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 海難審判庁採決録 >  2003年度(平成15年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成15年長審第40号
件名

漁船第十六源福丸機関損傷事件(簡易)

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成15年11月11日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(寺戸和夫)

理事官
花原敏朗

受審人
A 職名:第十六源福丸機関長 海技免許:五級海技士(機関)(機関限定)

損害
2番シリンダのシリンダヘッドに亀裂、同シリンダ左舷側船首寄り排気弁の弁座Oリングが切損及び損傷

原因
主機(排気弁)整備不十分

裁決主文

 本件機関損傷は、主機排気弁の定期的な整備が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年4月2日05時30分
 東シナ海東部
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第十六源福丸
総トン数 85トン
全長 42.48メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 672キロワット
回転数 毎分620

3 事実の経過
 第十六源福丸(以下「源福丸」という。)は、平成2年に建造された鋼製の漁船で、僚船4隻と船団を編成し、大中型まき網漁業の灯船兼探索船として、月あたり25日間、8月を休漁月として年間11箇月操業に従事しており、A受審人ほか6人が乗り組み、主機としてダイハツディーゼル株式会社製の6DLM-25FSL型と称するディーゼル機関を、また推進器として可変ピッチプロペラ(以下「CPP」という。)を備えていた。
 主機は、シリンダヘッドに吸気弁と排気弁各2個を備え、機関の冷却水系統は、シリンダジャケットと排気弁座の2系統があり、どちらの系統にも、機関直結清水ポンプで吸引加圧された冷却清水を通し、圧力計と温度計に加えて温度上昇警報装置が装備され、シリンダジャケット系統には冷却水圧力の低下警報装置も付設されていた。
 排気弁座の冷却水系統は、冷却水と排ガスとの熱交換が大きく、また同系統の入口集合管が呼称径25A、同管から各シリンダ排気弁への枝管が呼称径10Aといずれも細いことから、冷却水は防錆能力とともに清浄であることが求められ、このため入口集合管にこし器が接続されており、前示の冷却水用圧力計は同こし器の出口側に設けられ、また排気弁1個あたりに、弁箱Oリング及び弁Oリングが各1本並びに弁座Oリング4本がそれぞれ取り付けられていた。
 そして、機関の取扱説明書においては、排気弁の整備が重要な一項目であることに併せ、必要に応じて弁座の冷却水通路の掃除が必要であること、また、前示Oリングについて、同リングは耐熱性の特殊品であることから、排気弁整備時には必ず純正部品に新替えすること、さらに排気弁の整備は6箇月もしくは運転2,000ないし3,000時間ごとに行うことなどが記載されており、一方、源福丸の主機の運転時間は月間約350時間であった。
 ところで、弁座冷却水系統は、機関製造後十数年を経て、水垢、錆及びスケールなどによる汚損が進行し、同系統の圧力について、建造直後の海上公試運転中、回転数毎分620でCPP翼角21.4度の100パーセント負荷時、1.4キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)であったところ、平成15年1月末時点においては、回転数毎分630で3.0キロにまで上昇しており、同系統の通水状況悪化のもと、弁内部のOリングは高熱の影響を受けて硬化の進行が速くなっていた。
 源福丸は、平成14年8月、造船所で機関の定期整備を行い、このとき主機の排気弁も開放してすり合わせ及びOリング新替えなどの整備を実施し、出渠後、操業を繰り返したのち、年が変わって平成15年となり、やがて機関の取扱説明書に示された排気弁の整備を行う時期となった。
 平成14年3月に乗船したA受審人は、主機の冷却水系統について、主機を停止するたびに膨張タンクの水量を確認し、これまで水位が低下しているのを認めたことがなく、また、排気弁についても、1年ごとの整備で問題となるような前兆も生じていないので大丈夫と思い、取扱説明書記載の実施時期を迎えた同弁の整備を行わず、弁座冷却水系統の弁座Oリングが、硬化して弾力を失い始めているのに気付かないまま、主機の運転を続けていた。
 こうして、源福丸は、平成15年3月21日05時00分長崎県館浦漁港を発し、同日08時00分東シナ海北東部の漁場に至って操業を続け、越えて4月2日03時から04時にかけ、船団の他の灯船1隻とともに魚群探索を行ったのち、05時00分漁場を移動することとなり、主機を回転数毎分690としてCPP翼角19.5度の全速力前進にかけたところ、2番シリンダ左舷側船首寄り排気弁の弁座Oリング2本が切損して弁座冷却水が弁箱の外に漏洩し始め、シリンダヘッドの弁箱取付部周囲が大きな熱応力の変化を受けるようになり、同周囲の燃焼室側に割損を生じるとともに弁座冷却水の出口温度が急激に高温となり、05時30分北緯28度09分東経126度12分の地点において、同冷却水の温度上昇警報が作動した。
 当時、天候は曇で風はほとんどなく、海上は穏やかであった。
 甲板上にいたA受審人は、警報に気付いて機関室に急行し、弁座冷却水系統の圧力計がゼロ近くになっているのを認め、直ちに主機を停止した。
 その後、A受審人は、弁座冷却水系統のこし器を点検して異状がないことを確かめ、再始動のためエアランニングを試みたところ、2番シリンダ燃焼室の安全弁が作動し、更に1、2及び3番シリンダにおいては、インジケータ弁から冷却水の噴出を認め、冷却水膨張タンクの水位も低下していたことから、主機の運転を断念して僚船に曳航を依頼した。
 源福丸は、翌3日14時00分、長崎港内の造船所に引き付けられ、2番シリンダのシリンダヘッドに亀裂が発生していること、当該シリンダ左舷側船首寄り排気弁の弁座Oリングが切損及び損傷していることなどが確認され、同造船所で損傷部品を新替え修理した。 

(原因)
 本件機関損傷は、製造後十数年を経た機関の管理にあたる際、主機排気弁の定期的な整備が不十分で、弁座冷却水系統のOリングが硬化して切損し、冷却水が漏洩してシリンダヘッドが大きな熱応力の変化を受けたことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、製造後十数年を経た主機について、運転及び保守の管理にあたる場合、排気弁の冷却水に起因する不具合を未然に防止できるよう、取扱説明書に記載された整備基準に基づき、同弁の定期的な整備を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、冷却水系統の膨張タンクの水量に変化がなく、前回のシリンダヘッド開放掃除の際に排気弁の整備も行っており、問題となるような前兆も生じていないので大丈夫と思い、主機排気弁の定期的な整備を十分に行わなかった職務上の過失により、冷却水系統が経年汚損して排気弁座の冷却が阻害され、同弁内部のOリングが硬化して弾力を失っていることに気付かないまま主機の運転を続け、操業中、弁座Oリングの硬化が著しく進行して同リングが切損し、冷却水が弁箱の外に漏洩し始め、シリンダヘッドの弁箱取付部周囲が大きな熱応力の変化を受けるようになり、同周囲の燃焼室側に割損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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