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私はこう考える【天皇制について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1989/02/21 朝日新聞夕刊
メディア論(権威の構造 天皇制のいま:9)
 
 イメージ育成を分析 大衆社会の〓幻想〓注視
 戦後学問の天皇論の核心となったのは、天皇と大衆の関係であり、「何故天皇が根強く大衆の支持を受けるのか」の解明だった。
 戦前の天皇論はマルクス主義の視点から経済基盤の分析(例えば講座派)に重きがおかれてきた。これに対し戦後は丸山真男氏(「超国家主義の論理と心理」)を中心とする政治学者が天皇制を支える国民大衆の精神構造を分析した。
○民衆の意識に焦点
 天皇制を支える大衆の意識や心情は丸山氏を筆頭に1950年代に数多くの政治学者の業績としてだされた。石田雄氏は「家族国家観」をもとにして底辺の家族主義と上からの有機体論の融合に明治国家の基盤をみた。藤田省三氏は、地域の組合、町内会から宗教的講にいたる大衆の日常生活秩序の道徳心情のなかに“小天皇”ともいうべき非政治支配があって、これが天皇制を支えている原点だと考えた。神島二郎氏は、近代天皇制の精神は、もともとは自然のムラ組織の秩序にあるが、ムラが崩れ都市に大衆が集中しても擬制のムラ(学閥や郷党閥など各種の閥)が生じて天皇制を支えたとも考えた。
 この戦後政治学の延長上に松下圭一氏の「大衆天皇制論」(59年)が出された。皇太子御成婚、ミッチーブームを分析したこの論文で松下氏は、天皇の正統性の基礎が「皇祖皇宗」から「大衆同意」へと変化したとみた。恋愛による夫婦同権型のモダンな「家庭」こそが脱政治化した皇室の政治的存在理由になり、そのスターとしての天皇イメージを演出する電波メディアなどマスコミが現代政治に与える影響の大きさをも指摘した。
 この考え方は80年代になって戦後天皇を支えたのは核家族モデルという家族制度と、マスメディアだといい切る粉川哲夫氏に一部だけ肥大して継承されている。粉川氏は70年代のマスメディアで芸能人の結婚式、ゴシップ、セックス、死・・・が直接天皇制を明示してはいないが天皇制を複製し、「天皇家=芸能人共同体=国民」が円環をとって予定調和し同じことを演じたとみる。その結果、昭和天皇の病状悪化で「オレたちひょうきん族」「土曜深夜族」が放送中止になったのは反天皇制ではなくこれらの番組が「天皇制のために存在し準天皇制としてのメディアであり、天皇の生と密接なつながりをもっているからこそ、天皇の生の危機の際にはメインの天皇制のために道をゆずらなければならない」という指摘にいきつく。(「国際化というファシズム」所収論文88年)
 60年安保以後、萩原延寿氏によると政治学は“挫折”する。政権交代がないことや天皇制の威力の再認識を強いられる。この結果、日本人の精神構造に持続して流れる“古層”を掘り下げる方向や、幕末から明治維新にもどり、なぜ天皇制が民衆に威力をもつかをさぐる方向がでてくる。
○重み増す明治以降
 このあたりから歴史学も変わってくる。経済的基盤の分析による階級闘争史観から民衆運動史(自由民権や大正デモクラシーの研究)や民衆思想史に重点が置かれる。色川大吉氏は「明治の文化」(70年)で、民衆思想のなかで天皇論がどう作られていたかを明治天皇のシンボル操作、民衆の祖先崇拝、家族制度を通じて分析した。80年代になると、動かないし変わらない民衆の基盤を探る「社会史」もでてくる。
 歴史学者の遠山茂樹氏は「近代天皇制の成立」(87年)の論文でこう述べている。「1980年代の今日、イデオロギー支配の重要さの認識がますます求められているように思える。そのイデオロギー支配は、戦前の天皇制ナショナリズムの残存という単純なものではない。近代化(現代化)論、大衆社会論、福祉国家論、経済大国論、“中流”意識等々、戦後新たに生れた雑多な要素が入り混っている。日本国憲法下の天皇は、言葉の厳密な意味で、天皇制でないとすべきだろう」
 遠山氏は天皇制イデオロギーと民衆のかかわりを明治天皇像のイメージの成立という視点で地方巡幸や祝祭日、天皇の肖像写真から分析しようとする。こうした天皇イメージが大衆に浸透していくメディアの研究では最近いくつかの業績が出た。
○少女文化の中にも
 記号学の視点からは多木浩二氏による「天皇の肖像」(88年)がある。政治学から戦後巡幸や国民体育大会などを扱った坂本孝治郎氏の「象徴天皇がやって来る」(88年)がある。歴史学では原田勝正氏の「お召列車論序説」(「近代天皇制の展開」所収87年)がある。
 若い世代ほど天皇の実体が不明だからメディアによって幻想の天皇が作られやすくなる。戦後世代の新進のマンガ評論家の大塚英志氏は「少女たちのかわいい天皇」(「中央公論」88年12月号)で、記帳に並ぶ制服姿の少女たちをこうみる。
 少女たちの天皇イメージは、少女マンガやアイドル、少女雑貨といった少女文化の系列のなかで作られるという。死にかかっている天皇という老人の姿の中に傷つきやすい、か弱い自分自身の姿をみる。「少女たちの目に、一瞬映ったのはかくも孤独な聖老人の姿だった。それは究極の資本主義の中にあって自らの周りを〈かわいいもの〉で遮断しなければ崩れてしまう少女たち自身の孤独な姿である。聖老人は少女たちのかくも切ない〈無垢〉と〈孤独〉を象徴している」
 最近、ポストモダンの立場から天皇の実体(内容)は「ゼロ記号」であり「空虚な主体」だという論がある。だが、内容が空虚であればあるほど形式(メディア)が独走し、政治権力のための“同意の調達”(グラムシ)をおこないやすくなる。形式が内容を決定する。非政治的なものが政治的なものに変身する。メディア天皇制はそうした恐ろしさを秘めている。
(西島建男編集委員)
 
 
 
 
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