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平成15年神審第23号
件名

巡視艇むろづき乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成15年10月24日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(竹内伸二、小金沢重充、平野研一)

理事官
佐和 明

受審人
A 職名:むろづき船長 海技免許:一級海技士(航海)

損害
左舷プロペラ軸及び左舷逆転機を損傷、左舷プロペラの一部に欠損及び曲損並びに左舷
舵板などに曲損を生じ、機関室に浸水

原因
船位確認不十分

主文

 本件乗揚は、船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年11月14日10時55分
 和歌山県田辺港
 
2 船舶の要目
船種船名 巡視艇むろづき
総トン数 101トン
全長 33.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 4,020キロワット

3 事実の経過
 むろづきは、和歌山県串本港を基地として同県新宮市から潮岬西方の和深埼(わふかざき)に至る海域で巡視警戒業務に従事する、2機2軸を装備した鋼製巡視艇で、A受審人ほか6人が乗り組み、定期修理のため、船首尾とも1.20メートルの喫水をもって、平成14年11月14日10時37分和歌山県田辺港内の文里港(もりこう)を発し、大阪湾の入渠地に向かった。
 A受審人は、平成11年4月むろづき船長として着任し、田辺港には6回ほど寄港したことがあり、また、以前に田辺海上保安部に勤務していたことから同港内の水路事情に精通していた。
 ところで、田辺港内には、浅瀬や険礁が多く、文里港から出航する際、同港を出たのち田辺港斉田山(さいだやま)導灯(以下、田辺港内の航路標識名については「田辺港」を省略する。)が示す航路線上を北西に進行して樋島周辺に広がる険礁の北方を通り、田辺漁港沖合で左転したあと会津川左岸の大浜導灯の2灯を船尾方向ほぼ一線に見ながら、航行に危険な暗岩が存在するアボセ北方を経て、幅約400メートルのアボセ灯浮標、斎田埼(さいだざき)南方灯浮標間の水路を通航する針路が出航船の航路となっていた。
 A受審人は、離岸して船首尾の配置を解いたあと、航海士補に警備救難情報表示装置を、機関士補にレーダーをそれぞれ監視させ、機関長に機関操縦盤の監視と操作にあたらせるとともに、別の航海士補を手動操舵に、残る2人の部下を見張りにそれぞれ就け、自身は操舵室右舷前部でいすに座って操船にあたった。
 A受審人は、斉田山導灯に向首して航行していたとき、田辺漁港沖の転針地点西方に、船びき網漁の操業を行っている4ないし5隻の漁船の船団を認め、この船団を替わすため、大浜導灯が示す245.6度(真方位、以下同じ。)の針路線に達しても転針しないでしばらく北西に航行したのち機関を止めてその動きを監視し、間もなく船団が北西方に通過したのでアボセ灯浮標と斎田埼南方灯浮標の間に向けようとしたところ、両灯浮標間に、5隻の漁船から成る船団を認めたので、アボセ灯浮標寄りに航行することとし、10時47分少し前江川西防波堤灯台から251度270メートルの地点で、針路を同灯浮標に向首する220度に定め、両舷機を極微速力前進にかけて8.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
 A受審人は、船団の漁船が所定の形象物を掲げていないものの、動きが遅いことから船びき網漁の操業中と判断し、部下に前路をよく見て漁網の位置を確認するよう告げ、船団の動向に留意しながら続航し、10時49分半江川西防波堤灯台から230度800メートルの地点に達し、アボセ灯浮標まで400メートルとなったとき、船団の中の1隻が同灯浮標北側至近にほぼ停船していたので、同船が引いている漁網をプロペラに巻き込まないよう針路を210度に転じて進行した。
 A受審人は、10時50分半江川西防波堤灯台から225度1,050メートルの地点で、アボセ灯浮標まで160メートルとなったとき、右舷前方至近に漁網の一部を認めたので絡網を避けるため、機関を止めるとともに右舵一杯を令し、間もなく行きあしがなくなり、同時51分アボセの暗岩北西方約180メートルのところで漂泊を始めた。
 A受審人は、その後北西風により圧流されることが予想されたものの、部下に漁船がえい網する漁網の位置を確認するよう指示し、自らもアボセ灯浮標と漁網との間に航行できる余地があるかどうか漁網の位置を確認するため同灯浮標付近の海面を注意して見ながら漂泊を続け、やがて折からの北西風により南東方に1ないし2ノットで圧流されるようになり、アボセの暗岩に著しく接近する状況となったが、漁網の位置を確認することに気を奪われ、部下にレーダーや警備救難情報表示装置を監視させるなどして船位の確認を十分に行わなかったのでこのことに気付かず、機関を使用してアボセから離れる措置をとらないまま漂泊を続けた。
 10時55分わずか前A受審人は、アボセ灯浮標との距離が離れたことから暗岩に接近したことを知り、両舷機微速力前進及び斎田埼南方灯浮標に向けるよう指示したが及ばず、10時55分むろづきは、江川西防波堤灯台から218度1,100メートルの地点において、305度に向首したとき、船尾がアボセの暗岩に乗り揚げて擦過した。
 当時、天候は曇で風力4の北西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、波高は約1メートルであった。
 乗揚の結果、左舷プロペラ軸及び左舷逆転機が損傷するとともに、左舷プロペラの一部に欠損及び曲損並びに左舷舵板などに曲損をそれぞれ生じ、機関室に浸水したが、のち修理された。 

(原因)
 本件乗揚は、和歌山県田辺港において、出航時アボセ灯浮標と斎田埼南方灯浮標との間の水路を通航する際、同水路内で操業中の漁船がえい網する漁網の位置を確かめるため、アボセ北西方で漂泊中、船位の確認が不十分で、機関を使用してアボセから離れる措置がとられず、折からの北西風により圧流され、アボセの暗岩に著しく接近したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、和歌山県田辺港内において、出航時アボセ灯浮標と斎田埼南方灯浮標との間の水路に向け航行中、同水路内で操業中の漁船がえい網する漁網の位置を確かめるため、アボセ北西方で漂泊した場合、北西風により圧流されることが予想されたのであるから、部下にレーダーや警備救難情報表示装置を監視させるなどして船位を十分に確認すべき注意義務があった。しかし、同人は、漁網の位置を確かめることに気を奪われ、船位を十分に確認しなかった職務上の過失により、アボセの暗岩に著しく接近したことに気付かず、機関を使用してアボセから離れる措置をとることなく漂泊を続けて同暗岩への乗揚を招き、左舷プロペラ軸及び左舷逆転機を損傷させるとともに、左舷プロペラの一部に欠損及び曲損並びに左舷舵板などに曲損をそれぞれ生じさせて機関室に浸水させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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