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平成15年函審第19号
件名

漁船第三十八天龍丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成15年10月31日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(岸 良彬、古川隆一、野村昌志)

理事官
河本和夫

受審人
A 職名:第三十八天龍丸機関長 海技免許:五級海技士(機関)(機関限定)

損害
主機ピストンに割損、シリンダライナにかき傷、連接棒及び吸・排気弁に曲損の各損傷

原因
主機ピストン冷却室の油受金具取付けボルトの締付け状態の点検不十分

主文

 本件機関損傷は、主機ピストン冷却室の油受金具取付けボルトの締付け状態の点検が不十分で、緩みを生じていた同金具から冷却油が漏れたことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年9月6日06時40分
 北海道厚岸港
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十八天龍丸
総トン数 131トン
全長 36.02メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,029キロワット
回転数 毎分800

3 事実の経過
 第三十八天龍丸(以下「天龍丸」という。)は、昭和57年11月に進水した、さんま棒受網漁業などに従事する鋼製漁船で、主機として、平成2年4月に新たに換装された、ヤンマー株式会社製造のT240-ET2型と称するディーゼル機関を備え、これに燃料制限装置を付設して、計画出力617キロワット同回転数毎分670として登録し、各シリンダには船首側を1番とする順番号が付されていた。
 主機ピストンは、鋳鉄製の一体型で、触火面直下に環状の冷却室を有し、同室底面に、油受金具が両舷に各1個取り付けられていて、同室に導かれた冷却用の潤滑油(以下「冷却油」という。)がピストンの上下動によって激しく揺動されることで冷却効果を高めるいわゆるシェーカー方式により冷却されていた。
 油受金具は、油落とし管と蓋板とからなり、外径21.7ミリメートル(以下「ミリ」という。)高さ45.0ミリの同管が一辺約80ミリ他辺50ミリの四辺形をした厚さ3.2ミリの蓋板の中央部に直立した形状をなし、同管が冷却室内側となるようにして、ねじの呼びM8の六角ボルト(以下「油受金具取付けボルト」という。)4本により取り付けられ、ボルトの回り止めとして皿バネが用いられていた。
 冷却油は、連接棒及びピストンピンの各油路を順に経て冷却室に入り、油面が油落とし管の上端に達すると、同管からクランク室に落下し、一定量が冷却室に溜まる構造となっていた。
 ところで、主機ピストンは、高速で往復運動をしており、慣性力や振動によって油受金具取付けボルトに緩みを生じるおそれがあることから、ピストンの開放整備時には同ボルトの締付け状態の点検を行う必要があり、主機取扱説明書にも運転時間10,000時間若しくは2年ごとにピストン全体の点検を行うよう明記して、取扱者に注意を促していた。
 天龍丸は、北海道厚岸港を基地として毎年5月から7月までの期間をさけ・ます流し網漁船の監視業務に、8月から11月までの期間をさんま棒受網漁にそれぞれ従事していたところ、経年とともに、いつしか主機ピストンの油受金具取付けボルトに緩みを生じ始め、同金具の蓋板部に隙間を生じ、少しばかり冷却油が漏れ出る状況となったが、ピストンの冷却に影響を及ぼすまでには至らなかった。
 A受審人は、天龍丸の新造時から機関長として乗船し、機関の運転保守管理に当たり、毎年4月に主機開放整備工事を青森県の造船所で行い、会社の方針で工事には立会わず、自らドックオーダーを造船所に口頭で伝達するようにしていたが、主機ピストンの油受金具取付けボルトは緩むことがないと思い、造船所に指示するなどして、同ボルトの締付け状態の点検を行わず、平成14年4月に行った第一種中間検査工事においても、同点検をしなかったので、同ボルトが緩んでいることに気付かないまま同工事を終えた。
 こうして、天龍丸は、A受審人ほか14人が乗り組み、操業の目的をもって、平成14年9月4日14時10分厚岸港を発し、17時ごろ同港南東方約20海里の漁場に至り、10回ばかり投揚網を繰り返して操業を終え、翌々6日02時ごろ漁場を発進し、主機回転数を毎分800にかけて帰途に就くうち、油受金具取付けボルトの緩みが進行していた主機4番ピストンの同金具からの冷却油の漏洩量が増大して、冷却室に冷却油が溜まらなくなり、ピストンが過熱膨張してシリンダライナに焼き付き、ピストン頭部が上下に割れ、06時40分厚岸港南防波堤灯台から真方位193度1,900メートルの地点において、主機が大音を発した。
 当時、天候は曇で風力2の南東風が吹き、海上は穏やかであった。
 機関室内で当直していたA受審人は、主機を止め、4番シリンダの弁腕が位置ずれしているのを認め、これを手直しして再始動したところ、相変わらず異音を発したので、運転不能の旨を船長に報告し、天龍丸は、来援した給油船により厚岸港に引き付けられ、主機の開放調査が行われた結果、前示損傷のほか、4番のシリンダライナにかき傷、連接棒に曲損及び吸・排気弁に曲損を生じていることが判明し、のちいずれも修理された。 

(原因)
 本件機関損傷は、主機ピストン冷却室の油受金具取付けボルトの締付け状態の点検が不十分で、緩みを生じていた同金具から冷却油が漏れ、ピストンの冷却が阻害されたことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、機関の運転保守管理に当たる場合、主機ピストンが高速で往復運動をしており、油受金具取付けボルトに緩みを生じるおそれがあったから、主機開放整備工事時に造船所に指示するなどして、同ボルトの締付け状態を点検すべき注意義務があった。しかるに、同人は、同ボルトが緩むことはないと思い、同ボルトの締付け状態を点検しなかった職務上の過失により、同ボルトが緩んでいることに気付かないまま運転を続け、油受金具から冷却油が漏れてピストンの冷却阻害を招き、ピストンに割損、シリンダライナにかき傷、連接棒に曲損及び吸・排気弁に曲損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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