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平成15年長審第38号
件名

漁船佐和丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成15年11月14日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(原 清澄、清重隆彦、寺戸和夫)

理事官
向山裕則

受審人
A 職名:佐和丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
船首船底部外板に破口等
船長が約6箇月間の入院加療を要する左大腿骨骨折及び肺挫傷等

原因
船位確認不十分

主文

 本件乗揚は、船位の確認が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年12月2日04時17分
 長崎県伊王島南西方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船佐和丸
総トン数 4.0トン
登録長 10.45メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 257キロワット

3 事実の経過
 佐和丸は、レーダーを装備しない、和船型のFRP製小型遊漁兼用船で、一級小型船舶操縦士免許(昭和50年3月28日取得)を有するA受審人が1人で乗り組み、イトヨリ、甘鯛及びレンコ鯛などの延縄漁を行う目的で、船首0.45メートル船尾1.25メートルの喫水をもって、平成14年12月2日04時00分長崎県深堀漁港を発し、同県三重式見港沖合の漁場に向かった。
 ところで、A受審人は、深堀漁港から三重式見港沖合の漁場に向かうに当たっては、過去の経験から、出港後、右舷側に200メートルばかり離して肥前黒瀬灯台と並航したとき、北西方に向く針路に転じれば、外ノ平瀬を左舷側に300メートルばかり離し、これを無難に航過できることを知っており、また、GPSプロッターに黒瀬や外ノ平瀬などの航行上の障害となるものは、小さな点として表示するようそれぞれ入力していた。
 04時11分A受審人は、伊王島灯台から157度(真方位、以下同じ。)2.0海里の地点に達したとき、針路を304度に定めたところ、外ノ平瀬に向首する態勢となったものの、伊王島や沖之島を十分に離して航行することのみに気をとられ、前路に存在する、同瀬の存在を失念し、このことに気付かず、機関回転数を毎分1,800の半速力前進にかけて13.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし、操舵室内に立って手動操舵により進行した。
 04時15分A受審人は、伊王島灯台から178度1.4海里の地点に達したとき、正船首830メートルのところに外ノ平瀬が存在したが、依然として伊王島や沖之島を十分に離して航行することに気をとられ、同瀬の存在を失念したまま、同瀬との航過距離を十分に保てるよう、GPSプロッターの画面を拡大するなどして船位を確認することなく続航した。
 佐和丸は、A受審人が外ノ平瀬の存在を失念したまま進行中、04時17分伊王島灯台から196度、1.2海里のところに存在する外ノ平瀬に、原針路、原速力のまま、乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力1の東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、月齢は27日であった。
 乗揚の結果、佐和丸は、船首船底部外板に破口等を生じたが、のち修理された。また、A受審人は、約6箇月間の入院加療を要する左大腿骨転子部骨折及び肺挫傷等を負った。 

(原因)
 本件乗揚は、夜間、長崎県伊王島南西方沖合を漁場に向けて西行中、船位の確認が不十分で、外ノ平瀬に向首進行したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、長崎県伊王島南西方沖合を漁場に向けて西行する場合、自船にレーダーを装備していなかったのであるから、前路の状況を前もって十分に把握できるよう、GPSプロッターの画面を拡大するなどして船位を確認すべき注意義務があった。しかるに、同人は、伊王島や沖之島を十分に離すことのみに気をとられ、前路の外ノ平瀬の存在を失念し、船位を確認しなかった職務上の過失により、同瀬に向首進行して乗揚を招き、船首船底部外板に破口等を生じさせ、自らも約6箇月間の入院加療を要する左大腿骨転子部骨折及び肺挫傷等を負うに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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