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 海難審判庁採決録 >  2003年度(平成15年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成15年横審第64号
件名

漁船第五光栄丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成15年11月13日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(阿部能正、黒田 均、西山烝一)

理事官
松浦数雄

受審人
A 職名:第五光栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
航海機器及び主機等に濡損を生じて船体放棄

原因
水路調査不十分

主文

 本件乗揚は、水路調査が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年1月13日02時10分
 小笠原諸島沖ノ鳥島
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第五光栄丸
総トン数 19.51トン
登録長 14.95メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 117キロワット

3 事実の経過
 第五光栄丸(以下「光栄丸」という。)は、まぐろはえ縄漁に従事するFRP製漁船で、A受審人(昭和63年5月26日一級小型船舶操縦士免状取得)ほか3人が乗り組み、操業の目的で、船首1.3メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、平成15年1月7日16時00分沖縄県泊漁港を発し、小笠原諸島沖ノ鳥島周辺海域の漁場に向かった。
 沖ノ鳥島は、東西の長さ約2.4海里、幅最大約0.9海里のだ円形をした環礁で、西側の北緯20度25分23秒東経136度04分26秒の地点にBM(基本水準標)があり、その東方には海図W49号(小笠原諸島諸分図第1)に所在地点の記載はないが、かなり遠方から目視できるコンクリートブロック造の作業基地などがあるほか、基本水準標の西側及び東側にコンクリートで囲まれた高さ約1メートル幅約21メートルの露岩2個があるのみであった。
 また、高潮時には、環礁のほとんどが水面下に没し、環礁の周囲が急深で、波が砕けることがある環礁外縁と薄緑色の環礁内部とにより外洋と識別されるが、かなり接近しないと視認は困難なところであった。
 ところで、A受審人は、泊漁港発航前から、沖ノ鳥島周辺海域で、同島に接近して瀬付まぐろ漁を行う予定でいたが、それまで同海域で幾度となく操業し、沖ノ鳥島が記載されている小縮尺の海図第1004号Aを備えており、作業基地が存在することも知っていたことから、同基地をレーダーで確かめ適宜離せば大丈夫と思い、同島環礁に乗り揚げないよう、海図W49号を購入のうえ、環礁の大きさや状況を精査するなど、水路調査を十分に行わなかった。
 1月10日21時00分A受審人は、沖ノ鳥島周辺海域に到着して第1回目の操業を行ったのち、翌々12日12時30分北緯20度21.5分東経135度54.9分の地点において、第2回目の操業時に同島の南方5海里沖合に東西方向へ14海里、同島の東方2.5海里沖合に南北方向へ10海里の長さに、それぞれ入れた漁具を揚げる作業を開始した。
 漁具を揚げる作業は、縄を入れた反対の針路で揚げて行くのが通常であるが、沖ノ鳥島周辺海域の不測の海潮流により、縄が複雑な方向へ流れるので、船首を東方、あるいは北方へ向け、2ないし3ノットの速力で進行しながら行うものであった。
 翌13日02時00分A受審人は、基本水準標から084度(真方位、以下同じ。)2.1海里の地点で、漁具を揚げる作業を終了し、右舷側から風浪を受けた状態で、船首を315度に向け、機関を中立運転として漂泊した。
 こうして、A受審人は、前示のとおり、水路調査を十分に行っていなかったので、沖ノ鳥島環礁東側外縁から東方200メートルばかりの地点で漂泊していることに気付かず、操舵室から出て上甲板で漁具の整理作業中、風浪や海潮流により同島環礁東側外縁に向かって圧流され、02時10分基本水準標から086度2.0海里(北緯20度25分31秒東経136度06分31秒)の地点において、光栄丸は、船首を315度に向けたまま、左舷船底部が同外縁に乗り揚げた。
 当時、天候は曇で風力5の北東風が吹き、波高は約2メートルであった。
 乗揚の結果、光栄丸は波浪により左舷側に大傾斜して横転し、航海機器及び主機等に濡損を生じて船体放棄され、また、乗組員全員は海上自衛隊の飛行艇により救助された。 

(原因)
 本件乗揚は、小笠原諸島沖ノ鳥島周辺海域で、同島に接近して瀬付まぐろ漁を行うにあたり、水路調査が不十分で、夜間、同島環礁東側外縁の至近距離で漂泊中、風浪や海潮流の影響により同外縁に圧流されたことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、小笠原諸島沖ノ鳥島周辺海域で、同島に接近して瀬付まぐろ漁を行うことを予定して発航する場合、小縮尺の海図第1004号Aしか備えていなかったのであるから、同島環礁に乗り揚げないよう、海図W49号を購入のうえ、環礁の大きさや状況を精査するなど、水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同島に作業基地が存在することも知っていたことから、同基地をレーダーで確かめ適宜離せば大丈夫と思い、水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、夜間、漁具を揚げる作業を終了して同島環礁東側外縁の至近距離で漂泊中、風浪や海潮流により同島環礁東側外縁に圧流されて乗揚を招き、左舷側に大傾斜して横転し、航海機器及び主機等に濡損を生じて船体を放棄するに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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