日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 施設等損傷事件一覧 >  事件





平成15年横審第18号
件名

警戒船次郎丸養殖施設損傷事件

事件区分
施設等損傷事件
言渡年月日
平成15年7月17日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(稲木秀邦、大本直宏、西山烝一)

理事官
松浦数雄

受審人
A 職名:次郎丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:次郎丸甲板員 海技免状:四級海技士(航海)
指定海難関係人
C 職名:次郎丸機関長
C 職名:株式会社海洋開発代表取締役 

損害
次郎丸・・・・損傷ない、ロープが絡まって航行不能
養殖施設・・・浮子綱及び種綱等に損傷

原因
水路調査不十分

主文

 本件養殖施設損傷は、水路調査が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年4月6日04時31分
 横須賀港第6区
 
2 船舶の要目
船種船名 警戒船次郎丸
総トン数 45トン
登録長 20.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット

3 事実の経過
 次郎丸は、船体中央部に操舵室を設けた軽合金製警戒船で、A、B両受審人及びC指定海難関係人ほか1人が乗り組み、東京湾第3海堡撤去工事の警戒業務の目的で、船首0.8メートル船尾1.9メートルの喫水をもって、平成13年4月6日04時15分神奈川県横須賀港第6区の浦賀地区(以下「浦賀港」という。)の係留地を発し、同海堡に向かった。
 ところで、神奈川県横須賀市鴨居2丁目かもめ団地沖合には、養殖区画が設定され、その区画は、住友重機械愛宕山導灯(後灯)(以下「愛宕山導灯」という。)から097度(真方位、以下同じ。)760メートル、087度1,280メートル、093.5度1,320メートル、104度810メートルの各地点を順次結んだ線に囲まれた区域で、例年9月16日から翌年5月31日までの間、同区画内にわかめ・こんぶの養殖施設(以下「養殖施設」という。)が設置され、南西端付近を含めて同区画内の主要点には4秒1閃光の点滅式簡易灯浮標(以下「灯浮標」という。)が設けられ、財団法人日本水路協会が発行するプレジャーボート・小型船用港湾案内(以下「水路参考図誌」という。)にも記載されていた。
 A受審人は、発航にあたり、C指定海難関係人が浦賀港に幾度も入港した経験を有し、同港周辺水域の水路事情に詳しいようなので、操船の助言をさせれば大丈夫と思い、浦賀港周辺水域の大縮尺の適切な海図及び水路参考図誌を備えて精査するなり、地元漁業協同組合に航行の支障となるようなものはないか問い合わせるなど、水路調査を十分に行っていなかったので、養殖施設に気付かなかった。また、同港から第3海堡に向け航行するのは初めてだったので、発航時、昇橋して自ら操船の指揮を執らず、船尾で出港作業に従事し、その後、船首に赴き、出港の後片付けをしていた。
 B受審人は、発航にあたり、機関操作を行っていたC指定海難関係人が同港に幾度も入港した経験を有し、同港周辺水域の水路事情に詳しいようなので、同人から操船の助言を受ければ大丈夫と思い、船長に対し昇橋して操船の指揮を執るよう進言することなく、船長が在橋しないまま、法定灯火を点灯し、手動操舵に当たった。
 C指定海難関係人は、以前に浦賀港を基地としていた船舶に乗り組み、幾度も同港に入港していたので、発航時より在橋し、機関操作を行いながらB受審人に対して、操船の助言をしていたが養殖施設については知らなかった。
 D指定海難関係人は、平成8年に発足した株式会社海洋開発を引き継ぎ、事業目的を遊漁船業として、後に次郎丸となる遊漁船1隻を所有していたが、平成13年4月より東京湾第3海堡撤去工事の警戒船業務に就くことになり、次郎丸を警戒船として従事させるため、乗組員手配、船用品積込などの準備を進めたが、A受審人ほか乗組員から海図及び水路参考図誌などの支給依頼はなかった。
 B受審人は、係留地を発航後、南東進し04時28分ごろ左舷船首50度2,000メートルばかりに香山根灯浮標を視認し、左転を開始して間もなく、正船首方200メートルばかりに養殖施設南西端付近の灯浮標を認めたが、養殖施設の灯浮標と気付かず、C指定海難関係人に進路を尋ねたところ、「右に取れ。」と言われ、灯浮標を右に見て進行すればよいものと即断し、04時29分愛宕山導灯から107度590メートルの地点で、針路を085度に定め、機関を微速力前進にかけ、6.8ノットの対地速力で進行した。
 04時30分B受審人は、愛宕山導灯から102度790メートルの養殖区画に至り、右舷至近に前示の灯浮標を視認したものの、同区画に進入したことに気付かず、針路を074度に転じて続航し、次郎丸は、04時31分愛宕山導灯から096度980メートルの地点において、同一の針路速力のまま養殖区画内の養殖施設に進入した。
 当時、天候は晴で風力3の南西風が吹き、潮候は下げ潮の初期で、視界は良好であった。
 その結果、次郎丸は、プロペラに養殖施設のロープが絡まって航行不能となったが損傷はなく、来援した横須賀市東部漁業協同組合の漁船に救助され、養殖施設は、浮子綱及び種綱等に損傷を生じた。

(原因)
 本件養殖施設損傷は、夜間、浦賀港を発航するにあたり、水路調査が不十分で、同港沖合に設置された養殖施設に向首進行したことによって発生したものである。
 運航が適切でなかったのは、船長が水路調査を十分に行わなかったばかりか、自ら昇橋して操船の指揮を執らなかったことと、甲板員が、船長に対し昇橋して操船の指揮を執るよう進言しなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、夜間、浦賀港を発航する場合、同港水域内を航行するのは初めての経験であったから、同港沖に設置されている養殖施設の存在が分かるよう、発航前に同港周辺水域の大縮尺の適切な海図及び水路参考図誌を備えて精査するなり、地元漁業協同組合に航行の支障となるようなものはないか問い合わせるなど、水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、C指定海難関係人が同港に幾度も入港した経験を有し、同港周辺水域の水路事情に詳しいようなので、同人に操船の助言をさせれば大丈夫と思い、水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、養殖施設の存在に気付かず、甲板員に操船を任せて養殖施設への進入を招き、同施設の浮子綱及び種綱等を損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、夜間、浦賀港を発航する場合、同港水域内を航行するのは初めての経験であったから、同港沖に設置されている養殖施設に乗り入れないよう、船長に対し昇橋して操船の指揮を執るよう進言すべき注意義務があった。しかるに、同人は、C指定海難関係人が同港に幾度も入港した経験を有し、同港周辺水域の水路事情に詳しいようなので、同人から操船の助言を受ければ大丈夫と思い、船長に対し昇橋して操船の指揮を執るよう進言しなかった職務上の過失により、自ら操船に当たり、養殖施設の存在を知らないまま同施設への進入を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。
 D指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION