表1. 国後、択捉および千島列島繁殖場におけるトド個体数(単位:頭教)
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国後 |
択捉 |
ブラットチル
ポエフ* |
スレド
ネバ* |
ライ
コケ* |
ロブ
シュキ* |
アンチ
フェローバ* |
繁殖場
合計 |
文献 |
1961 |
|
|
1,600 |
1,000 |
1,000 |
1,850 |
1,600 |
7,050 |
1) |
1963 |
83 |
1516 |
1,500 |
3,000 |
1,000 |
1,518 |
750 |
7,768 |
1) |
1967 |
|
|
|
3,058 |
767 |
1,612 |
1,200 |
|
1) |
1968 |
|
942 |
2,183 |
3,250 |
488 |
1,110 |
917 |
7,948 |
1) |
1969 |
|
1,205 |
1,235 |
3,073 |
654 |
1,062 |
892 |
6,916 |
2) |
1974 |
|
|
934 |
562 |
572 |
1,173 |
|
|
2) |
1975 |
|
493 |
985 |
934 |
539 |
583 |
1,325 |
4,366 |
2) |
1976 |
|
|
993 |
495 |
450 |
695 |
|
|
2) |
1980 |
|
706 |
900 |
404 |
292 |
715 |
968 |
3,279 |
2) |
1981 |
|
490 |
709 |
1,017 |
411 |
564 |
457 |
3,158 |
2) |
1982 |
|
|
914 |
642 |
209 |
507 |
147 |
2,419 |
2) |
1989 |
|
|
585 |
566 |
266 |
760 |
542 |
2,719 |
3) |
1991 |
1 |
224 |
794 |
|
|
|
|
|
4) |
1992 |
|
474 |
|
|
|
|
|
|
5) |
1995 |
|
|
|
443 |
473 |
1,043 |
693 |
|
6) |
1996 |
|
|
733 |
|
361 |
500 |
636 |
|
7) |
1997 |
|
|
537 |
|
341 |
330 |
614 |
|
8) |
1998 |
|
|
751 |
600 |
405 |
|
598 |
|
9) |
1999 |
|
|
433 |
548 |
338 |
829 |
651 |
2,799 |
10) |
2000 |
|
121** |
400 |
562 |
230 |
521 |
372 |
2,085 |
11)、**:12) |
2001 |
|
175 |
|
|
|
|
|
|
13) |
2002 |
|
122 |
|
|
|
|
|
|
14) |
|
*:
トド繁殖場
文献:1)Перлов 1970、2)Кузин et al. 1984、3)Merrick et al.
1990、4)Сахалин Рыбвод 1991、5)極東海獣類研究グループ1992、6〜11)Камчатрывод 1995、1996、1997、1998、1999、2000、12〜14)ビザなし専門家交流報告書
2000、2001、2002
表2. リカルダ岬におけるトドカウントの結果
日付 |
時刻 |
パップ |
パップ以外 |
遊泳 |
合計 |
備考 |
ハレムブル |
オス
成獣 |
その他 |
パップ |
パップ
以外 |
7月21日 |
15:30 |
5 |
7 |
11 |
88 |
0 |
5 |
106 |
|
7月22日 |
6:35(糞採取前) |
27 |
6 |
14 |
82 |
2 |
27 |
104 |
|
|
11:30(糞採取後) |
10+ |
4 |
1 |
41 |
19 |
10+ |
65 |
|
7月23日 |
6:35 |
12 |
6 |
14 |
66 |
- |
12 |
86 |
|
7月25日 |
9:25(糞採取前) |
14 |
5 |
6 |
61 |
1 |
14 |
73 |
イリーナ氏がパップ36頭をカウント |
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表3. 焼印付け個体の再確認
日付 |
場所 |
焼印 |
7月21日 |
リカルダ岬 |
Б163 |
7月22日 |
リカルダ岬 |
С503 |
7月24日 |
択捉:ケンマス漁場の近く |
И255 |
7月25日 |
リカルダ岬 |
Б523 |
リカルダ岬 |
Б604 |
リカルダ岬 |
Б319 |
リカルダ岬 |
С113 |
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(写真、標識場所、年齢等情報収集中)
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方法
鰭脚類・ラッコ班はロサ・ルゴサIIで調査地の沿岸を航行しながら鰭脚類およびラッコを探し、また必要に応じては停船して、双眼鏡とフィールドスコープでカウントと観察を行った。また、ロサ・ルゴサIで鰭脚類班以外の調査員が記録した目撃例も含んでいる。
調査地は国後島のほぼ全域と、択捉島の南端(萌消崎から鳥島にかけて)である。
調査期間は7月12日から7月25日である。ただし、13、15、20日は天候、日程等の関係で調査を行っていない。
I. アザラシ類
本調査ではゴマフアザラシ(Phoca largha)とゼニガタアザラシ(Phoca vitulina stejnegeri)の2種のアザラシが観察された。この両種は北海道の沿岸でも、もっとも普通に見られる種であり、両種とも北方四島と北海道間での行き来が指摘、示唆されている。
(1)国後島
ゴマフアザラシは国後島全体で上陸333頭、遊泳198頭で、計531頭を確認した。一方ゼニガタアザラシは国後島全体で上陸211頭、遊泳5頭で、計216頭が確認された。上に加えて、種判別の出来なかったものが上陸124頭、遊泳40頭の計164頭数えられた。ただし、種判別できなかった数の中にはブリスキー島での確認数(遊泳27頭、上陸71頭、計88頭)が含まれており、その3〜4割がゼニガタアザラシ、残りはゴマフアザラシであると思われる。
種判別されたアザラシ類747頭のうち71%がゴマフアザラシという結果で、国後島においてはゼニガタアザラシよりゴマフアザラシが優先していることが示された。
太平洋側に9箇所、オホーツク海側9箇所、島全体で18箇所の上陸岩礁を確認した。上陸岩礁は、均等に散在しているのではなく、太平洋側では荒島周辺、礼文岩周辺、そしてスパコイニイより東部の三地域と、全体に東部に偏っていた。オホーツク海側でも、ルルイ岳のふもとより東(以下、オホーツク海側東部)に偏っていたが、ブリスキー島とオームイ周辺の2上陸場は島の西部(以下、オホーツク海側西部)であった。遊泳は上陸岩礁周囲でしかまとまった数はみられなかったが、太平洋側の西部のキナシリ周辺でまとまった数(ポッケ崎から羅臼崎の間に103頭、なかでもオショウス、キナシリの辺りに集中していた)のゴマフアザラシの遊泳が見られたので、調査船接近前にはそのあたりにもゴマフアザラシが上陸していた可能性もある。ルルイ岳東に位置する上陸場からオームイ周辺までの間は、上陸だけでなく遊泳もまったく確認されなかった。
太平洋側の上陸岩礁のうち荒島周辺の1箇所とスパコイニイ東部の1箇所、合わせて2箇所のみゼニガタアザラシの上陸場となっており、残りのうち種判別できなかった1箇所を除いて、6箇所すべてゴマフアザラシの上陸場であった。一方、オホーツク海側の上陸場は4箇所がゴマフアザラシ、4箇所がゼニガタアザラシ、1箇所(ブリスキー島)は両種が混在して見られた。
確認されたアザラシ類911頭のうち57%(515頭)が太平洋側、27%(249頭)がオホーツク海側東部、23%(122頭)がブリスキー島やオームイ周辺(以下、オホーツク海側西部)で確認された(残りの3%程度は根室海峡での散在的な遊泳個体)。太平洋側で確認され、かつ種判別されたアザラシ349頭のうち97%(338頭)がゴマフアザラシであった。また、オホーツク海側西部で種判別されたアザラシ類49頭のうち98%がゴマフアザラシ(48頭)であった。一方、オホーツク海側東部で種判別された298頭のうち、ゴマフアザラシは65%(193頭)に過ぎなかった。オホーツク海側東部の中でも特にルルイ岳の周囲では、4箇所の上陸岩礁が確認されたのだが、ゼニガタアザラシしか確認されなかった。ただし、ゼニガタアザラシの最大の上陸場はルルイ岳周囲ではなく、82頭の上陸を確認した荒島の東に位置する上陸場であった。
今回の調査期間中に、荒島の東に位置するゼニガタアザラシの上陸場において、糞採取を行った。ロシア側研究者に日本側で用意した糞採取用の袋などを預け、ロサ・ルゴサIIIで岩礁に接近、上陸して、糞を採取してもらった。結果、6個の糞を採取することができた。糞採取を行う前の監察で、その岩礁にはゼニガタアザラシしか確認されなかったので、これらの糞はゼニガタアザラシのものであると考えられる。糞は冷凍保存した。今後、未消化物や脂肪酸等を解析し、食性調査に用いる予定である。
(2)択捉島
択捉島は鳥島からトド島までの島の南部のみ観察を行った。
択捉島でも国後島と同じ2種が見られた。確認頭数はゼニガタアザラシ上陸約429頭、遊泳37頭の計約466頭。ゴマフアザラシは遊泳のみ2頭。種判別できなかったものが上陸33頭、遊泳12頭の計45頭確認された。種判別されたもののうち99.6%がゼニガタアザラシで、国後島とは異なり明らかにゼニガタアザラシの方が優先している様子が観察された。萌消島とトド島の東に位置する岩礁では、詳細にカウントできず、それぞれ約140頭、約70頭としたので、確認数は「約」で表現した。
観察域内では15箇所での上陸岩礁が観察された。上陸岩礁は大きく鳥島、択捉島南端のベルタルベ山の周囲、萌消島周辺、ポロノツ鼻東部、トッカリ萌崎の西、野斗路岬からカシコシモイ漁場の6地域に分けられる。この6地域のうち、4地域はオホーツク海側にあり、鳥島だけが太平洋側、そしてベルタルベ山の周囲の岩礁の多くが国後水道に面している。萌消島周辺は2つの岩礁からなり、約202頭(択捉で確認されたゼニガタアザラシの約44%)のゼニガタアザラシの上陸が確認され、非常に大きな上陸場であることが確認された。また、野斗路岬からカシコシモイ漁場にかけても、約123頭という多数の上陸を確認した。上記の大きな2つの上陸揚はともにオホーツク海側に存在するが、太平洋側の鳥島でも45頭の上陸を確認し、決して小さな上陸場ではない。
今回得られた、観察結果はいずれも、過去の報告と矛盾するものではなかった。
ゴマフアザラシとゼニガタアザラシの上陸場の選択性に違いが見られた。国後島内ではゼニガタアザラシの上陸場がオホーツク海側のルルイ岳周囲に偏っていた。また国後島と択捉島を見ると、国後島はゴマフアザラシが、択捉島はゼニガタアザラシが優先しいている。その理由ははっきりとは分からないが、冬季の流氷域との地理関係や海底地形、海洋環境との関係が考えられる。海洋環境班の調査結果では、太平洋側とオホーツク海側の間、そして国後島と択捉島の間には、違いがあるようである。現時点で詳細な検討はできていないが、アザラシ類の分布に相関があるかもしれない。今後、そういった視点で広く環境を調査し、考察を深めていく必要がある。
上陸場は両種のアザラシにとって休息の場であり、またゼニガタアザラシにとっては出産、子育ての場でもある。7月から8月は両アザラシの換毛期であり、新陳代謝を高めるため上陸が増えると言われている。ある一時期だけの観察から上陸場の重要性を論ずることはできないが、この時期に使われている主要な上陸場は換毛促進の場として重要性を持つことが示唆される。
II. ラッコ(Enthydra lutris)
国後島周辺では根室海峡(オンネクスナイ沖)、チフンベツ沖、スパコイニイ岬周辺、アトイヤ岬の西に各々1頭ずつの計4頭が確認された。
択捉島ではビョーノーツ崎からブッソウ崎で21頭(親子3組含む)、ベルタルベ山の南から西にかけて34頭(親子12組含む)、萌消島周辺に10頭(親子2組含む)が確認され、この3地域に集中して、計65頭が確認され、択捉島全体73頭の89%を占めた。集中して見られた場所以外では単独の個体が散在しているのが見られた。択捉島でみられたラッコには母親とその腹の上にのったこどもという形で17組の親子が含まれていた。特にベルタルベ山の西側では12組の親子が集まったグループが観察された。
上のように、国後島にはラッコはほとんどおらず、一方択捉島では非常にたくさんのラッコが確認された。このことは過去の報告に一致している。
近年、北海道沿岸でもラッコが頻繁に目撃されている。今後の北海道への来遊を予測し、また適切な保全を進めるためにも、北方四島海域での調査、現状把握は重要であると考えられる。
III. キタオットセイ(Callorhinus ursinus)
国後島周辺では根室海峡で1頭、礼文磯沖で1頭、国後水道で3頭の計5頭を、択捉島周辺ではクンネウエンシリ鼻の西に1頭、六甲沖に2頭、内保湾の沖に1頭の計5頭を確認し、両島合わせて計9頭のキタオットセイが確認された。いずれも若い個体で、また島から離れた沖での遊泳であった。過去の調査でもこの両島での上陸は報告されておらず、繁殖場としては使われていないようである。
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