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平成15年長審第37号
件名

引船第二福錨乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成15年11月20日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(原 清澄、清重隆彦、寺戸和夫)

理事官
金城隆支

受審人
A 職名:第二福錨船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船底部外板に破口を伴う凹損及び推進器翼に曲損

原因
居眠運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年3月13日09時30分
 長崎県平戸島東岸
 
2 船舶の要目
船種船名 引船第二福錨
総トン数 19トン
登録長 15.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 588キロワット

3 事実の経過
 第二福錨(以下「福錨」という。)は、航行区域を沿海区域とし、船体中央部に操舵室を設けた鋼製引船兼作業船で、一級小型船舶操縦士免許(昭和62年7月30日取得)を有するA受審人が1人で乗り組み、浚渫船を曳航する目的で、船首1.50メートル船尾2.80メートルの喫水をもって、平成15年3月13日07時30分長崎県佐世保港を発し、同県壱岐郡石田町に向かった。
 08時19分半A受審人は、高後埼灯台から214度(真方位、以下同じ。)450メートルの地点に達したとき、針路を長崎県高島の牛ケ首沖合に向く304度に定め、機関を全速力前進にかけて10.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし、自動操舵により進行した。
 ところで、A受審人は、前日07時ころ起床し、08時前に出社して同日17時00分まで福錨の機関の整備作業などに従事し、同時15分ころ自宅に戻って入浴などをしたのち、18時45分ころ家を出て19時ころ同人の妻が経営する居酒屋に行き、料理の手伝いを翌13日05時30分ころまで行い、その後、自宅に戻って入浴するなどしてしばらく休んだのち、07時15分に乗船したもので、睡眠が不足した状態となっていた。
 定針後、A受審人は、背もたれ付きのいすに腰掛けて当直にあたり、牛ケ首灯台を航過すれば針路を332度に転じる予定で続航し、08時47分牛ケ首灯台から166度1.1海里の地点に達したとき、眠気を催したが、まさか居眠りに陥ることはあるまいと思い、舵を手動操舵に切り替え、立って船橋当直にあたるなどの居眠り運航の防止措置をとることなく進行した。
 その後、間もなくA受審人は、居眠りに陥り、08時53分牛ケ首灯台から214度1,350メートルの転針予定地点に達したものの、このことに気付かず続航した。
 福錨は、A受審人が居眠りに陥って適切な操船が行われず進行中、原針路、原速力のまま、09時30分前津吉港沖防波堤灯台から052度900メートルの長崎県平戸島東岸に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期であった。
 乗揚の結果、船底部外板の数箇所に破口を伴う凹損及び推進器翼に曲損をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。 

(原因)
 本件乗揚は、長崎県高島南方沖合を西行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、同県平戸島東岸に向首進行したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、長崎県高島南方沖合を西行中、眠気を覚えた場合、早朝まで妻の経営する居酒屋の手伝いをし、睡眠が不足した状態であったから、居眠りに陥らないよう、舵を手動操舵に切り替え、立って船橋当直にあたるなどの居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、まさか居眠りに陥ることはあるまいと思い、舵を自動操舵としていすに腰を掛けたまま進行し、手動操舵に切り替え、立って船橋当直にあたるなどの居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、間もなく居眠りに陥り、転針予定地点に達したことに気付かず、原針路、原速力を保ったまま進行して乗揚を招き、船底部外板に破口を伴う凹損を、推進器翼に曲損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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