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 海難審判庁採決録 >  2003年度(平成15年) > 火災事件一覧 >  事件





平成15年函審第20号
件名

漁船第十八榮福丸火災事件

事件区分
火災事件
言渡年月日
平成15年10月22日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(岸 良彬、黒岩 貢、野村昌志)

理事官
河本和夫

受審人
A 職名:第十八榮福丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
全焼して沈没

原因
集魚灯用安定器の絶縁抵抗測定不十分

主文

 本件火災は、集魚灯用安定器の絶縁抵抗測定が不十分で、同安定器の電路が短絡したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年8月19日01時05分
 青森県小泊漁港西方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第十八榮福丸
総トン数 19.21トン
登録長 14.88メートル
3.57メートル
深さ 1.57メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 603キロワット

3 事実の経過
 第十八榮福丸(以下「榮福丸」という。)は、昭和51年2月に進水した、いか一本つり漁業に従事する一層甲板型FRP製漁船で、甲板下が、船首方から順に、空所、氷倉、2区画の魚倉、機関室、船員室及び空所となり、甲板上が、物入れ、船首甲板、操舵室、機関室囲壁、賄室及び船尾甲板となっていて、両舷に各6台のいか釣り機を備えていた。
 機関室は、船体中央部のやや船尾寄りにあって、両舷に燃料タンク各2個を縦列に配し、中央部に主機を据え付け、その前方に、いずれも主機駆動の、交流電圧225ボルト容量250キロボルトアンペアの集魚灯用発電機、容量40キロボルトアンペアの船内用発電機及び直流電圧24ボルト容量3キロワットの充電用発電機を配置し、前部隔壁沿いに集魚灯用安定器(以下「安定器」という。)13個が設置されていた。
 船員室は、賄室下方に位置しており、その広さが長さ4.5メートル幅4.0メートル高さ1.2メートルで、後部中央に舵箱を備え、寝具、釣具、大型の石油ストーブ及び衣類などが置かれていたほか、左舷前部の外板沿いに8個及び右舷の外板沿いに16個の合計24個の安定器をいずれも2段積の状態で設置し、出入口として賄室床板の左舷前部に0.5メートル四方の蓋付きのハッチを設け、換気装置として給気及び排気の通風機を各1台備えていたが、通風量不足もあって、夏場で60度(摂氏、以下同じ。)冬場で40度と常に高温の状況下にあった。
 集魚灯は、2キロワットのものが74個装備され、その給電経路は、集魚灯用発電機から機関室内の集魚灯配電盤及び安定器を順に経て集魚灯に給電されるようになっており、電線としてキャブタイヤケーブルが用いられ、安定器としていずれも株式会社ウシオユーテック製のUMB-2020型と称する2キロワット2灯用のものが使用されていた。
 A受審人は、昭和50年4月に一級小型船舶操縦士の免許を取得し、同61年5月同人の父親が購入した本船に甲板員として乗り組み、平成3年5月から船長職を執り、操船のかたわら機関及び電気機器の保守運転管理にも当たり、主に地元の青森県小泊漁港下前地区を基地として、毎年5月下旬から12月末までいか一本つり漁業に従事し、他の期間は休漁としていた。
 船員室の安定器は、平成元年に設置されたもので、そのうち10個は不具合の発生により新替えや修理がなされていたが、右舷側の安定器のほとんどが新替えされずに継続使用されており、船員室から集魚灯に至る電線も当時に敷設されたもので、甲板上の電線被覆は経年により硬化して脆くなっている状況であった。一方、機関室の安定器は、平成10年5月主機及び集魚灯用発電機が大出力のものと換装された際に増設されたもので、比較的新しいものであった。
 ところで、安定器は、変圧器やコンデンサなどの発熱しやすい部品が組み込まれており、周囲温度の高い環境下に置かれると、経年とともにこれら電気部品の絶縁材料の劣化が進行しやすく、遂には短絡するおそれがあることから、電路の短絡を防止するため、毎年絶縁抵抗測定を行って絶縁劣化箇所の発見に努める必要があり、榮福丸においても平成11年に同測定が行われた。
 その後、A受審人は、船員室の安定器が長年にわたり高温下に置かれていたこともあって、同器の絶縁材料が劣化する状況となっていたが、集魚灯の点灯に不具合が生じていなければ大丈夫と思い、電気業者に依頼して、安定器の絶縁抵抗測定を行わなかったので、このことに気付かなかった。
 こうして、榮福丸は、A受審人及び甲板員1人が乗り組み、操業の目的で、船首1.0メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、平成14年8月18日15時30分小泊漁港下前地区を発し、17時ごろ同漁港西方約12海里の漁場に至って操業を始めたが、釣果がなく翌19日00時15分漁場を移動し、同時45分シーアンカーを投入して、主機を回転数毎分1,200にかけて集魚灯用発電機を駆動させ、同時55分集魚灯を点灯して操業中、絶縁材料が著しく劣化していた船員室右舷側の安定器の電路が短絡し、電線被覆が過熱発火して付近の構造物に燃え移り、01時05分龍飛埼灯台から真方位260度19.6海里の地点において、船員室が火災となった。
 当時、天候は曇で風力4の東風が吹き、海上にはやや波があった。
 操舵室で魚群探知機を監視していたA受審人は、全数の集魚灯が消灯したので安定器を見るため賄室に入り、船員室の出入口ハッチを開けたところ、煙が充満して右舷側の安定器付近が赤味を帯びているのを認め、同ハッチを閉めて操舵室に戻り、無線で僚船に火災発生を通報したのち、消火器2本を放射したが効果なく、同ハッチから火炎が上がって賄室から上部構造物全体に延焼するようになり、危険を感じて甲板員とともに船首部に避難しているうち、僚船が来援したので海に飛び込んで移乗した。
 火災の結果、榮福丸は全焼して同日07時08分沈没した。 

(原因)
 本件火災は、集魚灯用安定器の絶縁抵抗測定が不十分で、集魚灯を点灯して操業中、絶縁材料が著しく劣化していた同安定器の電路が短絡し、電線被覆が過熱発火して付近の構造物に燃え移ったことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、集魚灯用安定器の保守管理に当たる場合、長期間同安定器が高温の船員室に設置され、絶縁材料の劣化が進行するおそれがあったから、同安定器の電路が短絡することのないよう、電気業者に依頼して、同安定器の絶縁抵抗測定を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、集魚灯の点灯に不具合が生じていなければ大丈夫と思い、同安定器の絶縁抵抗測定を行わなかった職務上の過失により、集魚灯を点灯して操業中、同安定器の電路が短絡して火災を招き、全焼して沈没させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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