁証法でとこうとする。謡曲「蝉丸」をもとにスサノオとヤマトタケルを論じ、秩序の確立者(中心)であるとともに反秩序の行為ゆえに追放され放浪する者(周縁)として天皇制の動と静を描く。山口氏は図のような対比をする。
 山口氏のいう「王権」は、「国家」という権力とかさなる機能もあるが、その機能を越えたかなたから立ちあらわれてくる宇宙論の絵解きのための装置であり、演劇的側面をも持つ。王権論は国家論よりも広く、権力と権威を含むことになる。そこを批判する人もいる。
 天皇制を山口氏のように王権ととらえると、どうなるか。
 山口氏はいう。
 ――王権としての天皇制には、日常的中心と非日常的周縁の2つの方向がダイナミックに葛藤(かっとう)する面があります。それは、政治権力の遊戯的部分として無方向的な規範逸脱的な演劇の装置としてでてくる。道化や祝祭(カーニバル)のようなもの。日本でも院政政権には、花山院のようなエロス的な過剰な逸脱があります。花山院はビスコンティが映画化したルードビヒのような徹底的な華美な生活をおくり狂気の生活をしています。王権のカーニバル性は、国家とか政府とかの制度をこえています。無限の逸脱が生じてくるのが、王権のもっている必然的な論理なんです。
 山口氏はノンフィクション作家猪瀬直樹氏との対談『ミカドと世紀末』(87年刊)で、大正天皇は明治天皇の補完者として、中心的イメージに回収されない周縁の放浪のプリンスのイメージとしてとらえている。そしてこの対談でこうもいう。「いまの天皇(昭和天皇)にはその2つ、つまり中心の権力と周縁の感性に訴える能力があるから怖い人だ」と。
○精神文化的側面から
 王権論ではないが、天皇を政治権力だけでなく精神文化的な権威の側面からとらえようとするのは、宗教学者の中沢新一氏である。『悪党的思考』(88年刊)で後醍醐天皇など中世天皇を「法治する王」と「魔術王」の二重性でとらえようとした。法治する政治権力を「仕切られた空間」と見、川の民、山の民、ボヘミアン的な職人、悪党的武士など自然と野生の思考をもった流動的な状況を「なめらかな空間」と考える。後醍醐は、この「なめらかな空間」を手に入れたと中沢氏はみる。この「なめらかな空間」にこそ近代資本主義の商品生産の原型があり、中世の王朝権力は、天皇のもつ呪術(じゅじゅつ)的な「権威」でもってこの空間を捕捉(ほそく)したというのだ。中沢理論は、高度資本主義と天皇制の共存の原型を中世天皇制をもととして分析していて面白い。
 天皇の権威として宗教的側面に力点を置いているのが評論家の吉本隆明氏の天皇観だろう。その「信の構造(3)全天皇制・宗教論集成」(89年刊)で、吉本氏は「考古学的な古層として、天皇制はいつでも宗教を保有している」と述べている。
 これらの分析は、日本天皇制のぬえ的二重性格の解明として、なぞときの探偵小説を読むようで面白い。いずれにしろ、天皇制には、日本の“圧縮された時間”がつまっている。だからそれを解明するのは、大変に難しいことになる。
(西島建男記者)=おわり
 
 
 
 
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