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はじめに
 本報告書は、競艇の交付金による日本財団の平成15年度助成事業として、社団法人海洋産業研究会が実施した。「変異型イチイヅタ(キラー海藻)の繁茂等に関する実態調査」事業の成果をとりまとめたものである。
 変異型イチイヅタ(Caulerpa taxifolia, 通称・キラー海藻)は地中海で大繁茂し、海洋生物が死滅する等の沿岸生態系の破壊や漁獲の減少を引き起こしている。1984年に1m2の変異型イチイヅタ(キラー海藻)群落が発見された地中海では、船の投錨、漁船の網、バラスト水、水族館観賞用等の人為的な要因により2003年には13,000ha以上へと繁茂域を拡大し、さらに北米、豪州へもその分布を拡大させた。
 わが国においては、1992〜93年に能登半島沿岸で一時的な繁茂が確認されたが、現在の所、実海域でキラー海藻が定着しているとの報告はない。しかし、ひとたび移入、定着すると、驚異的な勢いで日本沿岸に繁茂域を広げ、沿岸の植物生態系を破壊する恐れが強い。ひいては、植物生態系の上に成り立っている動物生態系をも破壊し、わが国水産業に多大なる打撃を与えることとなる。
 そこで、移入後に想像される大規模な混乱を未然に防ぐため、事前のキラー海藻対策が必須である。本調査では、こうした認識にもとづいて、キラー海藻対策の第1段階として、海外において蓄積された研究知見のとりまとめを行い、キラー海藻の実態把握を行うこととした。このことにより、国内におけるキラー海藻に関する知見を周知し、一般化することを目的とし、以下の調査を実施した。
 調査作業については、諸外国の学術論文等から現在までの知見を整理する形で実施した。<生理、生態的特徴の把握>としては、すでに大きな被害を受けているフランス地中海岸を中心に欧米における資料を整理することで、キラー海藻の種としての実態を把握した。また<被害実態>については、キラー海藻が諸外国において水産業や生態系に与えた悪影響に関する資料整理を行い、被害の実態について把握した。
 わが国におけるキラー海藻の移入、定着の実際は不明であるが、海外からの移入種による陸域・海域の生態系破壊が危惧されている昨今、移入可能性の高い同種の予防措置が必要である。沿岸生態系や水産業への多大な打撃がないよう、ここでの調査結果が活用されることを願う。
 最後に、本調査にご協力、ご助言をいただいた有職者の方々に深く感謝の意を表するものである。
 
平成16年3月
社団法人 海洋産業研究会
 
I-1. 調査目的
 変異型イチイヅタ(通称・キラー海藻)は、地中海で大繁茂し、海洋生物が死滅するなどの沿岸生態系の破壊や漁獲の減少を引き起こしている。我が国でも、1992〜1993年に能登半島沿岸で一時的な繁茂が確認されている。1984年に1m2の群落が発見された地中海では、『船の投錨』『漁船の網』『バラスト水』『水族館観賞用』等の人為的な要因により1988年には5,000haへと繁茂を拡大し、北米、欧州へも拡大している。我が国では、変異型イチイヅタの定着は不明だが、海外からの移入種による陸域・海域の生態系破壊が危惧されている昨今、移入可能性の高い変異型イチイヅタ(キラー海藻)への予防措置も必要である。
 本調査では、これらを踏まえ、移入に伴う沿岸生態系や水産業への多大な打撃が無いよう、欧米での変異型イチイヅタの種の生理・生態や被害状況などに関する研究事例を収集し整理する。このことにより、変異型イチイヅタ(キラー海藻)に関する知見を国内に広く周知することを目的とする。
 
図I-1. 海草藻場を覆い尽くしたキラー海藻
 豊かな藻場は消失している。中央は、枯死した海草Posidonia oceanica
 
 変異型イチイヅタ(キラー海藻)の繁茂等に関して、既に被害が拡大している海外を中心に、変異型イチイヅタ(キラー海藻)に関する既往資料を網羅的に収集することにより実態調査を行う。
 なお、収集する既往知見は、諸外国を中心に以下の資料とした。
・出版された一般書籍
・学術雑誌に発表された、学術論文・報告など
 
 また、単に「イチイヅタ」と表記された資料にも、多くの場合変異型イチイヅタ(キラー海藻)に関する情報が含まれていることからイチイヅタ野生種に関する資料を含めて、広く収集対象とした。
 
 収集された様々な資料を、その記述されている内容から次の4ジャンルに文献を分類した。
・分類学的位置付けに関する資料
・生理的特徴に関する資料
・生態学的特徴に関する資料
・被害状況及び、影響に関する資料
 
 また、各分類結果を、変異型イチイヅタ(キラー海藻)に関する資料とイチイヅタ野生種に関する資料にさらに分類した。
 さらに、各ジャンルの主要な文献についてはその内容を整理し、文献調査票として内容をとりまとめた。
 
 新旧文献を網羅的に収集し、243編のイチイヅタに関する文献を得た。これらを、記述されている内容から『分類学的位置付けに関する資料』『生理的特徴に関する資料』『生態学的特徴に関する資料』『被害状況及び、影響に関する資料』の4ジャンルに分類した結果を以下に示す。さらに、各分類結果は、さらに変異型イチイヅタ(キラー海藻)に関するものとイチイヅタ野生種に関するものに分類した。収集文献については、第1著者名のアルファベット順(同じ研究者による複数の論文は、その発表順)にリストアップした。
 また、各分類のうち主要な資料については、その詳細把握のために文献調査票として計27編の資料を掲出した。文献調査票は、文献の発表された順に掲出した。
 
II-1-1. 収集文献リスト
 分類学的位置付けに関する資料として、以下に示した変異型イチイヅタ(キラー海藻)に関する資料9編、イチイヅタ野生種に関する資料1編の計10編を収集した。
 3編の文献より文献調査票を作成した。
 
(1)変異型イチイヅタ(キラー海藻)に関する資料
1) CAYE G., SANDMEIER M., MICHAULT C., PILLEN T., MEINESZ A. (2001). Preliminary study on enzyme polymorphism of Caulerpa taxifolia from the Mediterranean and of other origins. Fourth International Workshop on Caulerpa taxifolia, GIS Posidonie publ., Fr. 19-22.
2) CHISHOLM J.R.M., JAUBERT J.M., GIACCONE G. (1995). Caulerpa taxifolia in the northwest Mediterranean: introduced species or migrant from the Red Sea? C. R. Acad. Sci. Paris, Sciences de la vie/Life sciences 318:1219-1226.
3) JOUSSON O., PAWLOWSKI J., ZANINETTI L., MEINESZ A., BOUDOURESQUE C.F. (1998). Molecular ezidence for the aquarium origin of the green alga Caulerpa taxifolia introduced to the Mediterranean sea. Marine Ecology Progress Series. 172: 275-280.
4) JOUSSON O., PAWLOWSKI J., ZANINETTI L., MEINESZ A., BOUDOURESQUE C.F. (2001). IntraIndividual genetic polymorphism in Caulerpa taxifolia populations and related Caulerpa species. Fourth International Workshop on Caulerpa taxifolia, GIS Posidonie publ., Fr, 12-18.
5) MEINESZ A., BENICHOU L., BLACHIER J., KOMATSU T., LEMEE R., MOLENAAR H., MARI X. (1995). Variations in the structure, morphology and biomass of Caulerpa taxifolia in the Mediterranean Sea. Bot. Mar. 38: 499-508.
6) MEINESZ A., BOUDOURESQUE C.F. (1996). Sur l'origine de Caulerpa taxifolia en Méditerranée. C. R. de l'Académie des Sciences 319: 603-613.
7) METER U., MEINESZ A. (2001). Inquiry on the aquarium cultivation of Caulerpa taxifolia in Europe before its introduction into the Mediterranean sea. Fourth International Workshop on Caulerpa taxifolia, GIS Posidonie publ., Fr. 7-11.
8) PIGHINI M., DINI F. (2001). Insights into the basis of variation among populations of Caulerpa taxifolia. Fourth International Workshop on Caulerpa taxifolia, GIS Posidonie publ., Fr. 23-29.
9) VERLAQUE M. (1994). Inventaire des plantes introduites en Méditerranée: origines et répercussions sur l'environnement et les activites humaines. Oceanologica acta, 17(1): 1-23.
 
(2)イチイヅタ野生種に関する資料
1) MATTOX K.R., STEWART K.D. (1984). Classification of the green algae. A concept based on comparative cytology. Systematics association special vol. n°27. Systematics of the green algae. Irvine D.E.G., John D.M. edit., Acad. Press Inc. publ. London, England. 449 p.







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