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平成15年広審第32号
件名

旅客船レインボー遭難事件

事件区分
遭難事件
言渡年月日
平成15年12月11日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(西林 眞、供田仁男、西田克史)

理事官
平井 透

受審人
A 職名:レインボー船長 海技免許:三級海技士(航海)
指定海難関係人
B株式会社 業種名:海運業
M株式会社C 業種名:造船業

損害
左舷操舵ダクトのケーブル取付けねじ部が折損

原因
操船不適切、海運業者が、以前に発生した推進装置の事故後、対処方法等について十分検討しなかったこと、造船業者が同事故についての適切な防止策を講じなかったこと

主文

 本件遭難は、左舷ウォータージェット推進装置が舵角検出用ケーブル取付けねじ部の折損によりフォローアップ制御不能となった際、自力航行を続けるための応急措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 海運業者が、以前に発生したウォータージェット推進装置の舵角検出用ケーブル取付けねじ部折損事故後、ケーブル破損時の現象と対処方法について詳細に検討しなかったことは、本件発生の原因となる。
 造船業者の設計・アフターサービス部門が、以前に発生したウォータージェット推進装置の舵角検出用ケーブル取付けねじ部折損事故後、同ねじ部に加わる外力について十分に検討せず、適切な防止策を講じなかったことは、本件発生の原因となる。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年11月1日17時43分
 日本海 島後水道
 
2 船舶の要目
船種船名 旅客船レインボー
総トン数 303トン
全長 33.24メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 8,384キロワット

3 事実の経過
(1)船体構造
 レインボーは、平成5年3月にM株式会社(以下「M」という。)下関造船所で建造された、航行区域を限定沿海区域とする最大搭載人員347人の軽合金製双胴型旅客船で、船首部と船尾部に全没型の水中翼を備え、2層の船楼と双胴の船体からなり、上甲板上を下部旅客室に、船橋甲板上を操舵室及び上部旅客室にそれぞれ区画し、両舷胴には補機室、主機室及びウォータージェット室からなる機関室とその前後に空所を設けていた。
 また、水中翼は、矩形の水平翼で、両舷胴の補機室キール下と機関室後部キール下の計4箇所に前部支柱及び後部支柱をそれぞれ垂直に固定したうえ、両舷支柱の底部へ逆鳥居状に取り付けられており、両翼後端に揚力を調整して船体姿勢を制御するためのフラップ(以下「翼フラップ」という。)を装備していたほか、前部両舷支柱後端には前舵として操舵の補助的動作をするための縦フラップが設けられていた。
(2)主機及びウォータージェット推進装置
 主機は、Mが製造したS16R-MKT-S型と称する、連続最大出力2,096キロワット同回転数毎分2,000のV形ディーゼル機関で、主機室両舷胴に各2機ずつ船首尾方向に据え付けられ、2機1軸の組み合わせでそれぞれ油圧クラッチ内蔵の減速機から共通軸を取り出し、中間軸及び弾性継手を介して同社製のMWJ-5000A型と称するウォータージェット推進装置(以下「推進装置」という。)を駆動するようになっていた。
 推進装置は、特殊軸流式ポンプ部と後進操舵装置で構成され、ウォータージェット室にポンプ本体を据え付け、後部支柱の前端に設けられた海水吸入口からの海水をポンプインペラで吸引加圧し、船尾外板に取り付けたディフューザ内蔵のノズルからジェット水流を船尾方に噴出させ、ノズル後部に取り付けた後進操舵装置の操舵ダクトを左右それぞれ最大30度まで振って操舵を行い、後進動作の際には操舵ダクトの底板にあたる後進フラップを持ち上げ、同水流を船首方に反転させるようになっているもので、同室後方に設けられた後部空所が船尾方に張り出しているため、船尾甲板上から同装置を直接目視することができないようになっていた。
 また、後進操舵装置は、ウォータージェット室に電動油圧ポンプ、油圧方向制御弁、制御盤及び操舵ダクトと後進フラップの各角度を検出するポテンショメータなどを設置し、船外に操舵ダクト及び後進フラップのほかに、これらを駆動するためのそれぞれ左右1本ずつの油圧シリンダと油圧ホースを設け、各ポテンショメータと操舵ダクト及び後進フラップとの間がそれぞれ船尾外板を貫通するステンレスワイヤ製のプッシュプルケーブル(以下「ケーブル」という。)で接続しており、ノズル上部に各ケーブルの支持金具が取り付けられていた。
 このうち、操舵ダクト用のケーブルは、呼びM5のステンレス製転造ねじを使用した取付けねじ部を後端に設け、操舵ダクト油圧シリンダ支持腕上に露出したターミナルアイにねじ込んだうえでナットを締め付けて固定し、前端がポテンショメータの摺動(しゅうどう)子軸プーリに巻き付けられ、同メータに内蔵したコイルばねの作用で、両舷操舵ダクトとも左舷30度で最も引き出された位置に、右舷30度で最も巻き込まれた位置になるようになっていた。
(3)操船制御システム
 レインボーは、低速時には浮かんだ状態で航走(以下「艇走」という。)し、22ないし26ノット(対地速力、以下同じ)以上になると水中翼の揚力により双胴部を海面から離水させ、38ノットの航海速力で航走(以下「翼走」という。)を行うもので、操舵室前面の操舵コンソールに、翼フラップ及び縦フラップを自動制御する船体姿勢制御装置、操舵輪、主機と後進操舵装置の操作を一括制御する左右舷それぞれ独立した操縦ハンドル、及び主機の発停とクラッチの嵌脱(かんだつ)操作を行う主機操作盤などを組み込んでいた。そして、操船制御については、各装置の遠隔自動制御が可能なとき、航走中の操船を船体姿勢制御装置に設定された下記制御モードを選択して行うようになっていた。
ア 離着桟モード
 離着桟モードは、港内での離着桟のほか、狭隘(きょうあい)な水路あるいは船舶の輻輳(ふくそう)水域を低速で艇走する際、両舷操縦ハンドルのみを使用し、回頭力を得やすいよう右舷側操舵ダクトを左舷一杯に左舷側操舵ダクトを右舷一杯にとった逆ハの字の状態にするなど、両舷操舵ダクトを個別に操作するとともに、主機回転数の増減と後進用バケット操作を組み合わせ、ジェット水流の強さと向きを制御するものであった。
イ 艇走モード
 艇走モードは、主として離桟から翼走及び翼走から着桟に至る間の大回頭を要しない水域を20ノット以下で航走するときに使用され、両舷操舵ダクトの操縦権を操舵輪に移し、操舵ダクトと縦フラップを同方向に操舵するとともに、翼フラップを作動させて船体姿勢を自動制御しながら、操縦ハンドルで主機回転数を増減して操船を行うものであった。
ウ 翼走モード
 翼走モードは、艇走状態から船体姿勢制御装置のハイトレバーで翼フラップを操作することで船体を海面から浮上させ、所定航海速力に増速していくもので、操舵ダクトと縦フラップの操作を艇走モードと同様に操舵輪で行い、海面状態などによって船体の浮上高さを任意に設定したうえで自動制御するようになっていた。
 また、主機及び後進操舵装置は、各モードで航走中、操縦ハンドル又は操舵輪からの指令信号に対して追従するフォローアップ制御が行われるようになっていたが、同制御が不能になった場合に備え、同ハンドル後方に設けられた左右舷それぞれ独立したジョイスティックにより、主機回転数、操舵ダクト及び後進フラップが個別にノンフォローアップ操作(以下「手動操作」という。)できるようになっていた。
 ところで、レインボーは、翼走中に操舵ダクト用のケーブルが破損した場合、ポテンショメータがケーブルを巻き込むため舵角を右30度と検出する一方、操舵ダクトは自動的に左30度の位置に移動してフォローアップ制御が不能となり、さらに指令信号との差が大きいと操舵室で操舵偏差大警報が吹鳴して表示灯が点灯するようになっているので、離着桟モードに切り替え両舷操舵ダクトを逆ハの字にして応急操船しようとする際には、右舷側操舵ダクトはそのまま使用できる位置であるのに対し、左舷30度位置となった左舷側操舵ダクトについては、ジョイスティック又は油圧系統の油圧方向切換弁を操作して右舷30度に移動させる必要があった。
(4)指定海難関係人
 指定海難関係人B株式会社(以下「B」という。)は、海運及び観光に関する事業等を目的に設立され、このうち海運部門については、主としてフェリーと高速旅客船による島根県隠岐諸島と本州を結ぶ旅客定期航路事業を営んでおり、レインボー及び平成10年5月に建造された同型船レインボー2の高速旅客船2隻を船舶所有者である株式会社Oから借入し、冬期を除く毎年3月1日から12月15日までの間、隠岐諸島各港と本州側の発着地である同県の七類港及び加賀港並びに境港のいずれかを1ないし1時間30分で結ぶ定期旅客輸送に従事させていた。そして、高速旅客船の運航基準において、風速が毎秒18メートル以上または波高が2.5メートル以上に達した場合には、発航及び基準航行を中止するよう定めていた。
 指定海難関係人M株式会社C(以下「C」という。)は、主に新造船の計画設計及びアフターサービスを担当する部門で、レインボーの建造計画に当たって推進装置の自動制御、操舵方法及び運航状態などに係わる設計検討を行い、就航前には実際の運航状態による乗組員の習熟訓練を行うとともに、同船就航後は、毎年冬期運休期間を利用した検査工事に合わせて同造船所で行う定期整備と、9月期に境港に所在するドックで行う中間整備における船体、機関及び推進装置などの点検実施や、各種の不具合発生への対応など、アフターサービス業務を統括していた。
 また、Cでは、推進装置に使用している角度検出用ケーブルについて、海水侵入を防止するために取り付けたゴム製ブーツの破損や、ケーブル外側被覆の腐食などで動きを阻害する事例があったことから、定期整備での推進装置開放整備に合わせ、後端の取付けねじ部を含めて新替えするようにしていた。
(5)舵角検出用ケーブル取付けねじ部折損事故の発生と措置
 レインボーは、操舵ダクトのケーブル取付けねじ部が艇走状態ではほぼ海面上で水流の一部が当たる位置にあったところ、平成12年12月16日から翌13年4月12日までの定期検査工事において主機及び船体の改造が行われ、喫水が増加したことによって後進動作中や艇走中に噴き上がるジェット水流の方向と強さが変化し、同ねじ部へ加わる繰り返し衝撃力が増加した状況で同月20日から運航が続けられた。
 そして、レインボーは、同年5月30日島根県中ノ島の菱浦港から同県西ノ島の別府港に向けて別府湾内を翼走中、右舷操舵ダクトのケーブル取付けねじ部が折損して操舵偏差大警報が作動し、船内では状況を確認できなかったものの、船長が着水させて離着桟モードに切り替えたところ、右舷ダクトが自動的に左舷30度に向いていたことから、支障なく艇走を続けることができ同港に着桟した。
 Cは、ケーブル取付けねじ部が折損したことについて、破断面の調査結果から、繰り返し力が非常に多い高サイクル疲労破壊が生じていることが判明したうえで検討を行ったが、定期検査工事後の先月20日に運航を再開して40日という短期間のうちに折損に至ったことから、定期整備でのケーブル新替え後に取付けねじ部に工具が当たるなど、作業による過剰な外力のために亀裂が生じたものとし、強度を増すため、次回定期整備時にねじ部を呼びM6に変更することにしただけで、整備後にねじ部の異常の有無を詳細に点検することや、ジェット水流などの航走中にねじ部へ繰り返し加わる外力について十分検討するなどの対策は講じていなかった。
 一方、Bは、事故後、船長から右舷操舵ダクトに操舵偏差大警報が作動したことによって翼走が不能になった際の措置について報告を受けたが、Cから取付けねじ部折損原因とその改善策の説明を受けたこともあって、同種事故に対して乗組員が円滑に措置できるよう、ケーブル破損時の現象と対処方法について同部に依頼するなどして詳細に検討せず、また、船長の交代に際して異常発生例として引き継ぐよう指導するもことなく、定期運航を再開させた。
 レインボーは、5月31日に右舷操舵ダクトのケーブルが取付けねじ部呼び5Mのものに新替えされたのち、同年12月15日まで特段の問題もなく運航を続け、同月17日から翌14年4月13日まで第1種中間検査工事のために入渠し、推進装置の開放整備が行われるとともに、両舷操舵ダクトのケーブルが取付けねじ部を呼び6Mに変更したものに新替えされた。
(6)A受審人
 A受審人は、昭和51年にBに入社し、海技免許取得後フェリーの航海士として、またレインボーの就航時には、他の乗組員とともにCから操船要領の指導を受けたうえで一等航海士して乗り組み、平成8年に同船の船長に昇任して約3年間乗船後、フェリーの一等航海士及び船長を経て、同14年9月7日から再びレインボーの船長として乗船することになったもので、前任者からは前年に右舷操舵ダクトのケーブル破損による応急運転を行ったことについては特に申し送りを受けていなかった。
(7)遭難に至る経過
 レインボーは、平成14年9月2日から同月6日までの間、境港のドックに上架して中間整備を行った際、両舷推進装置を船体から抜き出し、ケーブルを取り付けたままM高砂製作所に輸送して点検整備が行われたが、同装置復旧時に操舵ダクトのケーブル取付けねじ部は従来どおり目視点検されたのみであったので、搬出入か輸送時などに何らかの外力を受けたことによって生じた左舷操舵ダクトのケーブル取付けねじ部の損傷が発見されず、その後運航を続けるうち、ジェット水流の衝撃を繰り返し受けて損傷箇所を起点とした疲労亀裂が徐々に進行する状況となっていた。
 こうして、レインボーは、A受審人ほか3人が乗り組み、乗客50人を乗せ、同年11月1日菱浦港経由別府港行きの最終便として17時03分島根県西郷港を発し、その後主機の回転数をいずれも毎分1,900として翼走状態に入り、風速毎秒15メートルの北北西風が吹き波高2メートルという状況下、島後水道を西行した。そして、二股島の南東沖合に至り中井口に入るために間もなく左転しようとしたところ、左舷操舵ダクトのケーブル取付けねじ部の亀裂が進展して折損し、折損部が支持金具に引っ掛かってケーブルがポテンショメータに引っ張られた状態で同メータの指示が右舷30度に振り切れるとともに、同ダクトが左舷30度の位置に移動して、17時30分同ダクトの操舵偏差大警報が吹鳴した。
 A受審人は、直ちに操縦ハンドルを中立としてレインボーを着水させるとともに制御モードを離着桟モードに切り替え、左舷ウォータージェット室を点検した機関長から、ケーブルの緩みや油圧系統に外観上異常ないと報告を受け、船速が低下するうちに南方に圧流されたので、両舷操舵ダクトが逆ハの字になるよう操縦ハンドルを操作したうえで左舷前進、右舷後進にとったものの、左舷操舵ダクトが左舵30度を向いていたため、引き続き南西方の小森島に向くばかりで右回頭ができなかった。
 ところが、A受審人は、離着桟モードでの操作と船の動きが矛盾することだけで操船不能になったと判断し、左舷操舵ダクトをジョイスティックにより手動操作しながら、乗組員にジェット水流の方向やウォータージェット室の油圧計によって実舵角を確認させたり、右舷推進装置のみの片舷運転による艇走を試みるなどの、自力航行を続けるための応急措置を十分にとることなく、17時43分小森島灯台から真方位053度1,250メートルの地点において、本社に引船の応援を依頼するとともに、海上保安部に救助を要請した。
 当時、天候は曇で風力7の北北西風が吹き、波高2ないし2.5メートルの波があり、西郷港の日没は17時12分であった。
 レインボーは、A受審人が小森島などに接近しないよう前、後進操作を繰り返しながら中井口東方に留まり、長時間荒天にさらされた乗客に不安を抱かせていたところ、同日19時20分に来援した引船による曳航が開始されて20時20分過ぎ菱浦港に着岸し、船酔いの激しい乗客1人が病院で手当を受け、別府港に向かう乗客は手配した他船で輸送された。
(8)事後措置
 レインボーは、ダイバーによって左舷操舵ダクトのケーブル取付けねじ部が折損しているのが確認され、のち同ダクトのケーブルが取り替えられた。
 本件発生後、Cは、折損したケーブル取付けねじ部の破断面を精査した結果、再び高サイクル疲労破壊によって折損に至ったと確認されたことから、ジェット水流が微少亀裂などを生じた同ねじ部に当たり、繰り返し衝撃力を加えることも要因の1つとして、水流飛散防止用の邪魔板を油圧シリンダ支持腕に取り付け、同ねじ部を呼び8Mにサイズアップするとともに、整備の際にはねじ部の探傷検査を実施するよう改めたほか、Bの依頼で同ケーブル破損を含めた不具合発生時の自力航行マニュアルを新たに作成するなど、同種事故の再発防止策を講じた。
 一方、Bは、本件発生後、船長及び機関長会議を開催して事故状況を周知するとともに、Cに対して同ケーブル破損を含めた不具合発生時の自力航行マニュアルの作成を依頼し、その後同マニュアルに基づいて乗組員の非常操船訓練を実施するなど、同種事故の再発防止策を講じた。

(原因についての考察等)
 本件は、平成13年5月に発生した右舷操舵ダクトの舵角検出用ケーブル取付けねじ部切損事故に続き、翼走中に左舷操舵ダクトの同取付けねじ部が折損したもので、Cが前回事故は上架時ケーブル取付け後の外力、本件事故はジェット水流とそれぞれ折損要因が異なり、本件事故については予見不可能であったと主張するので、両事故の要因について検討する。
 取付けねじ部の折損模様については、前回事故後及び本件後に作成された両技術連絡書写中に、いずれも材質及び寸法の問題はなく、破断面にはマクロ組織的にはビーチマークを、ミクロ組織的には起点部及び伝播部に高サイクル疲労破壊特有の組織状模様を認め、損傷部近傍のねじ底に微小亀裂が生じていたことが記載されており、さらに、両書写では、上架時のケーブル取付け後に物の落下などの外力によりねじ部に傷の発生又は衝撃が加わった、及び主機及び船体の改造で喫水が増加したことによりジェット水流の方向と強さが変化してねじ部に衝撃を与えた、という共通の要因を指摘している。
 また、同13年4月に喫水の増加を伴う改造を行った定期検査工事の完工後の取付けねじ部に係わる経過をまとめると、以下のとおりである。
(1)4月20日に運航を開始し、40日後の5月30日に右舷ダクト取付けねじ部が折損した。
(2)5月31日右舷ダクトケーブル取替え後運航を再開し、同年12月17日からの定期整備で、取付けねじ部を呼び5Mから6Mに変更したケーブルに取り替えられたが、その約6箇月半の間両舷ダクトの取付けねじ部とも異常は生じなかった。
(3)翌14年4月20日に運航を開始し、同年9月の2日から6日まで中間整備を行い、翌7日から運航を再開して54日後(4月20日からは約6箇月半経過)の11月1日に左舷ダクト取付けねじ部が折損した。
 これらの経過は、呼び5Mと6Mの取付けねじ部が、それぞれほぼ同条件で約6箇月半使用された結果、前者は異常なく、後者は片舷に折損を生じたということで、ジェット水流のみが要因ではないことを示すものである。一方、折損がいずれも上架整備後短期間のうちに発生していることについては、Cが前回事故ではケーブル取付け後の外力を主要因としながらも、本件前の中間整備ではその有無が詳細に点検されていないので明らかではないが、N代理人の当廷における、「本件前の整備時にねじ部は保護されていたと思うが、何らかの外力が加わった可能性はゼロではない。」旨の供述、及び部材の腐食、傷及び切欠き等の表面状態は疲労強度に大きな影響を与えることを勘案すると、本件と前回事故とが、同様の折損形態であったことを示すものと考えるべきである。
 以上のことから、本件及び前回事故は、いずれも上架整備中のケーブル取付け状態で物の落下あるいは接触による外力が取付けねじ部に作用してねじ谷に損傷を生じ、運航中にジェット水流による衝撃を繰り返し受けたことで、損傷箇所を起点とした高サイクル疲労破壊により折損に至ったものと認めるのが相当であり、前回事故後の原因調査においてすでに指摘されていたこれら2つの要因について十分な検討を加え、防止、低減する措置が講じられていたならば、本件は防止できたもので、Cの主張は認めることはできない。

(原因)
 本件遭難は、島後水道を翼走中、左舷推進装置の操舵ダクトが舵角検出用ケーブル取付けねじ部の折損によりフォローアップ制御不能となった際、手動操作による同ダクト実舵角の確認や右舷推進装置のみによる片舷運転を試みるなど、自力航行を続けるための応急措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 海運業者が、以前に発生した右舷推進装置操舵ダクトの舵角検出用ケーブル取付けねじ部折損事故後、ケーブル破損時の現象と対処方法についてCに依頼するなどして詳細に検討しなかったことは、本件発生の原因となる。
 造船業者の設計・アフターサービス部門が、以前に発生した右舷推進装置操舵ダクトの舵角検出用ケーブル取付けねじ部折損事故後、ジェット水流など同ねじ部に加わる外力について十分に検討せず、適切な防止策を講じなかったことは、本件発生の原因となる。
 
(受審人等の所為)
 A受審人は、島後水道を翼走中、左舷推進装置操舵ダクトの操舵偏差大警報が作動し、フォローアップ制御が不能となって着水した場合、油圧系統には異常がなかったのであるから、同ダクトを手動操作して実舵角を確認したり、右舷推進装置のみの片舷運転による艇走を試みるなど、自力航行を続けるための応急措置を十分にとるべき注意義務があった。ところが、同人は、離着桟モードでの操作と船の動きが矛盾することだけで操船不能になったと判断し、自力航行を続けるための応急措置を十分にとらなかった職務上の過失により、旅客輸送を中断して長時間荒天にさらされる事態を招いた。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 Bが、以前に発生した右舷推進装置操舵ダクトの舵角検出用ケーブル取付けねじ部折損事故後、同種事故に対して乗組員が円滑に措置できるよう、ケーブル破損時の現象と対処方法についてCに依頼するなどして詳細に検討しなかったことは、本件発生の原因となる。
 Bに対しては、本件発生後、Cに対して同ケーブル破損を含めた不具合発生時の自力航行マニュアルの作成を依頼し、その後同マニュアルに基づいて乗組員の非常操船訓練を実施するなど、同種事故の再発防止策を講じた点に徴し、勧告しない。
 Cが、以前に発生した右舷推進装置操舵ダクトの舵角検出用ケーブル取付けねじ部折損事故後、ジェット水流など同ねじ部に加わる外力について十分に検討せず、ねじ部の径を大きくする以外に適切な防止策を講じなかったことは、本件発生の原因となる。
 Cに対しては、本件発生後、ジェット水流による衝撃力を防止するために油圧シリンダ支持腕に邪魔板を取り付けるとともに、整備の際にはねじ部の探傷検査を実施するよう改めるなど、同種事故の再発防止策を講じた点に徴し、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。





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