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図2
 
事故又はインシデントの進展の段階
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図3
 
生産活動モデルによる分析
 生産活動モデルによる分析は、その活動を5つの要素に分けていずれかをめぐる発生事象と状況に関する情報を整理するものである。事故を招くことになる事象や状況は、必ずしも事故現場または、時間的にも近接しているものとは言えないことから、この生産活動要因別に整理する本分析は重要な系統要因の抽出に役立つものとされている。
 本件を各要素に当てはめると、次のようになる。
 
 
第1要素 組職と意思決定者(規制、監督等の機関、企業等)
【運航者(COSCO)】 ◎不十分な安全管理体制 ◎不十分な乗組員に対する教育・訓練
・自動制御システムの保守と検査を自ら行わず、その確認をノルウェー船級協会に頼っていたため、本船の自動制御システムが正常に機能していなかった
・推進力喪失などの緊急時に対応する主機自動制御のオーバーライド機能を使用する方針を乗組員に対して規定していなかった
【SOLAS条約の規定にかかわる事項】◎不十分な規制
・定期的に無人となる機関室のための自動制御の検査手順を義務付けていない。
・自動制御システム使用に関する研修や訓陳の必要に対応するための標準手順書の備え付けを義務付けていない。
・Vessel Event Recorderの装備を義務付けていない。装備されていればBRMが果たしたであろう役割を著しく高めたであろう。
【CFR33連邦規則にかかわる事項】◎不十分な規制
・タンカー以外の船舶に制限水域等における機関室の配員を義務付けていない
・自動制御のオーバーライド機能の使用可否、水先人への手順連絡の要件を定めていない
・制限水域を航行中に錨操作員の配置が必要とされるかどうかについて明らかにしていない
・機関室自動制御システムのSOLAS条約により装備が義務付けられる可視可聴警報機について、発航前検査を明らかにしていない
・USCGのPSC船上検査には、自動制御システム及びこれらのシステムに関する訓練や保守記録の検査は含まれない
・船舶技術系統に関する試験手順、マニュアル、その他の文書の搭載要件を含んでいない
・制限水域航行船にガバメント・ニコル又はグレトナの灯台オペレータとのVHF67chの連絡を義務付けていない
【USCGにかかわる事項】◎不十分な安全の推進
・海洋安全情報システムに入っている船舶事故記録へ水先人等が容易にアクセスできる手段がなかった
・乗客を乗せて係留する旅客船の保護対策に関する全国規模の方針が定められていなかった
・船橋監視を命じた船舶についても避難命令の能力と権限について監視員の資格が明確でなかった
【DNVノルウェー船級協会規則にかかわる事項】◎不十分な基準
・自動制御システムの自動減速及び自動停止機能に情報を送る温度及び圧力センサーの校正確認を義務付けていない(国際船級協会も同様)
・本事故調査で証拠として扱われた自動制御の4つの検査手順は、ノルウェー船級協会の検査プログラムの一部として使用することが可能(国際船級協会も同様)
・同協会承認の検査プログラムを整備し、自動制御システムの体系的な保守や機能検査のために計画的に利用することを義務付けていない
・機器に障害が発生した際、船主と操船者が行う通知について要件があいまいであり、報告すべき重要な船舶システムが具体的に示されていない
・ノルウェー船級協会検査官はCOSCOが積極的な保守や検査を行うための要件を省くことを許した
【水先人会にかかわる事項】◎不十分な安全の推進
・ミシシッピー川の航行情報、特有な操船に関する情報を外国人乗組員に十分に提供していない
【ニューオーリンズ海事安全事務所】◎不十分な安全の推進
・管内水域内での係留旅客船のリスク評価を実施していなかった
 
第2要素 作業場と管理者
【前機関長にかかわる事項】◎不十分な保守管理
・主機の保守に関する訓練と経験が欠けており、主機潤滑油サンプに十分な量の潤滑油を維持していなかった
・以前(少なくとも6ヶ月前)から主機に存在した問題に適切に対処せず、潤滑油に多量の微粒子がたまっていたことを放置した
・主機の故障と修理が継続して発生していることなどをノルウェー船級協会の要件を満たしていなかったが、これらを通知していなかった
【機関長にかかわる事項】◎不十分な保守管理
・以前(少なくとも6ヶ月前)から主機に存任した問題に適切に対処せず、潤滑油に多量の微粒子がたまっていた
・主機の運転が不適切及び保守が不十分で、エンジンメーカーの定める規格を満たしていない潤滑油を使用しており、潤滑油の汚染が進行していた
・主機の故障と修理が継続して発生していることなどをノルウェー船級協会の要件を満たしていなかったがこれらを通知していなかった
・第2主機潤滑油ポンプの調整を怠った
【船長にかかわる事項】◎不適切な作業手順
・船舶が直面していた緊急事態について機関長に連絡しなかった
・汽笛信号のため船首配置員との携帯無線機による連絡ができなかった
【水先人にかかわる事項】◎不十分な情報管理
・水先人は、船長から故障歴や大修理の情報を得るために積極的な行動を起こさなかった
 
第3要素 前提条件
【人間と機関の不一致】
◎不良な主機関潤滑油の状態
・エンジンメーカーの指定する規格の潤滑油を使用していなかった
・以前(少なくとも6ヶ月前)から主機の潤滑油に多量の微粒子が溜まっていた
・油溜まりを掃除していなかった
・主機サンプに十分な潤滑油が補充されていなかった
◎不適切な主機関の操作状態
・第2主機潤滑油ポンプが待機モードとなっていなかった
・潤滑油ポンプの油圧センサーの較正が不適切であった
【人間と人間の不一致】
・船長が水先人に対し主機の故障歴や大修理の状況などを事前に報告していなかった
・水先人は、船長からこれらの情報を得るために積極的な行動を起こさなかった
 
第4要素 生産活動と作業者(即発的失敗)
計画エラー(意図した行為)→ミスティーク→ルールベースの行動→経験則・先入観
◎前機関長は主機関を正常に保つための保守、点検を行っていなかった。
◎機関長は主機関を正常に保つための保守、点検を行わなかった。
◎機関長、機関士は、第2主機関潤滑油ポンプを待機状態としなかった
◎船長と水先人との情報共有の失敗
 
第5要素 防護 ※機関関係の警報装置のみ記載
◎第2潤滑油フィルターの油圧差警報機が適切に作動しなかった
◎主機関サンプの潤滑油減少に関する警報機が警報作動点に達しても警報を発せずに運転できるように調整されていた
◎テラサキ製WE3警報システム及び監視システム用の第1モニターが作動していなかった







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