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私はこう考える【天皇制について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1986/04/21 朝日新聞夕刊
「天皇」と「皇帝」と(深海流)
 
 先日テレビで井上ひさし氏の芝居『きらめく星座』を楽しんだ。太平洋戦争直前の浅草のレコード店が舞台で、場面は当時の祝日や特別な日――明治節や紀元節や新嘗祭などだった。もちろん新嘗祭は「今は勤労感謝の日」、紀元節は「今は建国記念の日」、明治節は「今は文化の日」と注がつくが、天長節だけ「今も天皇誕生日」となっていた。「今は」でなく「今も」であるのが意味深長である。それとも単に長く続いているということだろうか。
 「天皇在位60年」の式典が近づくにつれ出版物に「天皇」の文字が増えた。過激派は「反」の字つきで論陣を張る。中にはマンガ化して戦犯と書いたブラックユーモアもある。英字紙なら「エンペラー」と刷る。
 「エンペラー」は「皇帝」である。すると、「天皇」は「皇帝」で、「皇帝」なら日本は今も「帝国」なのだろうか。
 そんなことはない。日本国憲法は、「天皇」を「日本国の象徴」、「日本国民統合の象徴」とし、その地位は「主権の存する日本国民の総意に基づく」と規定する。主権者は国民なのだ。大日本帝国憲法では天皇は君主であり元首、つまり「皇帝」だった。宣戦や叙勲の際に「大日本帝国皇帝」と記した時代がある。
 しかし、英字紙の「エンペラー」は、一応まちがっていない。英訳憲法も「エンペラー」だ。憲法改正で日本は帝国でなくなり、「皇帝」もいなくなったのに、外国向けには「皇帝」が存在し続ける。菊の紋章が在外公館に輝き、パスポートを飾る。外人は日本が帝国だと誤解しかねない。
 「天皇」が「皇帝」でなく君主や元首でないのは憲法学界の認めるところだ。とすると「皇后」や「皇太子」という名称は、国際的に「皇帝の后(きさき)」や、「皇帝の世嗣」の意味である以上、日本国憲法下では認められないというのが理屈だろう。外国王室のような「皇室」もないはずだ。皇帝や王や皇后に対する敬称の「陛下」、王族の「殿下」も不適当となりそうである。
 現実は逆で、法的な裏付けがされている。皇室典範で敬称は「陛下」「殿下」と定めているのだ。戦後まるで別物になった憲法とちがい、皇室典範は、多くの条項が戦前、帝国時代のままである。敬称規定はその1つだ。
 国会の構造も帝国議会と変わらない。憲政記念館展示の各国議会の写真を見ると、日本の国会のように舞台式に議場から離され、随分と高い「玉座」は、どの国にもない。英国上院では3段高いが議場と同じ床だ。中国の皇帝に「拝謁」するように、議長らが後ろ向きに歩く習慣もあるまい。
 日本では天皇は今も「皇帝」視され、批判はおずおずする。2・26事件、開戦、終戦―それぞれ異見もあるだろうに。
 たとえば、いわゆる終戦の「御聖断」については、「中央公論」4月号掲載の重光葵元外相の新発見手記によれば、ポツダム宣言を受諾するのに外務省案の天皇制維持のみを申し入れるか、軍部側提案の4つの条件をつけるかの問題があった。結局、天皇は天皇制維持説を裁決し、その通りの回答が連合国に送られたのだという。今になって考えれば、国民を救うということのほかに天皇が天皇制維持説をとるのは当然でもあった。
 敗戦は1年前には明らかになっていた。先ごろ憲政記念館で行われた「昭和激動期の議会政治特別展」陳列の『近衛文麿日記』の昭和19年7月2日は、陸、海軍ともに戦局の「好転の見込絶対になし」とし、東条首相に対して「陛下より厳然たる書面の形式にて御下問あらせらるゝこと至当とす」と書いていた。一体、その後の1年にどれほどの人が死に、家を焼かれたことか。政治に批判の聖域はあってはならず、批判のないところで支持率がいくら高くても、そのまま受け取れはしない。
 「戦後政治の総決算」の声が高い。大日本帝国は朝鮮で1つの帝国を消滅させ、中国で1つの帝国を作り、やがて道連れにして滅ぼした歴史を持つ。「戦前政治の総決算」はどうか。
 (工藤宜編集委員)
 
 
 
 
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