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私はこう考える【天皇制について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1989/02/08 朝日新聞夕刊
「大嘗祭」:下(権威の構造 天皇制のいま:3)
 
 宗教儀式の見方大勢 「国事に」の声も消えず
 政府は昭和天皇の喪があける来年1月以後に、即位礼と大嘗祭(だいじょうさい)についての方針を明らかにする意向といわれる。
 
 《皇位の継承があったときは、即位の礼を行う》――現皇室典範第24条の規定通り、即位礼は外国からの賓客も招いて、国事として挙行されるだろう。だが、明治期に制定された旧皇室典範には条文化されながら、現皇室典範からは削除された、宗教色の濃い大嘗祭の取り扱いはどうなるのか。やるのか、やらないのか。やるとすれば、どういう形式になるのか。
 タブー化した天皇制論議の陰になって、市民レベルでは永らく手つかずになっていたこの問題に、一石を投じたのは哲学者の上山春平氏(現京都国立博物館長)だった。上山氏は昭和59年11月21日付朝日新聞文化面(東京)に発表した「皇位継承儀礼は京都で出来るか」と題する論文で、「大嘗祭は現行憲法下では国事として行うのは不可能に近く、存続させるとするなら、即位式と切り離し、内閣の関与しない《内廷の祭祀》とするほかあるまい。大嘗祭には多額の経費がかかるが、国民の募金で内廷費の不足を補うという道もないではなく、その道が開ければ大嘗祭を行う場所として、京都御所の故地が最もふさわしい」と論じた。前回紹介した柳田国男の即位礼・大嘗祭切り離し論につながる考え方だが、具体的な提言もふくむこの文章は、賛否両論をふくめ新聞掲載論文としては異例なほどの反響を生んだ。
○「残したい文化財」
 それから4年余、改めて上山氏の考えを聞いた。
 「日本という国は、外来のもの、固有のものを含め伝統的な文化をいっぱい残しているのが面白い特色だ。それらは歴史に分け入る時、生き生きとした手がかりになる。大嘗祭は千数百年続いた皇室の最も伝統的儀式だから無形文化財としても残したいという気持ちがある」
 「世襲の君主制は伝統を前提としている。大嘗祭のような伝統儀式は、慣習法として認められるべき性格を、本来的には持っていると思う。しかし、ごく最近に天皇を利用して大ケガをするという過ちを犯した前歴があるので、天皇を絶対のものにすまいと、みんなが万全の努力を払っているのが現状だ。その気持ちは尊重されねばならない。国事で大嘗祭をやるのはいまの憲法になじみにくい。それで募金の道もあると提言したわけだ」
○専門家の意見多様
 大嘗祭に関心を持つ他の専門家たちはどう考えているのだろう。何人かの意見を紹介する。
 「大嘗祭は国事としてやるのが最も望ましいが、国事となれば政府や議会という俗権が天皇の聖なる領域にかかわるという不都合も生じる。一般の寄付で経費をまかなうのも一案だ。伊勢神宮の式年遷宮が一般の募金で行われてきた先例から見て、大嘗祭の神事のための費用程度は簡単に集められるはずだ。ただその場合も、天皇が国のためにお祈りになる儀式なのだから、単なる内廷の私事ではあり得ず、天下の公事と理解すべきだ」
(真弓常忠皇学館大学神道研究所長)
 「日本文化の母体は祭りと思うが、大嘗祭は日本中の収穫祭の総しめくくり。憲法との関係は専門外だから意見を控えるが、大嘗祭にかわる日本文化の根源は他にないのだから、何とかこれを存続させたい」
(倉林正次国学院大学教授・民俗学)
 「大嘗祭は天皇が祭司として神に対する儀式だから、宗教行為そのもの。国事として行えば当然憲法に抵触する。ただ天皇にも一般国民と同じく信仰の自由は保障されているのだから、新嘗祭(にいなめさい)などと同様、宮中の私事として行う分には差し支えない」(村上重良慶応大講師・宗教学)
 「折口信夫の説くように、これを天皇霊を身につけるための儀式と考える。開明的であるべき現代の天皇になじまぬ、こんなおどろおどろしい儀式は、単なる私事としてもやってほしくない」
(洞富雄元早大教授・日本史)
 「新天皇は憲法を守ると表明された。天皇が立憲主義的に行動しようとする時、学問的に疑義が生じそうな儀式を国事でやるのは、憲法論理に反するだけでなく、天皇の意思にも反することになるのではないか」
(小林孝輔青山学院大教授・憲法)
 また、滝川政次郎国学院大名誉教授のように、現皇室典範にいう「即位の礼」は即位式と大嘗祭とを兼ねた「御大典」と同義と解して、現憲法下でも大嘗祭を国費で行えると考える人がいる一方、「大嘗祭は農耕社会の儀式。国民の大部分が農業から離れた現在では、すでにその存在理由を失った」というようなさめた意見もある。
○法制局答弁は明快
 大嘗祭についての見解は、それぞれの天皇観、歴史観、憲法観を反映してまちまちだ。だが実際には、この件に関する政府の立場はすでにはっきりしている、と見ることもできる。昭和54年4月の衆院内閣委員会で真田秀夫内閣法制局長官が「従来の大嘗祭は神式でやっているようなので、そういう神式のもとで国が大嘗祭という儀式を行うことは許されないと考えている」と答弁し、さらに59年4月にも、前田正道法制局第1部長が同趣旨の答弁を行っているからだ。
 この公の場での法制局の法的見解表明は、当然、政府の態度決定を拘束することになるだろう。にもかかわらず、大嘗祭国事化に反対する人々の間に警戒の色が消えないのは、今回の代替わりで、法律の規定からは消えたはずの践祚(せんそ)の中身に該当する「剣璽等承継の儀」と「即位後朝見の儀」が、国の儀式として行われた、という実績があるからである。
 憲法護持と伝統護持と。たがいに対立しかねない2つの理念のせめぎあいの中で、どのような調和点が見いだされるのか。あるいは、調和点を見いだせぬまま振り子はいずれかの方へ激しくぶれることになるのか。象徴天皇制の将来のありようにもかかわる、大嘗祭をめぐっての国民的論議は、これから重要な段階を迎える。
(赤松俊輔記者)
 
 
 
 
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