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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成15年門審第25号
件名

漁船金昭丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成15年9月26日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(安藤周二、橋本 學、千葉 廣)

理事官
大山繁樹

受審人
A 職名:金昭丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
クランク軸受、主軸受及びクランク軸等の損傷

原因
主機冷却清水系統の漏水箇所調査及び温度上昇警報装置の整備不十分

主文

 本件機関損傷は、主機冷却清水系統の漏水箇所調査及び冷却清水温度上昇警報装置の整備がいずれも十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年7月24日11時30分
 山口県大井漁港
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船金昭丸
総トン数 19トン
全長 18.4メートル
機関の種類 過給機付4サイクル8シリンダ・V型ディーゼル機関
出力 353キロワット
回転数 毎分2,100

3 事実の経過
 金昭丸は、昭和57年12月に進水した、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、主機として、平成3年12月に換装された、アメリカ合衆国キャタピラー社製造の3408DI-TA型と呼称されるディーゼル機関を装備し、操舵室には主機の遠隔操縦装置及び回転計、潤滑油圧力計、冷却清水温度計、冷却清水温度上昇警報装置(以下「警報装置」という。)、警報ブザーや警報灯等が組み込まれている計器盤を備えていた。
 主機は、動力取出軸を介して集魚灯用交流発電機、充電用直流発電機及び操舵機用油圧ポンプを駆動しており、平素、操業中には、逆転減速機のクラッチが中立位置であり、集魚灯の定格周波数50ヘルツを超える回転数に相当する毎分1,700で運転されていた。
 主機の潤滑油系統は、クランク室底部の容量87リットルの油受に入れられた潤滑油が、直結駆動の潤滑油ポンプに吸引され、潤滑油冷却器、潤滑油こし器を経由して潤滑油主管に入り、主軸受からクランクピン軸受、ピストン冷却油、カム軸受、弁腕注油、調時歯車装置及び過給機等に分岐して送られ、油受けに戻る経路で循環しており、また、オイルミスト等を排出するガス抜管が点検用窓等のないクランク室に設けられ、その先端が操舵室後部の煙突に導かれていた。
 主機の冷却清水系統は、総水量142リットルの冷却清水が、膨張タンクから直結駆動の冷却清水ポンプに吸引され、潤滑油冷却器と空気冷却器を並列に通り、シリンダブロック入口からシリンダライナとシリンダブロック間の冷却清水通路を経てシリンダヘッド出口に送られ、一方、シリンダブロック入口で分岐した冷却清水が、過給機、排気マニホルドを通ってシリンダヘッド出口で合流し、清水冷却器で冷却海水と熱交換したのち同タンクに戻る経路で循環しており、冷却清水温度が温度調整弁により摂氏75度ないし同95度の範囲に保たれていて、その範囲を超えて上昇すると警報装置が作動して警報ブザーが鳴り、同時に警報灯が点灯するようになっていた。また、膨張タンク上部には、冷却清水量の点検及び補給に用いられる圧力キャップが設けられており、冷却清水通路のシリンダライナ外周下部には、水密用Oリング(以下、「冷却清水通路Oリング」という。)が装着されていた。
 A受審人は、昭和50年7月に一級小型船舶操縦士の免状を取得し、平成11年5月に金昭丸を購入した後、船長として乗り組み、操船のほか主機の運転保守にあたり、山口県大井漁港を基地とし、月間に400時間ばかり同機を運転のうえ同県見島周辺漁場で操業を行い、同14年5月11日には潤滑油及び潤滑油こし器のフィルタエレメントを交換していた。
 ところが、主機は、長期間運転が続けられているうち、経年劣化によりいつしか、警報装置が作動しなくなっており、さらに左舷船尾側シリンダライナ外周下部が腐食して冷却清水通路Oリングによる水密が阻害され、冷却清水通路から冷却清水が漏洩して膨張タンクの冷却清水量が減少し始め、同通路の漏水がクランク室の潤滑油に混入し、その混入量が増加するとともに同油に混入した漏水の湯気が白煙状でガス抜管から排出される状況になった。
 しかし、A受審人は、操業の合間に主機の警報装置の整備を行わないまま、見島北方沖合の漁場で、平素のとおり、集魚灯を点灯して操業を行っていたところ、ガス抜管から排出される白煙を見てこれが何か分からず、7月23日09時00分島根県浜田漁港に入港して水揚げ後、冷却清水量が減少している状況を認めた際、主機外部を点検して漏水がなかったが、これまで運転には支障がなかったことから異状がないものと思い、主機内部の漏水による不具合が生じないよう、業者に状況を説明のうえ依頼するなどして、冷却清水系統の漏水箇所調査を行わなかったので、前示冷却清水通路の漏水に気付かず、その後冷却清水の補給を繰り返した。
 こうして、金昭丸は、A受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、13時00分浜田漁港を発し、同漁場に至り、集魚灯を点灯して操業中、主機の冷却清水量が大幅に減少するまま、冷却清水温度が高温となった際に警報装置が作動しなかったので、運転が続けられているうち、漏水混入量の増加により潤滑油の性状が著しく劣化し、クランク軸受及び主軸受等の潤滑が阻害される状況となり、24日朝同受審人が前示白煙の多いことを認め、異状に気付いて修理のために帰途に就き、10時00分大井漁港に到着後、業者に依頼して主機の点検を行わせたところ、11時30分長門大井港湊防波堤灯台から真方位098度250メートルの係留地点において、油受の潤滑油量等の異状が発見され、精査の結果、クランク軸受、主軸受及びクランク軸等の損傷が判明した。
 当時、天候は晴で風はなく、潮候は上げ潮の末期であった。
 その後、金昭丸は、主機の各損傷部品が取り替えられた。

(原因)
 本件機関損傷は、主機冷却清水量が減少した際、冷却清水系統の漏水箇所調査が不十分で、シリンダライナの腐食により冷却清水通路の漏水がクランク室の潤滑油に混入するまま冷却清水の補給が繰り返されたこと及び警報装置の整備が不十分で、冷却清水量が大幅に減少するまま運転が続けられ、漏水混入量の増加により潤滑油の性状が著しく劣化し、潤滑が阻害されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、操船のほか主機の運転保守にあたり、冷却清水量が減少している状況を認めた場合、主機外部を点検して漏水がなかったから、主機内部の漏水による不具合が生じないよう、業者に状況を説明のうえ依頼するなどして、冷却清水系統の漏水箇所調査を行うべき注意義務があった。しかし、同受審人は、これまで運転には支障がなかったことから異状がないものと思い、冷却清水系統の漏水箇所調査を行わなかった職務上の過失により、冷却清水通路の漏水に気付かず、その後冷却清水の補給を繰り返し、漏水混入量の増加により潤滑油の性状が著しく劣化し、潤滑が阻害される事態を招き、クランク軸受、主軸受及びクランク軸等を損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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