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平成15年仙審第18号
件名

貨物船幸正丸かき養殖施設損傷事件(簡易)

事件区分
施設等損傷事件
言渡年月日
平成15年9月9日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(吉澤和彦)

理事官
阿部房雄

受審人
A 職名:幸正丸船長 海技免状:三級海技士(航海)(旧就業範囲)

損害
幸正丸・・・・・・損傷ない
かき養殖施設・・・多数の筏が損傷

原因
船位確認不十分

裁決主文

 本件かき養殖施設損傷は、船位の確認が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年8月17日21時10分
 岩手県大船渡港
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船幸正丸
総トン数 498トン
全長 75.18メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット

3 事実の経過
 幸正丸は、砂利、砂等の輸送に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、砂1,580トンを積載し、船首3.48メートル船尾4.79メートルの喫水をもって、平成14年8月17日08時40分青森県むつ小川原港を発し、京浜港横浜区へ向かった。
 A受審人は、19時30分ころ岩手県首埼南東沖合に至り一等航海士と当直を交代するため昇橋したところ、本邦南方海上を北上する台風13号の影響で南からのうねりが高まっているのを認めた。
 A受審人は、発航前に同台風の情報を入手しており、海象模様に応じてあらかじめ最寄りの港に避泊する予定であり、岩手県大船渡港を避泊地の候補のひとつとしていた。そこで同人は、幸正丸に乗船して半月余りで大船渡港への入港経験はなかったものの、一等航海士や甲板長に入港経験があることと、備え付けの海図に前任船長が記載した港内のかき養殖施設の情報があったことなどから、同港に入港することとした。
 ところで、大船渡港は、細長く北方に入り込んだ地形になっており、そのほぼ中間に存在する珊琥島によって東西両水路が形成され、いずれの水路も可航幅が約200メートルで、東水路は東方に屈曲した形状をなし、同島の周辺及び東水路の東岸に沿ってかき養殖施設が散在していて、幸正丸級の船舶にとっては操船に注意が必要とされる狭い水路であった。
 20時20分操舵操船に当たっていたA受審人は、碁石埼灯台から090度(真方位、以下同じ。)1.95海里の地点に至ったとき、針路を大船渡港導灯に向首する309度に定め、機関を全速力前進とし、9.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で手動操舵により進行した。
 A受審人は、入港間近になったので機関用意を令し、20時28分機関を微速力に減じて4.8ノットの速力とし、防波堤入口の少し手前で一等航海士を船首配置に就かせ、東水路を通航して港奥に錨泊する予定で続航した。
 20時56分A受審人は、大船渡港珊琥島南灯台(以下「南灯台」という。)から182度1,580メートルの地点で、針路を345度に転じ、操舵スタンド左側にある0.5海里レンジとしたレーダーの画面を監視しながら進行したところ、まもなく珊琥島と東水路東岸に設けられたかき養殖施設の映像を認めるようになり、21時02分南灯台から200度730メートルの地点に至ったとき、同水路に進入するため針路を041度に転じた。
 転針後まもなくA受審人は、東水路東岸のかき養殖施設に沿って約200メートル間隔で設置されている点滅式の標識灯を前路に認めるようになったとき、標識灯との距離感がよく分からなかったが、同水路の屈曲部における転針時機を標識灯との間合いから決めることに気を奪われ、甲板長を昇橋させて操舵に就かせ自らはレーダー監視に専念するとか、船首に配置した一等航海士から標識灯への接近模様を逐次報告させるとかして、船位の確認を厳重に行うことなく、レーダーからも目を離したまま続航した。
 21時10分少し前A受審人は、東水路に進入する少し前に昇橋し率先して見張りに当たっていた機関長の、「明かりが近い。」という叫び声で、慌てて左舵一杯を取り、続いて機関長が機関を後進に操作したが及ばず、21時10分大船渡港珊琥島北灯台から097度440メートルの地点において、ほぼ原針路、原速力のまま、船体がかき養殖施設に乗り入れた。
 当時、天候は曇りで風はほとんどなく、潮候はほぼ高潮時であった。
 その結果、幸正丸に損傷はなかったが、かき養殖施設の多数の筏が損傷し、のち修理された。

(原因)
 本件かき養殖施設損傷は、夜間、大船渡港において、両側にかき養殖施設が設けられた狭い屈曲した東水路を通航するにあたり、船位の確認が不十分で、同水路屈曲部付近東岸のかき養殖施設に向け進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、入港経験のない大船渡港において、両側にかき養殖施設が設けられた狭い屈曲した東水路を通航するにあたり、同水路屈曲部に接近する場合、前路のかき養殖施設に沿って設置されている標識灯との距離感がよく分からなかったのであるから、甲板長を昇橋させて操舵に就かせ自らはレーダー監視に専念するとか、船首に配置した一等航海士から標識灯への接近模様を逐次報告させるとかして、船位の確認を厳重に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、距離感がよく分からないまま前路の標識灯との間合いから転針時機を決めることに気を奪われ、船位の確認を厳重に行わなかった職務上の過失により、屈曲部における転針時機を失したまま進行してかき養殖施設への乗り入れを招き、同施設の多数の筏を損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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