日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2003年度(平成15年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成15年門審第1号
件名

貨物船伸和丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成15年10月9日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(安藤周二、西村敏和、千葉 廣)

理事官
大山繁樹

受審人
A 職名:伸和丸機関長 海技免許:五級海技士(機関)(機関限定)(履歴限定)

損害
逆転機、前進用クラッチのクラッチ板、潤滑油ポンプ等の軸受を損傷

原因
海中に浮遊していたロープがプロペラに巻き付いたこと、主機逆転機の潤滑油系統の点検不十分

主文

 本件機関損傷は、夜間航行中、海中に浮遊していたロープがプロペラに巻き付き、主機逆転機に過大なトルクが掛かり、クラッチ板が滑りを生じたことによって発生したものである。
 なお、損傷が拡大したのは、主機逆転機の潤滑油系統の点検が不十分で、クラッチ板が微小な滑りを生じたまま運転が続けられ、クラッチ板の磨耗による金属粉が潤滑油こし器に付着したことによるものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年6月21日19時45分
 岡山県水島港
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船伸和丸
総トン数 199トン
登録長 41.27メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 588キロワット
回転数 毎分420

3 事実の経過
 伸和丸は、昭和34年5月に進水した、液体化学薬品のばら積み輸送に従事する鋼製貨物船で、主機としてヤンマディーゼル株式会社が製造したMF24-UT型と呼称するディーゼル機関、新潟コンバーター株式会社が製造したMN630型と呼称する逆転機、中間軸及びプロペラ軸の軸系に結合されている3翼一体形プロペラ、船橋に主機と逆転機の遠隔操縦装置及び警報盤がそれぞれ装備されていた。
 逆転機は、平成4年8月に主機とともに換装されたもので、前進用及び後進用クラッチの湿式多板スチールプレートと焼結合金を摩擦面とするシンタープレートのクラッチ板、クラッチ駆動リング、駆動歯車、逆転歯車、入力軸、出力軸及び直結駆動の潤滑油ポンプ等から成り、クラッチ駆動リングには、スプラインにかみ合わされている前進用クラッチのクラッチ板、作動油圧力により同クラッチ板を圧着するクラッチピストン及びこれを内蔵しているクラッチシリンダが組み込まれ、また、クラッチピストンとクラッチシリンダとの油密を保持するため、合成ゴム製のOリング及び断面がV形のリング(以下「ゴムリング」という。)が装着されていた。そして、主機の動力は、前進時には逆転機の入力軸、クラッチ駆動リング、前進用クラッチ及び出力軸等を経て、後進時には入力軸、クラッチ駆動リング、後進用クラッチ、駆動歯車、逆転歯車及び出力軸等を経てプロペラへとそれぞれ伝達される仕組みになっていた。
 逆転機の潤滑油系統は、ケーシング底部の容量約60リットルの油だめに入れられた潤滑油が、32メッシュの潤滑油こし器を介して直結駆動の潤滑油ポンプに吸引され、作動油圧力調整弁により23.0ないし25.0キログラム毎平方センチメートル(以下、圧力の単位を「キロ」という。)の圧力範囲に保たれたのち前後進切替弁で分配され、作動油として前進用クラッチあるいは後進用クラッチに供給されるほか、作動油圧力調整弁の逃がし油が、潤滑油冷却器、150メッシュの潤滑油こし器、潤滑油圧力調整弁を経由し、2.5ないし4.5キロの圧力範囲に保たれて軸受及び歯車等に送られ、油だめに落下する経路で循環しており、逃がし油の圧力が0.7キロ以下に低下すると潤滑油圧力低下警報装置が作動するように設定されていた。
 A受審人は、同2年10月伸和丸の機関部員として乗り組み、同4年7月機関長に昇進して機関の運転保守にあたり、逆転機については、同10年7月定期検査受検工事の際にクラッチ板を開放点検のうえ継続使用することとしてゴムリングを新替えし、同12年6月第1種中間検査受検準備の際に潤滑油を交換するなどの整備を行っていた。
 伸和丸は、A受審人ほか2人が乗り組み、水酸化マグネシウム300立方メートルを積載し、船首2.70メートル船尾3.90メートルの喫水をもって、同14年6月15日18時15分山口県宇部港を発し、愛知県名古屋港に向け、主機を航海全速力前進の回転数毎分390にかけて愛媛県松山市沖合のクダコ水道を東行中、16日01時40分海中に浮遊していたロープと接触し、同ロープがプロペラのボス部に巻き付いた。そのためにプロペラの回転が拘束され、主機は、一時的に急激な回転数低下が発生した後、調速機の機能により元の回転数を維持した。一方、逆転機は、主機回転数低下が発生した際、潤滑油ポンプ吐出圧力低下により潤滑油圧力低下警報装置が作動し、同時に過大なトルクが掛かり、前進用クラッチのクラッチ板が滑りを生じて焼損したうえ異常に発熱したことから、ゴムリングの急速な劣化により油密機能が低下してクラッチシリンダ部の作動油が漏洩し始めた後、同クラッチ板が微小な滑りを生じて磨耗が進行する状況になった。また、船橋では、航海当直中の船長が船尾付近に衝撃を感じ、主機回転数低下と逆転機の潤滑油圧力低下警報を認め、ロープの巻付きが分からないまま、主機を停止回転数毎分200に減速して逆転機を中立に遠隔操作し、自室で休息していたA受審人を呼び寄せ、機関室に赴かせて遠隔操作による前進及び後進の切替えを試み、切替えが順調であることや作動油等の圧力が前示圧力範囲に保たれていることなどを確かめさせたのち続航することとし、主機を航海全速力前進の回転数に増速した。
 ところが、逆転機は、前進用クラッチのクラッチ板の磨耗による金属粉が潤滑油とともに32メッシュ及び150メッシュの潤滑油こし器に流入して付着し、同こし器が徐々に目詰まりする状況になった。
 しかし、A受審人は、17日10時50分伸和丸が名古屋港に入港し、同港岸壁で揚げ荷役後、プロペラ付近の水中にロープ端を見付け、プロペラに巻き付いていたロープを取り除き、同ロープが他船の直径40ミリメートル(以下「ミリ」という。)長さ4メートルのものであることを認めた際、これまで逆転機の作動油圧力等に変化がないから異常がないものと思い、潤滑油こし器を開放するなど、潤滑油系統の点検を行わなかったので、同こし器が徐々に目詰まりする状況に気付かなかった。
 こうして、伸和丸は、15時30分名古屋港を出港して航行し、逆転機の前進用クラッチのクラッチ板が微小な滑りを生じたまま運転が続けられ、山口県徳山下松港及び大阪府大阪港堺泉北区に寄せ、21日14時15分岡山県水島港に入港し、岸壁に係留後、苛性ソーダ300立方メートルを積載し、船首2.70メートル船尾3.90メートルの喫水をもって、関門港に向かう目的で、主機を前進にかけたところ、逆転機の潤滑油こし器の目詰まりにより潤滑油圧力が著しく低下し、19時45分水島信号所から真方位008度2,270メートルの地点において、潤滑油圧力低下警報が発生したのち潤滑油ポンプ等の軸受の潤滑が阻害され、前進用クラッチが作動しなかった。
 当時、天候は曇で風力2の西風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
 A受審人は、船首甲板で出港作業中、船橋から逆転機の前進用クラッチが作動しないことを知らされ、機関室に急行して遠隔操作による作動を点検し、前進及び後進のいずれにも作動しないことを認め、その旨を船長に報告した。
 伸和丸は、航行不能となり、逆転機の修理のため、引船に曳航されて広島県福山港に回航後、造船所で精査の結果、前進用クラッチのクラッチ板のほか、潤滑油ポンプ等の軸受の損傷が判明し、各損傷部品が取り替えられた。 

(原因)
 本件機関損傷は、夜間航行中、海中に浮遊していたロープがプロペラに巻き付き、逆転機に過大なトルクが掛かり、前進用クラッチのクラッチ板が滑りを生じたことによって発生したものである。
 なお、損傷が拡大したのは、逆転機の潤滑油系統の点検が不十分で、前進用クラッチのクラッチ板が微小な滑りを生じたまま運転が続けられ、クラッチ板の磨耗による金属粉が潤滑油こし器に付着し、潤滑油圧力が著しく低下したことによるものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、機関の運転保守にあたり、プロペラに巻き付いていたロープが直径40ミリ長さ4メートルのものであることを認めた場合、同ロープの巻付きにより主機回転数低下が発生した際、逆転機に過大なトルクが掛かったから、同機の前進用クラッチの異常発生を見落とさないよう、潤滑油こし器を開放するなど、潤滑油系統の点検を行うべき注意義務があった。しかし、同人は、これまで逆転機の作動油圧力等に変化がないから異常がないものと思い、潤滑油系統の点検を行わなかった職務上の過失により、前進用クラッチのクラッチ板が微小な滑りを生じてクラッチ板の磨耗による金属粉が潤滑油こし器に付着し、同こし器が徐々に目詰まりする状況に気付かず、運転を続けて潤滑油圧力が著しく低下する事態を招き、クラッチ板のほか、潤滑油ポンプ等の軸受を損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION