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私はこう考える【天皇制について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1989/01/08 朝日新聞朝刊
新天皇への私たちの期待(社説)
 
 「ぼくはいまに天皇になるでしょう」――学習院高等科1年生のとき「将来何になりたいか」との質問にそう答えられた人が即位され、「国民統合の象徴」としてのお仕事を本格的に始められる。
 憲法上、天皇は政治に関与せず、その国事行為は、内閣の助言と承認により行われるものに限定されている。だが実際問題として、外国訪問をはじめ、各種儀式、集会へのご出席、その他折にふれての天皇のご発言は、日本のイメージや国民のムードに大きな影響力をもつ。
 いま、皇太子時代をふりかえると新天皇が幼少の時からみずからの使命を自覚され、「民主主義」「平和主義」など憲法の精神をしっかりと身につけてこられたことに、改めて感銘を受け、安心感を覚える。「陛下、これからもこれまでのペースで」というのが、私たちの率直な願いである。
○平和国家の象徴として
 「明治以後、天皇が政治にかかわりをもたれたこともあったが、本来は政治から中立的で、それらを超えたものであり、今後もそうあらねばならないと思っています」(1972年12月)「天皇が象徴であるというのは、決して戦後にできたものではなく、非常に古い時代から象徴的存在だったといっていいと思います」(1978年8月)といったご発言に示されるように、新天皇の考え方が明治憲法的君主制と無縁のものであることははっきりしている。
 天皇の地位、権限を強化することによって「国民主権」を弱めようとする動きが、昨今日本の一部に見られぬではないが、そうした「民主主義の後退」は、新天皇のご意向にも反しよう。
 「平和主義」についても同様である。「われわれが戦後目ざしてきた平和国家、文化国家の建設というものを、もっともっと切実に求めなければならないのではないか」(1975年8月)といった趣旨のお言葉は機会あるごとに口にしておられる。
 また「終戦記念日、広島、長崎の両原爆の日、それに沖縄戦終結の日の4つは、どうしても記憶しなければならない」(1981年8月)として、この4つの日には、ご家族いっしょに黙とうされるという。広島、長崎とあわせて、沖縄の戦禍を痛ましく感じておられる表れだろう。
 ふさかいゆる木草めぐる戦跡
 (フサケユル キクサミグル イクサアトウ)
 くり返し返し思ひかけて
 (クリカイシガイシ ウムイカキテイ)
 といった琉歌を詠まれていることからも、戦争を二度と起こしてはならないとの強いご意志がうかがわれる。
○伝統尊重と国際協調
 亡くなられた天皇が、個人として平和への強い意欲をもっておられたことに疑いはないが、結果として「天皇」の名の下に戦争が始められ、多くの人が幸せを奪われたのも、また否定しがたい事実である。最近の本島長崎市長の発言にみられるように、決して天皇制打倒論者でない、むしろ保守主義者の中にも「天皇の戦争責任」について、いまだにこだわりをもっている人はかなり見いだせる。
 外国にも、戦争による被害を忘れず、故陛下個人に対して反感を抱いているものがいたのは、まちがいない。
 だが、こうしたわだかまりは、これからの時代の転換によって次第に減り、日本の平和主義、国際協調主義は、これまで以上に抵抗なく受け入れられるものと期待される。
 新天皇は、青年期から外国をよく訪問された。欧米先進国だけでなく、東南アジア、中東、アフリカ、南米、東欧まで、その足跡は皇室では空前といってよいほど広い範囲にわたっている。将来中国、韓国を訪問される可能性もある。また、多方面にわたる外国要人の表敬訪問を受けたという点でも、抜群の実績をもっておられる。
 その国際感覚と豊かな社交性は、誠実なお人柄とあいまって諸外国の対日親近感を増す上で、大きな貢献をした。日本を国際的視野で考える機会に恵まれたという点で、新天皇ほど場数を踏んで来られた日本人は少ないのではないか。浩宮、礼宮のお2人を英国に留学させたのも、若いうちに広い視野を身につけるようにとのご配慮からであろう。
 皇室が日本固有の伝統文化を尊重するのと同時に、国際親善、さらに日本の国際化の先頭に立たれるのは、たいへん有意義、かつ心強いことといえよう。
○親しみの持てるご家庭
 「自然はみんな母の輝きだ
 そして宇宙は父のほほ笑みだ」
 紀宮の詩(1983年)の1節である。「すばらしい家庭」を持っておられることも新天皇のたいへんな強みといえる。
 「結婚して初めてそれまで味わえなかった心の安らぎをえた」「家庭という身近なものの気持ちを十分に理解することによって、初めて国民の気持ちを理解出来るようになるのではないか」・・・さらに「(妻としての美智子妃に)努力賞をあげたい」といわれ、それに対して美智子妃が「私の方で差し上げるとしたら感謝状を」とこたえられるのをきくとき、国民の気持ちは限りなくなごむ。
 こうした姿を「欧米化しすぎた」「マイホーム型にすぎる」「カリスマ性に欠ける」と不満を示す日本人もなくはないが、天皇を神格化し、皇室を庶民感覚から遊離した存在にするのがいかに危険かは、昭和初期の歴史のよく示すところである。
 明治憲法の時と違って「天皇の地位は主権の存する日本国民の総意に基く」(憲法第1条)のであって、「皇室典範」もいまでは国会の多数決で変わる一法律なのである。国民から寄せられる親近感、信頼感こそ、天皇制に不可欠の要素といえよう。
 朝日新聞世論調査によると「皇室に親しみを持っているもの 51%」で、「持っていない 37%」を上回っている(1986年3月)。3年前より上昇機運にあるが、これには新天皇ご夫妻の幅広いご活動、あるいは浩宮にまつわる明るい話題などが、大きく影響したとみられる。若い世代の皇室離れを防ぐためには、菊のカーテンをできるだけ取り払うことが必要――との認識を、政府、とくに宮内庁関係者はぜひもってほしい。
○「開かれた皇室」を
 日本の皇室は、英国の王室を模範にしているようにみえる。たしかに英国民の王室に寄せる尊敬、親近感は、その安定性といい、節度といい、すばらしいものだ。しかし、そのために英国の王室がひごろどれだけの努力をし、またどれだけ寛容とたくましさをもっているかも、学ばねばならない。
 35年前、エリザベス英女王はロンドンでの戴冠(たいかん)式で「――自由な言論、少数者の権利に対する尊敬、思想およびその表現に対する豊かな寛容の精神――これこそわれわれの生活と考え方の精髄なのです」と述べられた。
 この式典には皇太子(新天皇)が出席されたが、取材に当たった斎藤信也本社特派員(故人)は「イギリスでは王室の人々を批判するのは当たり前のことで、この点日本人もみならうべきではないか。ありがたがられるだけでは、国民からかえって遠ざかるだけだ」と指摘している。
 3年余前、英国留学から帰られた新皇太子、浩宮は「これから先、国民の中へ入っていく姿勢が必要」と語られた。国民の多くは「開かれた皇室」を望んでいる。皇室周辺の前例主義、事なかれ主義が、徐々に克服されてゆくことを期待したい。
 
 
 
 
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