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平成15年門審第79号
件名

押船第六 三笠丸被押台船ゆたか18乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成15年11月14日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(西村敏和)

副理事官
小俣幸伸

受審人
A 職名:第六 三笠丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
台船ゆたか18・・・損傷ない
三笠丸・・・両舷推進器翼及び左舷側シューピースに曲損

原因
水路調査不十分

裁決主文

 本件乗揚は、水路調査が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年4月24日07時40分
 中津港
 
2 船舶の要目
船種船名 押船第六 三笠丸 台船ゆたか18
総トン数 19トン 約953トン
全長 14.00メートル 50メートル
登録長 12.80メートル  
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,206キロワット  

3 事実の経過
 第六 三笠丸(以下「三笠丸」という。)は、2機2軸を備えた鋼製押船で、平成12年6月一級小型船舶操縦士免状の交付を受けたA受審人ほか2人が乗り組み、船首1.00メートル船尾2.55メートルの喫水をもって、鋼材300トンを積載して船首尾とも0.60メートルの等喫水となった、無人で非自航の鋼製台船ゆたか18の船尾に三笠丸の船首を付けて索で固定(以下「三笠丸押船列」という。)し、平成15年4月23日10時00分大分県佐伯港を発して、福岡県宇島港に向かった。
 これより先、A受審人は、宇島港への入港が初めてであり、入港経験のある中津港の西方に位置していること、及び、宇島港内に目標となる高い煙突があることだけは知っていたものの、宇島港の正確な位置などについては知らなかったが、中津港沖合から西行しさえすれば宇島港沖合に到着できるものと軽く考え、運航者から宇島港内の略図を受け取っただけで、三笠丸に備付けの海図第1011号により、宇島港の位置、中津港沖合から宇島港沖合に至る経路及び航路標識を確認しないまま発航した。
 A受審人は、自らと甲板員とで交互に船橋当直に就き、大分県国東半島沿いに北上して姫島水道を通過し、翌24日01時00分ごろ同県長洲港北方約5海里の地点に達したところで、宇島港への入港時刻の調整のため漂泊した。
 06時20分A受審人は、豊前長州港導流堤灯台から358度(真方位、以下同じ。)4.7海里の地点を発進し、そのころ霧雨のため視界が狭まってきたので、とりあえず発進地点の西方約5海里の中津港沖合に向けることにし、機関回転数毎分1,400の全速力前進にかけ、7.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で進行した。
 A受審人は、いすに腰を掛けて手動操舵に当たり、06時52分中津港北防波堤灯台から060度2.4海里の地点に差し掛かったころ、視程が約500メートルにまで狭まったので、休息中の甲板員を昇橋させて見張りに就け、自らはレーダーを短距離レンジに切り替えて見張り及び船位の確認を行いながら続航していたところ、左舷船首方に灯浮標らしいレーダー映像を探知したので、これに接近して双眼鏡により同灯浮標に「中津港」と標示されているのを確認し、同灯浮標が中津港港口に設置された中津港第1号及び第2号両灯浮標(以下「中津港第1号灯浮標等」という。)であり、中津港沖合に達したことを知った。
 ところで、宇島港は、中津港第1号灯浮標等の西方約7海里のところに位置し、宇島港沖合には宇島港沖第1号及び第2号両灯浮標が設置されて同港港口への水路が示され、港口となる宇島港西3号防波堤の北端には、赤色塗色の右舷標識である宇島港西3号防波堤灯台が設置されていて、同灯台を右舷に見て入港するようになっており、港内にある九州電力株式会社豊前火力発電所の高さ204メートルの煙突が著名な物標となっていた。
 一方、中津港の西部は、大分、福岡両県境となっている山国川の河口にあたり、沖合一帯は中津平州と呼ばれる浅所が広がっており、同河口の右岸に大分県小祝漁港が、同左岸には福岡県吉富漁港が整備され、また、山国川左岸及び右岸両導流堤(以下、導流堤の名称については「山国川」を省略する。)が、同河口から約1,500メートル沖合まで約200メートル隔ててほぼ南北に築造され、両導流堤間の水路が各漁港への通行路となっていて、中津港第1号灯浮標等の西方約3.5海里にあたる、左岸導流堤の北方250メートルの海上に設置された、赤色塗色の右舷標識である中津港灯標を右舷に見て同水路に入り、各漁港に向かうようになっていた。
 A受審人は、中津港の港口に達したことを確認することができたものの、ここからは距岸約1.5海里のところを西行しさえすれば、そのうち宇島港に到着できるものと思い、備付けの海図により、中津港第1号灯浮標等と宇島港との位置関係を確認するなど、水路調査を十分に行わずに、07時06分中津港北防波堤灯台から037度1,600メートルの地点において、針路を275度に定め、霧雨のため視界が狭まって陸岸などを視認することができない状況のもと、レーダーを頼りに中津港の港域を西行した。
 A受審人は、やがて中津平州の浅所に差し掛かり、07時28分半中津港灯標から100度1,700メートルの地点で、推進器流により海底の泥が掻き揚げられ(かきあげられ)、海水が濁っているのを認めて水深が浅いことを知り、急いで針路を300度に転じて沖出しを始めた。
 07時32分少し前A受審人は、中津港灯標から085度1,000メートルの地点に達したとき、レーダーにより左舷正横付近に中津港西部に位置する山国川河口の陸岸や導流堤の映像を探知したが、同映像が同河口の映像であることに気付かず、それが宇島港であり、導流堤の映像が宇島港の防波堤であると思い、針路を導流堤の北方約250メートルに向く265度に転じて進行した。
 07時34分半A受審人は、中津港灯標から085度500メートルの地点で、正船首に同灯標をうっすらと視認することができたものの、導流堤を視認することができず、通常、入港する際は右舷標識を右舷に見て進行しなければならないのに、レーダーで探知した港口と思われる開口部に向かうためには、同灯標を左舷に見ることになり、疑問を抱いたものの、依然として、備付けの海図により、水路調査を十分に行わなかったので、中津港灯標を宇島港港口の灯台と誤認し、また、吉富漁港及び左岸導流堤のレーダー映像を宇島港の映像であると誤認したまま、同灯標を左舷側に見て左回りするため、一旦(いったん)右回頭を始め、見張りに就いていた甲板員に対して宇島港内の高い煙突を探すように指示し、レーダー映像を確認しながら続航した。
 07時36分A受審人は、中津港灯標から060度250メートルの地点に差し掛かったとき、宇島港沖合に達していないことに気付かないまま、入港に備えて機関を回転数毎分1,000の半速力前進とし、5.0ノットの速力に減じて、今度は左回頭を始めた。
 こうして、A受審人は、中津港灯標を左舷側約200メートルに見て左回頭し、07時37分半中津港灯標から000度200メートルの地点に達して船首が270度を向いたとき、ほぼ左舷正横となった吉富漁港付近の開口部の映像に向けようとして、更に左回頭を続けたところ、やがて中津平州の浅所に向けて進行することになり、07時40分中津港灯標から254度250メートルの地点において、三笠丸押船列は、船首が180度を向いたとき、原速力のまま、同浅所に乗り揚げた。
 当時、天候は霧雨で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期で、視程は約500メートルであった。
 三笠丸押船列は、同日11時50分自力離礁して宇島港に向かった。
 乗揚の結果、台船ゆたか18に損傷はなかったが、三笠丸は、両舷推進器翼及び左舷側シューピースに曲損などを生じたが、のち修理された。 

(原因)
 本件乗揚は、大分県佐伯港から福岡県宇島港に向かう際、水路調査が不十分で、山国川河口に広がる浅所に向く針路で進行したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、大分県佐伯港から中津港沖合を経由して福岡県宇島港に向けて西行する場合、宇島港への入港が初めてであり、宇島港が入港経験のある中津港の西方に位置することは知っていたものの、宇島港の正確な位置などを知らなかったのであるから、備付けの海図により、宇島港の位置を確認するなど、水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、中津港の港口に設置された灯浮標を確認して同港沖合に達したことを知ったものの、ここから西行しさえすれば、宇島港沖合に到着できるものと軽く考え、水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、霧雨のため視界が狭まって陸岸などを視認することができない状況のもと、中津港沖合を西行していたところ、同港西部に位置する山国川河口のレーダー映像を宇島港の映像であると誤認し、同河口に広がる浅所に向く針路で進行して乗揚を招き、ゆたか18に損傷はなかったが、第六 三笠丸の両舷推進器翼及び左舷側シューピースに曲損などを生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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