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 海難審判庁採決録 >  2003年度(平成15年) > 死傷事件一覧 >  事件





平成15年神審第50号
件名

遊漁船第三蛭子丸釣客負傷事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成15年12月4日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(中井 勤、竹内伸二、平野研一)

理事官
前久保勝己

受審人
A 職名:第三蛭子丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
釣客が腰椎圧迫骨折及び頸部捻挫

原因
船体動揺時の釣客に対する安全措置不十分

主文

 本件釣客負傷は、船体動揺時の釣客に対する安全措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年2月15日07時40分
 京都府丹後半島東方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 遊漁船第三蛭子丸
総トン数 4.4トン
全長 12.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 209キロワット

3 事実の経過
 第三蛭子丸(以下「蛭子丸」という。)は、平成7年7月に進水し、航行区域を近海区域とする、最大搭載人員9人の一層甲板型FRP製小型遊漁船で、船首側から船首甲板、前部甲板、及び船体中央部のやや船尾寄りに釣客4ないし5人を収容できる客室及び操舵室を有する構造物が配置され、その後方が後部甲板となっていた。
 蛭子丸の前部甲板は、長さ約3.5メートル幅約2.4メートルで、両舷側に高さ約60センチメートルのブルワークが設けられていた。
 蛭子丸は、平成4年2月3日に一級小型船舶操縦士免許を取得したA受審人が1人で乗り組み、釣客Mほか1人を前部甲板に、他の釣客2人を後部甲板に乗せ、遊漁の目的で、船首0.7メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、同15年2月15日07時20分京都府養老漁港を発し、同府与謝郡伊根町沖合の釣場に向かった。
 ところで、A受審人は、蛭子丸の新造時から遊漁業を営んでおり、長年の経験により、気象及び海象が平穏であっても、京都府鷲(わし)埼から同府新井(にい)埼にかけての沖合では、潮流及びうねりなどの影響を受けて比較的大きな波浪が発生する場合があることを十分に承知していた。
 出港後蛭子丸は、風浪が弱かったことから、港外に出たのち、主機を回転数毎分2,200に増速し、17.0ノットの対地速力で手動操舵により鷲埼沖合に向け東行した。
 07時35分A受審人は、丹後鷲埼灯台から090度(真方位、以下同じ。)550メートルの地点に至り、鷲埼を替わって針路を026度に定め、17.0ノットの対地速力のまま北上を始めたところ、海面状態が急変し、船首方から波高約1メートルのうねりを受け、船首部が上下動を繰り返す状況となったことを認めたが、過去の経験からこの海域では特異な海象となる場合があることを承知していたものの、この程度の船体動揺では大事に至ることはあるまいと思い、減速したうえ前部甲板上にいた釣客を客室に移動させるなどの安全措置をとらなかった。
 こうして、蛭子丸は、船首方からの波高が約1.5メートルに増大するなど海面状態がさらに悪化し、船首部の著しい上下動にともなって、海面がその船底部を叩く状況のもと、依然として原針路及び原速力のまま続航していたところ、07時40分丹後鷲埼灯台から033度2.1海里の地点において、一際高い波を受けて船首部が大きく上下動したとき、船首近くの前部甲板上左舷側で同甲板上に置いたクーラーボックスに腰掛けていたM釣客が、跳ね上げられ、甲板に臀部を強打した。
 当時、天候は曇で風力4の西風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、北北東方から波高1.5ないし2メートルのうねりがあった。
 A受審人は、釣客から負傷の事実を告げられなかったので、このことに気付かぬまま予定していた釣場に至って遊漁を開始したものの、まもなくM釣客から激痛を訴えられ、急遽養老漁港に帰港し、救急車の手配をした。
 その結果、M釣客は、最寄りの病院に搬送され、第5腰椎圧迫骨折及び頸部捻挫と診断された。 

(原因)
 本件釣客負傷は、京都府丹後半島東方沖合において、釣場に向け北上中、岬を替わったのち海面状態が急変し、うねりのため船首部が著しく上下に動揺する状況となった際、釣客に対する安全措置が不十分で、前部甲板上にいた釣客が跳ね上げられ、同甲板上に落下したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、京都府丹後半島東方沖合において、釣場に向け北上中、鷲埼を替わったのち、海面状態が急変し、うねりのため船首部が著しく上下に動揺する状況となったことを認めた場合、続航すれば前部甲板上にいる釣客に危険な事態を生じるおそれがあったから、減速したうえ客室に移動させるなどの同釣客に対する安全措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、この程度の船体動揺では大事に至ることはあるまいと思い、減速したうえ客室に移動させるなどの同釣客に対する安全措置をとらなかった職務上の過失により、船体動揺によってクーラーボックスに腰掛けていた同釣客が跳ね上げられる事態を招き、甲板に臀部を強打した同釣客に第5腰椎圧迫骨折などを負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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