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 海難審判庁採決録 >  2003年度(平成15年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成15年門審第71号(第1)
平成15年門審第74号(第2)
件名

(第1)漁船第八恵比須丸浸水事件
(第2)漁船第八恵比須丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成15年12月17日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(安藤周二、長谷川峯清、千葉 廣)

理事官
大山繁樹

受審人
A 職名:第八恵比須丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
(第1)・・・集魚灯用交流発電機、同安定器及び充電用直流発電機等を濡損
(第2)・・・主機全シリンダのピストンとシリンダライナとの摺動面に縦傷の損傷

原因
(第1)・・・主機清水冷却器の整備及び機関室の見回りが不十分
(第2)・・・主機空気冷却器冷却海水の漏洩点検不十分

主文

(第1)
 本件浸水は、主機清水冷却器の整備及び機関室の見回りがいずれも不十分で、冷却海水が漏洩して滞留したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
(第2)
 本件機関損傷は、主機空気冷却器冷却海水の漏洩点検が不十分で、漏水によりピストンとシリンダライナの潤滑油膜が途切れたことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
(第1)
 平成14年7月25日02時00分
 長崎県対馬上島東方沖合
(第2)
 平成14年8月5日17時20分
 長崎県対馬上島東方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八恵比須丸
総トン数 10.29トン
全長 15.50メートル
2.94メートル
深さ 1.23メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 176キロワット
回転数 毎分2,000

3 事実の経過
(1)第八恵比須丸
 第八恵比須丸(以下「恵比須丸」という。)は、昭和53年2月に進水した、いか一本釣り漁業に従事する一層甲板型FRP製漁船で、上甲板中央部に機関室囲壁、同壁船尾方に操舵室及び船員室並びに上甲板下部の船首側から順に倉庫、3区画の魚倉、機関室、集魚灯用安定器室及び操舵機室がそれぞれ配置され、上甲板の左右両舷側にいか釣り機及び上方に集魚灯が装備されていた。
(2)機関室
 機関室は、長さ4.2メートル幅2.9メートル高さ1.2メートルで、囲壁右舷側に引き戸が設けられ、船首側に集魚灯用交流発電機及び充電用直流発電機、中央部に主機及び逆転減速機、船尾側に電動式ビルジポンプ並びに左右両舷側に集魚灯用安定器がそれぞれ設置されていた。
(3)主機
 主機は、同62年6月換装時に設置された、ヤンマーディーゼル株式会社製造の6HAK-HT型と呼称される間接冷却方式ディーゼル機関で、遠隔操縦装置が操舵室に備えられていた。
 主機の冷却海水系統は、機関室船底の船体付弁から直結駆動回転式の冷却海水ポンプに吸引されて約0.8キログラム毎平方センチメートル(以下、圧力の単位を「キロ」という。)に加圧された冷却海水が、多管式の清水冷却器、空気冷却器、再び清水冷却器、潤滑油冷却器及び逆転減速機用潤滑油冷却器の各冷却管を順に通った後、同室左舷側の排出口から船外へ至る経路になっており、同ポンプ出口から清水冷却器入口間の配管として、長さ270ミリメートル(以下「ミリ」という。)内径50ミリ厚さ5ミリのゴムホースが装着され、その両端が金属製ホースバンドで固定されていた。なお、冷却海水圧力を示す圧力計は、装備されていなかった。
 一方、主機の潤滑油系統は、クランク室底部の油受から直結駆動の潤滑油ポンプに吸引された潤滑油が、潤滑油こし器、潤滑油冷却器及び潤滑油主管を順に経て各部に分岐し、ピストンとシリンダライナとの摺動面(しゅうどうめん)等を潤滑した後、油受に戻る経路で循環しており、クランク室のオイルミストを排出するガス抜管の先端が操舵室前方に導かれていた。
 また、主機は、給気が過給機ブロワから空気冷却器及び給気マニホルドを経て各シリンダの燃焼室へ送り込まれており、給気の凝縮によるドレンの排出用と空気冷却器冷却海水の漏洩点検用を兼ねるプラグが給気マニホルド下部に装着され、運転保守の注意事項として運転の都度、給気マニホルドのドレンを排出することのほか、定期的に清水冷却器の冷却管を洗浄することなどが取扱説明書に記載されていた。
(4)受審人A
 A受審人は、同50年2月に一級小型船舶操縦士の免許を取得し、平成3年4月に恵比須丸を購入した後、船長として乗り組み、長崎県琴漁港を根拠地とし、周年にわたり同漁港沖合の漁場で集魚灯を点灯して日没から翌朝まで操業を行い、操船のほか主機の運転保守にあたっていた。
(5)発生に至る経緯
(第1)
 A受審人は、主機の冷却海水系統について、長期間清水冷却器の冷却管の洗浄を行わないまま、各冷却器の保護亜鉛を適宜に交換し、平成12年1月に冷却海水ポンプのインペラを、同年5月に同ポンプ出口のゴムホースをそれぞれ取り替え、同14年2月中旬以降、不漁のために操業回数が少なく、月間に70時間ばかりの運転を繰り返し、平素、冷却海水の船外排出状況を確かめていた。
 ところで、主機の冷却海水系統は、いつしか海水によるスケール等が清水冷却器の冷却管に付着し、冷却管が徐々に詰まったことから、冷却海水の通水が妨げられ、冷却海水ポンプ出口の圧力が上昇した影響でゴムホースの疲労による劣化が進行していた。
 しかし、A受審人は、主機の冷却海水が船外へ排出されていたことから支障がないものと思い、業者に依頼のうえ清水冷却器の冷却管を洗浄液に浸すなどして整備を行うことなく、冷却海水ポンプ出口の圧力が上昇したまま、運転を続けていた。
 恵比須丸は、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.4メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、同年7月24日17時00分琴漁港を発し、同時25分同漁港東方沖合の漁場に到着して漂泊した後、主機を回転数1,850(毎分回転数、以下同じ。)にかけ、集魚灯用交流発電機を駆動して操業中、冷却海水ポンプ出口のゴムホースの長さ方向に亀裂が生じ、冷却海水が漏洩する状況になった。
 ところが、A受審人は、操舵室にいて機関室の見回りを行うことなく、その状況に気付かないまま操業を続けた。
 こうして、恵比須丸は、主機の冷却海水が漏洩して機関室に滞留し、集魚灯用交流発電機及び同安定器等が冠水する事態になり、翌25日02時00分琴埼灯台から真方位086度4.3海里の地点において、点灯中の集魚灯が消えた。
 当時、天候は晴で風力1の東風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、操舵室で集魚灯が消えたことに気付き、機関室囲壁の引き戸を開いたところ、機関室の浸水を認め、主機を停止して付近の僚船に救助を求めた後、移動式雑用ポンプを用いて排水を行った。
 浸水の結果、恵比須丸は、集魚灯用交流発電機、同安定器及び充電用直流発電機等が濡損し、僚船により琴漁港に曳航された後、各機器が取り替えられた。
(第2)
 平成14年8月4日恵比須丸は、浸水(第1)により濡損した各機器の取替え並びに主機について、冷却海水ポンプ出口のゴムホースの新替え、清水冷却器の冷却管に付着したスケール等を除去する整備及び潤滑油の交換等の工事を終了した。
 主機は、清水冷却器の冷却管の詰まりが解消されたので、冷却海水が空気冷却器へ十分に通水され、経年腐食していたフィン付冷却管と管板との取付部に掛かる水圧が強まり、同海水が腐食箇所から漏洩して給気マニホルドにたまる状況になっていた。
 A受審人は、翌5日夕前示工事終了後に初めて出漁することとし、主機を始動した際、給気マニホルドにはドレンがたまらないものと思い、これまでドレンの排出を行っていなかったことから、プラグを取り外すなどして空気冷却器冷却海水の漏洩の有無を点検することなく、同漏洩に気付かないまま運転を続けた。
 こうして、恵比須丸は、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.4メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、同日17時00分琴漁港を発し、同漁港東方沖合の漁場に向け、回転数1,900にかけて航行中、空気冷却器の前示腐食箇所から給気とともに給気マニホルドを経て燃焼室に入った漏水によりピストンとシリンダライナとの摺動面の潤滑油膜が途切れ、17時20分琴埼灯台から真方位069度2.2海里の地点において、同摺動面が部分的に焼き付き始め、クランク室のオイルミストが増加し、潤滑油がガス抜管の先端から滴下した。
 当時、天候は晴で風力1の南西風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、操舵室で主機のガス抜管の先端から滴下する潤滑油を認めたものの、ふき取って様子を見ながら同漁場に至り、いつものとおり操業を行ってイカ約40キログラムを漁獲したところで操業を終え、翌6日04時00分帰途に就き、主機を回転数1,900にかけて航行中、同管の先端から滴下する潤滑油を再び認めて不審を抱き、琴漁港に帰港後、業者による点検のため、長崎県芦見漁港に回航した。
 恵比須丸は、主機が精査された結果、全シリンダのピストンとシリンダライナとの摺動面に生じた縦傷が判明し、ピストン及びシリンダライナが取り替えられた。

(原因)
(第1)
 本件浸水は、主機清水冷却器の整備が不十分で、冷却管の詰まりにより冷却海水ポンプ出口の圧力が上昇したまま運転が続けられ、ゴムホースに亀裂が生じたこと及び機関室の見回りが不十分で、操業中、冷却海水が漏洩して滞留したことによって発生したものである。
(第2)
 本件機関損傷は、主機空気冷却器冷却海水の漏洩点検が不十分で、漏水が給気マニホルドにたまる状況のまま運転が続けられ、給気とともに燃焼室に入った漏水によりピストンとシリンダライナとの摺動面の潤滑油膜が途切れたことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
(第1)
 A受審人は、主機の運転保守にあたる場合、長期間清水冷却器の冷却管の洗浄を行っていなかったから、海水によるスケール等の付着で詰まることのないよう、業者に依頼のうえ、同冷却器の冷却管を洗浄液に浸すなどして整備を行うべき注意義務があった。しかし、同人は、冷却海水が船外へ排出されていたことから支障がないものと思い、清水冷却器の冷却管を洗浄液に浸すなどして整備を行わなかった職務上の過失により、冷却海水ポンプ出口の圧力が上昇したまま運転を続け、操業中、ゴムホースに亀裂が生じ、冷却海水が漏洩して機関室に滞留し、浸水を招き、集魚灯用交流発電機、同安定器及び充電用直流発電機等を濡損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
(第2)
 A受審人は、主機の清水冷却器の整備後に始動した場合、冷却管の詰まりが解消されて冷却海水が空気冷却器へ十分に通水されるようになったから、空気冷却器冷却海水の漏洩を見落とさないよう、給気マニホルドのプラグを取り外すなどして、同漏洩の有無を点検すべき注意義務があった。しかし、同人は、給気マニホルドにはドレンがたまらないものと思い、これまでドレンの排出を行っていなかったことから、空気冷却器冷却海水の漏洩の有無を点検しなかった職務上の過失により、経年腐食箇所からの同漏洩に気付かないまま運転を続け、給気とともに給気マニホルドを経て燃焼室に入った漏水によりピストンとシリンダライナとの摺動面の潤滑油膜が途切れる事態を招き、同摺動面に縦傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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