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 海難審判庁採決録 >  2003年度(平成15年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成15年広審第106号
件名

貨物船神栄丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成15年12月8日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(高橋昭雄)

理事官
村松雅史

受審人
A 職名:神栄丸機関長 海技免許:五級海技士(航海)(履歴限定)

損害
船首船底外板に破口を伴った損傷

原因
居眠り運航防止措置不十分

裁決主文

 本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年4月30日23時00分
 瀬戸内海 備讃海域西部
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船神栄丸
総トン数 199トン
登録長 55.08メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 551キロワット

3 事実の経過
 神栄丸は、鋼製貨物船で、A受審人及び船長として実弟のB(以下「弟」という。)の2人が乗り組み、スクラップ550トンを載せ、船首2.40メートル船尾3.40メートルの喫水をもって、平成15年4月30日15時25分広島県広島港を発し、兵庫県姫路港飾磨区に向かった。
 ところで、兄のA受審人は、約25年も内航船に乗船し、その間に機関の海技免状を取得し機関長として、更に平成7年12月には航海の海技免状をも取得して船長としても乗り組むようになった。その後同12年に弟が五級海技士(航海)の免状を取得したことから、同年父親との共有で購入した自船に兄弟2人で乗り組み、弟に船長を行わせて休暇を交代でとって休暇下船中には他所から機関長を雇い、兄弟のいずれかが船長職を執って運航を維持していた。そして、船主を含め家族船員によって運航される生業船であったので、乗船経験も豊富で兄という立場から労務管理をはじめ兄弟2人が乗船中でも機関長職を執りながら、乗船経験の浅い弟に船橋当直や操船などの指導や指示を与え、当時月間平均8航海の広島積み姫路近郊の製鉄所揚げスクラップ輸送にあたり、船橋当直を4時間単独2直制で運営していた。
 こうして、A受審人は、広島港発航の前日休日であったので自宅で休息を十分に取ったものの、数日前から喉の痛みで処方された鎮痛剤系の薬を服用中であった。休日が明けた出航当日朝積荷桟橋にシフトして荷役の後、自ら出航操船に続いて単独で船橋当直にあたって音戸瀬戸を通航し、17時00分ころ同瀬戸通過後に弟と交替して下橋した。その後夕食用に持参した弁当を1本の缶ビールで食べ、しばらくして約1時間ほど仮眠を取ったのち、21時00分広島県鞆の浦付近で昇橋して弟と交替し、船橋当直に就いて岡山県白石瀬戸に向かった。
 ところが、A受審人は、操舵を手動にして白石瀬戸を通航していたとき、薬の服用のうえに夕食時少量とはいえアルコールの摂取により眠気が倍加する体調であったことから、眠気を覚えるようになった。21時50分沖ノ白石灯台から080度(真方位、以下同じ。)0.5海里の地点にあたる同瀬戸東口付近に達したところで、針路を下津井瀬戸に向かう086度に定めたとき、依然として眠気を催す状況であった。しかし、それまで数日間薬の服用で眠気を覚えながらも予定の単独当直を行い得たことで、居眠り運航に対して安易に考え、弟の船長と一時交替するなど何らかの居眠り運航の防止措置をとることなく、引き続き眠気を覚えながらも当直にあたり、機関を全速力前進にかけたまま10.5ノットの速力で自動操舵により備讃瀬戸西部塩飽諸島北方を東行した。その後、22時40分六口島灯標から267度2.9海里の地点に至り、前路の漁船群を避けその南側を航過するつもりで針路を103度に転じ、自動操舵にかけていすに腰掛けた姿勢で当直を続けているうちに半睡状態に陥った。
 こうして、A受審人は、まもなく左舷方に前示漁船群が替わる様子を朦朧とした状態で認めながら続航中、やがて居眠りに陥ってしまった。その後、神栄丸は、同漁船群を航過したものの、下津井瀬戸に向かう針路に戻されないまま進行し、23時00分六口島灯標から151度1.1海里の地点において、原針路、原速力のまま高月岩に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の末期であった。
 乗揚の結果、神栄丸は、船首船底外板に破口を伴った損傷を生じた。 

(原因)
 本件乗揚は、夜間、岡山県白石瀬戸を経て下津井瀬戸に向かう際、居眠り運航の防止措置が不十分で、塩飽諸島北部で漁船群を避けるべく転針したのち高月岩に向首したまま進行したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、乗組員が兄弟2人で荷役作業等を伴う運航にあたり、数日前から喉の痛みで処方された鎮痛剤系の薬を服用しながら単独で当直中に眠気を催すようになった場合、医師から服用により眠気を伴うことで交通機関に携わるときの注意及び指導を受け、服用を始めてからも何度か眠気を催し加えて当直前の夕食時に摂取した少量なるも缶ビール1本により眠気が倍加する体調であったから、仮にも当直中に居眠りに陥らないよう、実弟の船長と一時交替して仮眠を取るなど何らかの居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかし、同人は、それまでも薬の服用で眠気を覚えながら予定の単独当直を行い得たことで服用による居眠り運航に対して安易に考え、居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により、たまたま前方の漁船群を避けるべく転針したのち、引き続き眠気を催しながらいすに腰掛けた姿勢で当直を続けて居眠りに陥り、針路が戻されないまま進行して高月岩への乗揚を招き、船首船底外板に破口を伴った損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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