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1989/01/12 朝日新聞朝刊
利用される権威 論議呼ぶ接点、今後も(政治の中の天皇:5)
選挙・外交・・・節々で浮上
「天皇はしばしば反動的な立場から国政に関与し、歴代自民党政権も天皇と天皇一族を積極的に政治利用してきた」。天皇陛下が亡くなられた7日、共産党が出した声明の一部だ。共産党は天皇の政治利用の問題で国会で度々論戦を展開してきた。
○左右ともに問題視
松本善明氏(共産) 天皇在位60年の祝賀式典をするのは戦前への反省が足りない。
中曽根首相(当時) ご長寿をお祝いし、みんなでことほぐのが自然の感情だ。
松本氏 天皇が即位の儀式をしたのは11月10日で、在位50年の祝いもこの日だ。なぜ4月29日に繰り上げたのか。夏の参院選前に宣伝して選挙を有利にするのが目的か。
首相 そういう考えは、はしたない勘ぐりだ。
これは、故陛下の在位60年記念式典をめぐる1986年(昭和61年)2月6日の衆院予算委員会でのやりとりだ。
その前年の秋、当時、中曽根内閣の官房長官だった藤波孝生氏は、国会内の一室で右翼団体から追及を受けていた。
「天皇を政治に使おうというのか。首相の言いなりになっているあなたも情けない」
「何を言うのか。こっちだって命をかけて国家国民のためにやっているんだ」
記念式典は天皇が即位した11月にというのが右翼団体の主張だった。「ご長寿と併せてお祝いするのだから、誕生日が最適」と藤波氏は言い続けた。
中曽根氏への批判は自民党内にもあった。86年の総裁選挙を控え、衆参両院同日選挙を仕掛けて、その勝利で政治的影響力を確保しようとする中曽根氏の戦略が浮かび上がり、その警戒感が絡み合った。5月には主要先進国首脳会議(東京サミット)、チャールズ英皇太子ご夫妻来日、などムード盛り上げの日程が詰まっていた。
85年12月22日の内閣制度創始100周年記念式典に中曽根氏が、故陛下を初めて首相官邸に招いたことも、一部から天皇の政治利用ではないか、という声が上がっていた。
天皇の政治利用の問題が目立ち始めたのは田中内閣時代(72年7月―74年12月)からといわれている。
○「国論二分」と反対
「天皇陛下に中国に行っていただこう。そうすれば『戦後』が完全に終わる。初めて大手を振って世界を歩ける」。日中国交回復を実現した田中角栄元首相は在任中、天皇の中国ご訪問で日中関係改善の仕上げをしようとこだわり続けた、と元首相周辺は証言する。繊維問題などできしみが生じた日米関係を天皇の米国ご訪問で打開しようと試みたこともある。
当時、20年近くにわたって宮内庁長官を務め、政治利用に強く抵抗したといわれる宇佐美毅氏が猛反対した。「いま行けば国論が二分する」。元首相もあきらめざるを得なかった。
73年5月には、増原恵吉防衛庁長官が内外情勢報告発言で追及され辞任した。防衛問題の説明に対し、故陛下は「近隣諸国に比べ自衛力がそんなに大きいとは思えない。なぜ問題になっているのか」とお聞きになり、増原氏は「おおせのとおりです。わが国は専守防衛で、野党から批判されるようなものではありません」とお答えした――と増原氏が明らかにした。
野党側は「増原発言は防衛力拡大を狙って天皇を政治的に利用しようとしたもの」と反発。「天皇のおことばは天皇の憲法上の地位からみても容認できない政治的発言」とおことばそのものを追及する声も上がった。憲法論議になるのを恐れ、政府は決着を急いだといわれる。
ソ連軍のアフガニスタン侵攻(79年)について故陛下が「ソ連の膨張主義はピーター大帝以来変わらんね」とお述べになるのを聞いた閣僚経験者もいる。当時公になっていたら、政治利用、政治介入と両面で議論になっていたに違いない。内外情勢報告は、政治とのきわどい接点でもある。
○「再定着」も視野に
天皇の政治利用、と批判された側は「そんな意図は全くない」と否定するのが常だ。在位60年記念式典から2年半余り、中曽根氏周辺に聞いてみた。
「政治利用と受け取られてもやむを得なかったかもしれない。天皇制を再定着させるのが政治の仕事。そのために故陛下に前面に出ていただくのが一番だった」
「自然の感情で」などの快い響きを持った理由付けで、生臭い政治との絡みは、新天皇の時代にも、なお続きそうだ。
《メモ》宮内庁長官
宮内庁は総理府の外局で、長官は認証官。前身である宮内省の長(宮内相)は、内閣からは独立した存在だった。現在の藤森昭一長官は4代目。2代目の宇佐美毅氏は1953年(昭和28年)以来、4半世紀にわたって長官をつとめ、戦後の宮内庁の態勢を作り上げたといわれる。首席内閣参事官、官房副長官などを歴任した藤森氏は、故陛下の万一の場合に備えた起用と見られてきた。
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