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 海難審判庁採決録 >  2003年度(平成15年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成15年那審第22号
件名

油送船ビトゥメン グローリー乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成15年11月28日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(坂爪 靖、小須田 敏、上原 直)

理事官
平良玄栄

指定海難関係人
A 職名:ビトゥメン グローリー船長

損害
船底全般に凹損、推進器翼及び舵板に曲損等

原因
船位確認不十分

主文

 本件乗揚は、船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年2月5日11時15分
 沖縄県竹富島御埼西北西方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 油送船ビトゥメングローリー
総トン数 3,932トン
登録長 97.20メートル
17.50メートル
深さ 7.70メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 3,220キロワット

3 事実の経過
 ビトゥメン グローリー(以下「ビ号」という。)は、シンガポール共和国シンガポール港を基地とし、主に沖縄県石垣島石垣港経由で中華人民共和国と台湾間のアスファルト等の輸送に従事する船尾船橋型鋼製油送船で、A指定海難関係人ほか19人が乗り組み、アスファルト5,399トンを積載し、船首5.80メートル船尾6.50メートルの喫水をもって、平成15年2月4日03時00分(日本標準時、以下同じ。)台湾基隆港を発し、同港から中華人民共和国諸港への直航が禁じられているので、クリアランス手続きのため石垣港に向かい、同日21時00分同港北西方沖合の名蔵湾に至り、琉球観音埼灯台から305度(真方位、以下同じ。)1.5海里の地点に投錨仮泊した。
 ところで、A指定海難関係人は、それまでに石垣港に15回入港した経験があったことから、石垣港北西部に琉球観音埼灯台、同灯台の南南西方約1.1海里に石垣港中央灯浮標、その南東方約0.7海里には検疫錨地があることなど同港とその付近の航路標識の設置状況、地形、水深の状況及び陸岸から沖合に向かって拡延する石垣島や竹富島周辺のさんご礁の存在などについて十分に承知していた。
 翌5日10時30分ごろA指定海難関係人は、自船の南東方約2.7海里のところにある検疫錨地に転錨することとし、一等航海士、甲板長及び甲板員を船首に配置し、操舵手を手動操舵に就け、自ら操船の指揮を執り、レーダーを作動させ、同時45分抜錨し、船首が北北西方を向いていたことから、左舵一杯を令して機関を半速力前進にかけ、前示喫水で平均2.6ノットの対地速力(以下「速力」という。)で移動を始めた。
 そのころ、A指定海難関係人は、霧雨のため視界が狭められ、視程1海里以下で、琉球観音埼灯台や石垣港中央灯浮標、竹富島北端の御埼など付近の物標を肉眼で見ることができず、3海里レンジとしたレーダーをのぞいたところ、同画面上の自船から125度1.5海里のところに観音埼、同186度2.4海里のところには御埼の映像が映っていたものの、同画面を一瞥(いちべつ)しただけでこれらを注意深く観察しなかった。そのため、A指定海難関係人は、御埼の映像を観音埼の映像と誤認し、自船から見て同埼右側の石垣港中央灯浮標に向首するつもりで舵を種々に使用し、10時55分琉球観音埼灯台から298度1.7海里の地点に達したとき、勘だけを頼りに針路を204度に定めたところ、御埼西北西方沖合のさんご礁に向首する状況となったが、目的地に向いた針路になっているものと思い、コンパスやGPSを見たり、レーダーを使用し、特に、海図上の地形とレーダーに表示された地形とを比較しながらレーダー画面上の目標を確かめ、その方位距離を測定するなどして船位の確認を十分に行わないで、この状況に気付かないまま、6.5ノットの速力で進行した。
 ビ号は、船位の確認が十分に行われないまま、同じ針路、速力で続航中、11時14分半A指定海難関係人が前方至近に御埼西北西方沖合のさんご礁外縁で生じる白波を認め、慌てて機関を極微速力に減じたが、11時15分琉球観音埼灯台から244度2.7海里の地点において、原針路、原速力のまま、浅礁に乗り揚げた。
 当時、天候は霧雨で風力4の北風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
 乗揚の結果、船底全般に凹損、推進器翼及び舵板に曲損等を生じたが、救助船により引き下ろされ、のち修理された。 

(原因)
 本件乗揚は、沖縄県石垣港北西方沖合において、港外錨地から港内の検疫錨地に転錨するにあたり、船位の確認が不十分で、竹富島御埼西北西方沖合のさんご礁に向かって進行したことによって発生したものである。
 
(指定海難関係人の所為)
 A指定海難関係人が、沖縄県石垣港北西方沖合において、港外錨地から港内の検疫錨地に転錨する際、船位の確認を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 A指定海難関係人に対しては、勧告するまでもない。

 よって主文のとおり裁決する。





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