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 海難審判庁採決録 >  2003年度(平成15年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成15年門審第99号
件名

漁船正福丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成15年12月12日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(西村敏和)

副理事官
小俣幸伸

受審人
A 職名:正福丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船底部に亀裂を生じて浸水、機関などを濡損

原因
船位確認不十分

裁決主文

 本件乗揚は、船位の確認が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年11月11日05時20分
 響灘の白州
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船正福丸
総トン数 9.92トン
登録長 12.40メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 367キロワット

3 事実の経過
 正福丸は、ひき縄漁業に従事するFRP製漁船で、平成11年8月交付の一級小型船舶操縦士免状を有するA受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.55メートル船尾1.68メートルの喫水をもって、平成14年11月10日02時30分和歌山県周参見漁港を発し、僚船6隻とともに関門海峡経由で長崎県対馬比田勝港に向かい、16時00分山口県上関港に寄港して休息を取った。
 翌11日01時00分A受審人は、僚船とともに上関港を発し、法定の灯火を表示して関門海峡に向かい、04時00分ごろ同海峡東口の部埼沖を通過し、僚船に先行して関門港に入り、関門航路及び関門第2航路を西行していたところ、後続する僚船との距離が離れたため、関門第2航路を出た後、05時00分白州灯台から137度(真方位、以下同じ。)1.9海里の、響灘1号防波堤の北側約600メートルの地点において漂泊し、僚船の到着を待った。
 ところで、A受審人は、毎年10月から12月にかけ、比田勝港を基地として対馬周辺海域でよこわひき縄漁を操業しており、これまで何度も関門海峡を経由して比田勝港に回航したことがあり、その際は、同海峡を通過した後、白島石油備蓄基地(以下「備蓄基地」という。)がある福岡県男島とその西南西方約1海里に位置する女島の間を通過していたので、両島周辺の状況はもとより、男島の東南東方約3海里のところに、白州灯台が設置された白州の岩場が広範囲に拡延していることなど、響灘の水路事情については良く知っていたが、夜間に響灘を航行するのは初めてであった。
 A受審人は、しばらくして関門第2航路から出てきた僚船の灯火を視認することができたので、05時12分男島の東南東方約5海里にあたる前示漂泊地点を発進し、レーダーなどによって発進地点を確認せずに、これまでと同様に男島と女島の間を通過するつもりで、針路を315度に定め、機関回転数毎分1,500の全速力前進にかけ、14.0ノットの対地速力で自動操舵によって進行した。
 A受審人は、操舵室の左舷側でいすに腰を掛け、右舷側を向いて僚船と無線交信を始め、05時15分白州灯台から138度1.2海里の地点に差し掛かったとき、右舷船首3度に同灯台の灯光を、ほぼ正船首から左舷船首約15度にかけて備蓄基地の灯火をそれぞれ視認することができ、それらとの位置関係から、自船が男島と女島の間に向首しておらず、白州の岩場に向く針路であることを認め得る状況であったが、男島の南東方から発進して針路を北西にとったので、男島と女島の間を通過することができるものと思い、僚船との無線交信を続けていて、船位の確認を十分に行っていなかったので、このことに気付かずに続航した。
 こうして、A受審人は、僚船との無線交信を終えた後、今度は電話連絡を始め、05時18分白州灯台から143度940メートルの地点に達したとき、同灯台の灯光を右舷船首8度に視認し得る状況で、白州の岩場に向いた針路で進行していたが、依然として、このことに気付かないまま続航中、05時20分白州灯台から199度150メートルの地点において、正福丸は、原針路、原速力のまま同岩場に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好で、潮候は下げ潮の中央期に当たり、日出時刻は06時43分であった。
 乗揚の結果、正福丸は、船底部に亀裂を生じて浸水し、機関などに濡損を生じたが、のち修理された。 

(原因)
 本件乗揚は、夜間、関門海峡西口を発進し、白島石油備蓄基地のある男島と女島の間を通過しようとする際、船位の確認が不十分で、白州灯台が設置された白州の岩場に向いた針路で進行したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、関門海峡西口を発進し、白島石油備蓄基地のある男島と女島の間を通過しようとする場合、同備蓄基地の灯火や白州灯台の灯光との位置関係から、船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、男島の南東方から発進して針路を北西にとったので、男島と女島の間を通過することができるものと思い、右舷側を向いて僚船との無線交信や電話連絡を続け、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、白州灯台が設置された白州の岩場に向いた針路であることに気付かないまま進行して乗揚を招き、船底部に亀裂を生じさせて浸水し、機関などに濡損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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