日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成15年横審第54号
件名

漁船第二林丸機関損傷事件(簡易)

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成15年9月17日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(吉川 進)

理事官
井上 卓

受審人
A 職名:第二林丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
クラッチの摩擦板とスチルプレートが異常摩耗、一部が折損

原因
主機減速機の開放整備不十分

裁決主文

 本件機関損傷は、主機減速機の開放整備が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年6月2日06時00分
 千葉県竜王埼沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第二林丸
総トン数 14トン
登録長 17.4メートル
機関の種類 過給機付4サイクル8シリンダ・ディーゼル機関
出力 132キロワット
回転数 毎分1,080

3 事実の経過
 第二林丸(以下「林丸」という。)は、昭和54年11月に進水した、まき網漁業に従事するFRP製漁船で、主機として、ヤンマーディーゼル株式会社が製造した、8LAA-DT型と呼称するV型シリンダ配置のディーゼル機関を装備し、主機船尾側には、YP-240型と呼称する逆転減速機が組み込まれていた。
 逆転減速機(以下「減速機」という。)は、入力歯車と後進子歯車を組み合わせた後進軸、入力歯車で反対方向に回転させられる従動歯車と前進子歯車を組み合わせた2組の前進軸及び出力軸で構成され、後進軸と前進軸には油圧作動の多板型湿式クラッチが組み込まれ、クラッチへの油圧供給を制御して前後進を切り替えるもので、各軸の前後がころ軸受で支えられていた。
 前進軸は、後進軸を挟んで左右両側に配置され、右舷前進軸の船尾端に作動油及び軸受潤滑油を供給する潤滑油ポンプを取り付けていた。
 クラッチは、入力側のスチルプレート7枚と子歯車側の摩擦板6枚が交互に組み合わされ、作動油圧がピストンを押す力で摩擦力が与えられるようになっていた。
 減速機の潤滑油系統は、潤滑油ポンプがケーシングに溜められた潤滑油を汲み上げ、18キログラム重毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)ほどに加圧したものが、潤滑油こし器と潤滑油冷却器を経て、クラッチ作動油として油圧ピストンを押し、余剰の減圧分がころ軸受及び前進軸及び後進軸内のジャーナル部を潤滑するようになっており、潤滑油圧力の低下に際して0.2キロを下回ると吹鳴する警報が、船橋の計器盤に装備されていた。
 林丸は、平成11年11月に購入し、直ちに主機が陸揚げされ、ピストンなど主要部が開放整備されたが、減速機については、主機と分離して陸揚げされ、潤滑油冷却器の保護亜鉛と、主機接続部のたわみ継手ゴムとが取り替えられたのみで、摩擦板や軸受が開放整備されないまま、再び林丸に搭載された。
 A受審人は、昭和50年5月9日一級小型船舶操縦士免状を取得し、林丸が購入されたときから、機関を含めて整備に携わり、主機と減速機が陸揚げされた際に減速機が開放整備されたものか確認しないまま、平成12年4月に操業を開始し、その後、減速機に潤滑油の補給を行っていたものの、潤滑油こし器の点検と掃除をしなかったので、潤滑油こし器の汚れと異常摩耗による潤滑油の劣化に気付かず、潤滑油を補給しておけば大丈夫と思い、減速機の開放整備を行うことなく、主機の運転を続けた。
 林丸は、周年操業を行い、主機の運転時間が年間1,500時間ほどであったが、摩擦板とスチルプレートが経年摩耗していたクラッチにわずかに滑りを生じ、滑りで生じた摩耗粉が潤滑油を汚損して、後進軸、前進軸及び出力軸の各ころ軸受に異常摩耗が進行した。
 こうして、林丸は、A受審人ほか9人が乗り組み、操業の目的で、船首1.3メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、同13年6月2日05時30分千葉県飯岡漁港を発し、同県栗山川河口沖合の漁場に向かったところ、減速機潤滑油こし器が金属粉で閉塞(へいそく)し、作動油圧力が低下し、同日06時00分飯岡灯台から真方位220度1.6海里の地点において、潤滑油圧力低下の警報が吹鳴した。
 当時、天候は曇で風力2の西南西風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、船橋の主機操縦ハンドルをストップ位置に置いたが、クラッチが中立にならないので、機関室に急ぎ、減速機のケーシングが焼き付いて焦げ臭いにおいを発しているのを認め、機側の同ハンドルを下げて主機を停止した。
 林丸は、運転不能となり、僚船にえい航されて飯岡漁港に引きつけられ、精査の結果、クラッチの摩擦板とスチルプレートが異常摩耗して同プレートの一部が折損したうえ、前進軸が固着し、前進軸の軸受のころが飛散しており、のち損傷した減速機の主要部が取り替えられた。

(原因)
 本件機関損傷は、整備歴の不明な主機減速機の開放整備が不十分で、クラッチの摩擦板とスチルプレートの摩耗が進行するまま、運転されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機の整備管理する場合、購入前の減速機の整備歴が不明で、購入直後の整備に際しても開放整備されたか確認しなかったのだから、運航開始後、早急に整備業者に依頼して減速機を開放整備すべき注意義務があった。しかるに、同人は、潤滑油を補給しておけば大丈夫と思い、減速機を開放整備しなかった職務上の過失により、経年摩耗していたクラッチの摩擦板とスチルプレートが限度を超えて摩耗する事態を招き、漁場に向けて航行中、クラッチが滑り、潤滑油中の金属粉などで軸受が異常摩耗し、前進軸が焼き付くなど、減速機主要部を損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION