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平成15年横審第22号
件名

漁船第十八勝栄丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成15年12月10日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(吉川 進、大本直宏、阿部能正)

理事官
井上 卓

受審人
A 職名:第十八勝栄丸機関長 海技免許:三級海技士(機関)(機関限定)

損害
主機弁腕軸と弁腕のブッシュが摩耗、各シリンダの吸気弁、排気弁頭部の変形、過給機ノズルとタービン翼の曲損、4番シリンダライナ及びシリンダヘッドの燃焼室面が損傷

原因
主機潤滑油小出タンクのドレン排除及び主機の弁腕注油器の点検が不十分

主文

 本件機関損傷は、主機潤滑油小出タンクのドレン排除が十分でなかったこと、及び主機の弁腕注油器の点検が十分でなかったことによって発生したものである。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年4月28日02時30分
 北太平洋
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第十八勝栄丸
総トン数 419トン
全長 61.68メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,323キロワット
回転数 毎分370

3 事実の経過
 第十八勝栄丸(以下「勝栄丸」という。)は、昭和63年10月に進水した、かつお一本釣り漁に従事する鋼製漁船で、主機として株式会社赤阪鉄工所が製造したK31FD型と呼称するディーゼル機関を装備していた。
 主機は、一体鋳鉄製の台板に同製シリンダブロックを載せ、同ブロックにシリンダライナを挿入してピストン・連接棒を組み込み、吸気弁及び排気弁を弁箱形式で装着したシリンダヘッドを載せた構造で、シリンダブロックの船尾側に排気タービン過給機を装備していた。
 吸気弁及び排気弁は、弁棒が鋳鉄製弁箱の案内部(以下「弁案内部」という。)に挿入され、弁案内部に強制注油されるとともに、同部の上端にはOリングが装着され、油上がりと異物混入を防止していた。
 吸気弁及び排気弁を開閉する各弁腕は、軸受材のブッシュを嵌めて(はめて)鋼製の弁腕軸に取り付け、弁頭部側にタペット隙間調整金具を装着したもので、弁腕軸に注油された潤滑油がブッシュ及び弁頭部に送られるようになっていた。
 主機の潤滑油系統は、二重底の潤滑油サンプタンクの潤滑油が直結潤滑油ポンプ又は電動の補助潤滑油ポンプで汲み上げられ、潤滑油こし器及び潤滑油冷却器を経て、主軸受、クランクピン軸受、ピストンピン、カム軸伝動装置等の潤滑とピストン冠の冷却を行い、再び台板に落ちて同タンクに戻るようになっていた。また、別途、弁腕注油器が装備され、専用配管を通して弁案内部と弁腕軸に注油されるようになっていた。
 主機潤滑油の補給系統は、機関室右舷側の二重底にある容量7.3キロリットルの潤滑油貯蔵タンクに溜められた予備潤滑油が、潤滑油サービスポンプで機関室中段にある、容量が約1キロリットルの潤滑油小出タンクに小出しされ、同小出タンクから潤滑油サンプタンク及び弁腕注油器に補給する配管が接続されていたが、同小出タンクが水抜きのためのドレン弁を設置する様式ではなかった。
 弁腕注油器は、縦型電動機が歯車ポンプ、カム装置及び吸込フィルターを仕組として約300ミリリットルの潤滑油とともに同電動機と同径の容器(以下「容器」という。)に収め、同ポンプが吐出する潤滑油をカム装置で間歇的に中断しながら各シリンダに送り出し、シリンダヘッド毎に取り付けられた分配器の流量調整金具を通して弁案内部と弁腕軸に注油するもので、潤滑油小出タンクから補給する配管の止弁が常時開かれており、高低差で容器内に潤滑油が補充されるようになっていた。
 ところで、潤滑油予備タンクは、上甲板から通じた補給管が機関室中段の床板を貫通する部分に腐食破孔(はこう)を生じていたところ、平成13年6月に機関室から甲板送水する海水配管が破孔し、中段床に大量の海水が溜まった際に、腐食破孔部から海水が混入し、同タンク底部に溜まったことから、その後、潤滑油小出タンクに潤滑油が移送される都度、海水混じりの潤滑油を送り出した。
 A受審人は、平成2年に一等機関士として乗り組み、同9年から機関長として機関全般の整備と運転に携わっていたところ、同13年8月ごろ、手差し注油の潤滑油が乳化していたことから、潤滑油貯蔵タンクの潤滑油に海水が浸入していることが判明し、同年9月に焼津港に入港した際に、業者に依頼して同貯蔵タンクの潤滑油を陸揚げして廃棄のうえ、同貯蔵タンクの内部を掃除させたが、潤滑油小出タンクを開放して掃除するなど、ドレンを十分に排除することなく、弁腕注油器への配管の途中にある取出弁から、ドレン抜きを行った。
 主機は、平成13年12月に入渠してシリンダヘッドの整備が行われた際に、吸気弁、排気弁、弁腕装置など、各部に異状がないことが確認され、翌14年1月出渠(しゅっきょ)して再び出漁し、約2箇月の航海で運転されるうち、潤滑油小出タンクに残っていた、乳化した潤滑油が弁腕注油器に混入し、スラッジ化して容器内の吸込フィルターに付着し、同注油器の歯車ポンプが潤滑油を吸引できなくなり、吸気弁、排気弁及び弁腕軸への注油が止まり、各シリンダの弁案内部及び弁腕軸のブッシュの摩耗が進行した。
 勝栄丸は、A受審人ほか28人が乗り組み、船首1.2メートル船尾4.8メートルの喫水をもって、かつお一本釣り漁の目的で、平成14年3月10日08時00分静岡県焼津港を発し、その後、長崎県佐世保港及び鹿児島県内の餌場(えさば)で活き餌(いきえ)を増し積みしたのち南下し、同月21日からミクロネシア連邦の領海付近で操業を開始した。
 A受審人は、同月27日に主機の2、3、及び4番各シリンダの弁腕軸ブッシュが異常摩耗して弁頭部の隙間が大きくなっていることを認めたが、容器を開放して吸込フィルターの汚れを確認するなど、弁腕注油器を点検することなく、各当直者に弁腕装置各部に手差し注油をするよう指示した。
 こうして、勝栄丸は、主機が吸気弁及び排気弁への注油が途絶えたまま運転が続けられ、4月25日に操業を終了して帰航の途につき、主機を回転数毎分345にかけて運転していたところ、主機の排気弁棒と弁案内部が異常摩耗したうえ、排気ガス中のカーボンが大量に付着し、4番シリンダの排気弁が開いたまま固着し、平成14年4月28日02時30分北緯29度34分東経149度54分の地点において、4番シリンダの排気弁傘がピストンに叩かれ、主機が異音を発した。
 当時、天候は雨で風力3の南東風が吹いていた。
 A受審人は、当直者から報告を受けて機関室に入り、主機を停止し、異状箇所がすぐに分からなかったので、いったん主機を再始動したところ、煙突から火炎が出ている旨の連絡を船橋から受けて再び停止し、その後、エアランニングをして4番指圧器弁から潤滑油が噴出するのを認め、主機の運転を中断した。その後、損傷した4番シリンダのピストン・連接棒仕組を抜き出して、減筒運転の処置を施した。
 勝栄丸は、減速運転して焼津港に入港し、精査された結果、弁腕軸と弁腕のブッシュが摩耗し、各シリンダの吸気弁、排気弁頭部の変形、過給機ノズルとタービン翼の曲損を生じ、4番シリンダライナ及びシリンダヘッドの燃焼室面が損傷していることが分かり、のち、損傷部が全て取り替えられた。 

(原因)
 本件機関損傷は、潤滑油予備タンクに海水が混入し、乳化した潤滑油を回収した際、潤滑油小出タンクのドレン排除が不十分で、主機の弁腕注油器に乳化した潤滑油が混入したこと、及び主機弁腕軸のブッシュの異常摩耗を認めた際、弁腕注油器の点検が不十分で、吸込フィルターがスラッジで詰まり、弁案内部への注油が途絶えたまま運転が続けられたことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、主機の運転管理に当たり、弁腕ブッシュが異常摩耗していることを認めた際、分配器の流量調整金具を外して流量を確かめたうえで、容器を開放して吸込フィルターを確認するなど、弁腕注油器を点検しなかったことは、本件発生の原因となる。
 しかしながら、このことは、潤滑油小出タンクに乳化した潤滑油が混入していることを認めた際に、配管途中から乳化した分を抜き取るなど、末端への影響を防止するよう試みた点、吸気弁及び排気弁の損傷が1シリンダに止まり、弁腕軸の異常摩耗がその後の減筒運転に支障がない程度にくい止められた点に徴して、A受審人の職務上の過失とするまでもない。

 よって主文のとおり裁決する。





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