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 海難審判庁採決録 >  2003年度(平成15年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成15年那審第46号
件名

旅客船スバル8号乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成15年11月28日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(坂爪 靖)

副理事官
神南逸馬

受審人
A 職名:スバル8号船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船底外板全般に凹損等、のち廃船

原因
針路確認不十分

裁決主文

 本件乗揚は、針路の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年4月21日05時15分
 沖縄県石垣港南方東ノ瀬
 
2 船舶の要目
船種船名 旅客船スバル8号
総トン数 19トン
全長 18.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 882キロワット

3 事実の経過
 スバル8号は、平成元年3月に進水し、レーダーを備えない2機2軸の軽合金製旅客船で、沖縄県石垣港を基地として同県八重山列島諸港間の旅客の不定期輸送に従事していたところ、売船されることになり、同4年2月7日に一級小型船舶操縦士免許を取得したA受審人が1人で乗り組み、回航要員2人を乗せ、回航の目的で、船首尾とも0.8メートルの喫水をもって、同15年4月21日05時08分石垣港を発し、同港南東端付近の釜口経由で同県那覇港に向かった。
 釜口は、石垣島南岸から竹富島東岸にかけて弧状に拡延した干出さんご礁帯の切れ目を開削した、石垣港登野城第2防波堤灯台(以下、航路標識の名称については「石垣港登野城」の冠称を省略する。)からその南東方沖合の出入口(以下「釜口南口」という。)までの長さ約1,160メートル可航幅約50メートルの狭い水路で、第2防波堤灯台付近から120度(真方位、以下同じ。)方向に約820メートル延び、そこから屈曲して168度方向に約340メートル延びて沖合に通じており、主に地元の小型漁船などに利用されていた。そして、同水路の航路標識としては、釜口南口西側に左舷標識の第1号灯標、港内に向かって順に第3号灯標、第5号灯標及び第7号灯標、釜口南口東側には右舷標識の第2号灯標、港内に向かって順に第4号灯標及び第8号灯標がそれぞれ設けられていた。
 ところで、A受審人は、それまでにスバル8号に2年半ほど、Y株式会社所有の同船以外の各船に8年合計10年半ほど船長として乗船し、八重山列島諸港間の運航に従事していたほか、遊覧などを目的としたチャーター便の船長として年に何度か釜口を航行しており、釜口及びその付近の航路標識の設置状況や釜口南口西側から南方沖合に拡延する東ノ瀬と呼ばれる干出さんご礁帯、同口東側からその東南東約4海里の白保埼にかけて陸岸沿いに拡延する干出さんご礁帯の存在などの水路状況について十分に承知していた。
 発航後、A受審人は、操舵室前部右舷側で立った姿勢で手動操舵に当たり、機関を4.0ノットの極微速力前進にかけ、その後徐々に増速しながら港内を東行して釜口に入った。そして、釜口南口通過後は少し沖合に向かって南下したあと同口東側の陸岸沿いに拡延する干出さんご礁帯を離して東行するつもりで、同南口に向かって水路を南下した。
 05時12分少し過ぎA受審人は、第2防波堤灯台から137度1,100メートルの、釜口南口で第1号灯標と第2号灯標の中間の地点に達し、第1号灯標を右舷側30メートルに航過したとき、機関を全速力前進にかけて18.0ノットの対地速力とし、針路を177度にするつもりで、右舵を取り、船首方は灯台、灯標などの夜標がなく真っ暗なので、勘だけを頼りに針路を定めたところ、192度となって、釜口南口沖合の東ノ瀬東端付近の浅礁に向首する状況となったが、意図した針路になっているものと思い、コンパスやGPSを見たり、操舵室右舷側の扉を開けて後方を振り向き、第1号灯標と第4号灯標との見通し線及び第2号灯標と第4号灯標との見通し線を利用したりするなどして針路の確認を十分に行わないで、この状況に気付かないまま進行した。
 スバル8号は、同じ針路、速力で続航中、05時15分少し前A受審人が前方至近に東ノ瀬東端付近で生じる白波を認め、慌てて左舵を取ったが効なく、05時15分第2防波堤灯台から170度2,350メートルの地点において、原針路、原速力のまま、同瀬東端付近の浅礁に乗り揚げた。
 当時、天候は曇で風力3の東風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、視界は良好であった。
 乗揚の結果、船底外板全般に凹損等を生じたが、自力離礁し、のち廃船とされた。 

(原因)
 本件乗揚は、夜間、沖縄県石垣港を発航後、釜口を通航してその南口で針路を定める際、針路の確認が不十分で、釜口南口沖合の干出さんご礁帯東ノ瀬東端付近の浅礁に向首進行したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、沖縄県石垣港を発航後、釜口を通航してその南口で針路を定める場合、釜口南口沖合には干出さんご礁帯東ノ瀬が存在するから、これに近づかないよう、コンパスやGPSを見たり、操舵室右舷側の扉を開けて後方を振り向き、第1号灯標と第4号灯標との見通し線及び第2号灯標と第4号灯標との見通し線を利用したりするなどして針路の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、手動操舵で勘だけを頼りに針路を定めたものの、意図した針路になっているものと思い、針路の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、東ノ瀬東端付近の浅礁に向首していることに気付かないまま進行して乗揚を招き、スバル8号の船底外板全般に凹損等を生じさせて同船を廃船させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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