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私はこう考える【天皇制について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1989/02/20 朝日新聞夕刊
文化論 正当化に流れる危険(権威の構造 天皇制のいま:8)
 
 排他性はらむ伝統復帰
 11日の建国記念の日。東京・渋谷の山手教会には1000人の人が集まった。例年になく多い。「紀元節」問題連絡会議の集会だ。この集会は1967年から毎年開かれている。今年は「天皇制美化に反対し、国民主権、思想・良心・信教の自由を守る2・11集会」と名づけられていた。
 この集会のパネル討論で安丸良夫一橋大教授(日本思想史)はこう述べた。
 「いま我々が天皇制と思っている観念の数多くは、幕末から明治維新に作為的に作られたフィクションが大部分である。政治権力と離れた日本文化の精神や伝統としての天皇制が日本の歴史を貫いたものとする考え方は、いま支配層の核心にある天皇論だ」
○反西欧近代と裏表
 安丸氏が批判した天皇論は、戦後根強い津田左右吉、和辻哲郎、石井良助に代表される天皇が政治権力をもたなかったという天皇不執政論である。また天皇の日本文化での役割を強調し、国民の敬愛を受けているから「国民主権と天皇論は両立する」という論である。
 歴史学研究会は「日本文化論」に対して80年代に入って警戒を強めてきた。この場合の「日本文化論」とは、伝統的日本文化への復古による天皇制の正当化とともに、人類学(構造主義)に代表される“近代の超克”のような文化の多元性や相対性を支柱とするポストモダンの考え方である。日本文化論は、伝統復帰と反西欧近代の裏表からなり立っているとみるわけだ。
 こうした歴史学研究会の危機感の背景には、私は2つの時代状況があると思う。
 第1は、76年の天皇在位50年記念式典から始まった右傾化、草の根保守主義の動きだ。77年学習指導要領に「君が代」が「国歌」と規定され、78年には靖国神社にA級戦犯合祀(ごうし)、79年に元号法制化、85年中曽根首相(当時)の初の靖国公式参拝、86年天皇在位60年記念式典・・・。その裏には各種の世論調査に示される国民の根強い天皇支持がある。
 第2は、80年代になって強まってきた日本文化論とジャパン・アズ・ナンバー・ワンの思潮。それに文化相対主義とポストモダンの文化論。86年文部省内に国際日本文化研究センター準備室が置かれ87年5月に正式発足する。この所長の梅原猛氏をはじめとする“新京都学派”と政権の接近がいわれた。
 とくに日本文化論は、88年に文化庁が刊行の「我が国の文化と文化行政」(文化白書)において、国際化の中での「伝統文化への回帰」と「文化的アイデンティティー」が強調された。文部省の89年の学習指導要領(小学校)改訂案では「我が国の文化と伝統」と「天皇についての理解と敬愛」が規定されている。
 新天皇をめぐって「文化概念としての天皇制」と「日本文化論」が支配層のイデオロギーとして強まってきている状況がいまある。
 日本文化復古と近代西欧の超克が結びついたものとして、国際日本文化研究センターの存在に神経をとがらしているのが、歴史学研究会なのだと私は思う。
 梅原国際日本文化研究センター所長は、「中央公論」(88年11月号)の「日本史の中の天皇」という上山春平、矢野暢両氏との座談会でこういう趣旨を述べている。
 天皇は宗教的な象徴という性格をもち道教でいう無為の達人だ。いま自然支配の近代工業文明という世界史状況のなかで、自然的原理に基づく日本の天皇制は貴重なもので考え直すべきだというのだ。
 これに対し梅原氏がいう生命の一体感をもつ縄文文化論が、天皇の死→復活という大嘗(じょう)祭や伊勢神宮の儀式と結びつき天皇制の永遠性にいきつくと岩崎允胤大阪経済法科大教授は批判している。(「日本の科学者」89年2月号所収の「日本文化論と西田・和辻哲学の再評価」から)
 梅原氏が同センターの発足にあたって88年3月に招いて梅原氏とともに講演したフランスの文化人類学者レビストロース氏の意見はこうした結合として大きな批判をいまよびおこしている。
○個人の場所がない
 レビストロース氏はその時の講演で日本文化を「混合と独創の文化」と考え、「神話と歴史の連続性」が日本文化の精神的特質だと述べ、記紀神話の世界的独自性を指摘する。科学技術とアニミズムとが共存する日本文化をたたえ、神武天皇は、「生と死」「陸と海」という「宇宙論的対立」を体系的に解決した人だといいきった。
 これに対し鰺坂真関西大教授(哲学)は、レビストロース氏は戦後日本の古代史学や記紀批判の歴史学の研究の成果を無視しているし、また、非合理な歴史と神話の連続性の主張は、アジアを神秘化する“オリエンタリズム”だと批判している。(「文化人類学と天皇制」)
 私はレビストロース氏の講演についてフランスで87年ベストセラーになった新進の哲学者アラン・フィンケルクロート氏の「思考の敗北あるいは文化のパラドックス」(翻訳・西谷修氏)を思い出した。この本はレビストロース氏のユネスコ講演も含めてポストモダンの文化相対主義の批判書である。多元文化、相対文化による文化的アイデンティティーの重視は、ドイツ・ロマン派や歴史主義の「民族精神」と似て、民族文化の絶対化がその排他性を正当化するというのだ。レビストロース氏の人類学が西欧の相対化から発しているとはいえ、「現代の文化的アイデンティティーの狂信者たちは、個人をその帰属性に軟禁する。また、差異を絶対化し、特殊な因果関係の多様性のもとに」普遍的理性をもった個人の占める場所がないことになるとフィンケルクロート氏は主張する。
○普遍的な視野必要
 日本文化論は、三島由紀夫の「文化防衛論」に見られるように天皇制を正当化する理論に陥りやすい性格をもっている。いま日本文化論のもつイデオロギー性に対して海外の日本研究者からも批判がでている。日本文化研究が排他性をもたずに普遍性の視野のもとでどういう研究がおこなわれるかが今後の課題である。
(西島建男編集委員)
 
 
 
 
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