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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成15年函審第11号
件名

漁船第六十八進英丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成15年9月30日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(岸 良彬、古川隆一、野村昌志)

理事官
河本和夫

受審人
A 職名:第六十八進英丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
シリンダライナ全数と連接棒1本が焼損

原因
主機冷却海水ポンプの整備不十分、主機警報盤の外部スピーカー接続スイッチの取扱不適切

主文

 本件機関損傷は、主機冷却海水ポンプの整備が不十分で、ゴム製インペラが材料疲労を起こして破断したこと及び主機警報盤の外部スピーカー接続スイッチの取扱いが不適切で、警報音が甲板上のスピーカーに伝わらなかったことにより、冷却阻害となったまま主機の運転が続けられたことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年3月21日00時30分
 長崎県壱岐島北方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第六十八進英丸
総トン数 18トン
全長 21.70メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 529キロワット
回転数 毎分1,800

3 事実の経過
 第六十八進英丸(以下「進英丸」という。)は、平成4年4月に進水した、いか一本つり漁業に従事する軽合金製の漁船で、船体中央部に操舵室を設け、主機としてヤンマー株式会社が製造した清水冷却方式の6NH160-EN型と称するディーゼル機関を備え、主機駆動の集魚灯用発電機を装備していた。
 主機の冷却清水系統は、直結冷却清水ポンプにより清水冷却器から吸引、加圧された清水が、シリンダジャケット、シリンダヘッド及び排気マニホルドを経て、同冷却器に戻る経路となっており、冷却水温度上昇警報装置を備えていて、同マニホルド出口における冷却清水温度が摂氏90度に上昇すると、警報音が操舵室の主機警報盤に発せられるようになっていた。そして、警報音は、外部スピーカー接続スイッチを入れることにより、甲板上のスピーカーに流すことができるようになっていた。
 また、主機の冷却海水系統は、ヤブスコ式の直結冷却海水ポンプにより海水吸入弁から吸引、加圧された海水が、清水冷却器、潤滑油冷却器、空気冷却器及び逆転減速機潤滑油冷却器を経て、右舷側の船外吐出口に至る経路となっていた。
 ところで、冷却海水ポンプは、ゴム製インペラの羽根が9枚あって、羽根をケーシング内のカムにより変形させる構造となっており、羽根の変形と復元の繰り返しで生じる容積変化をポンプ作用としているもので、インペラの材料疲労が進行しやすいことから、機関メーカーではインペラの標準新替え周期を6箇月若しくは運転時間で2,500時間と定め、主機取扱説明書にこれを明記して新替えの励行を促していた。
 A受審人は、平成11年1月11日交付の一級小型船舶操縦士の免状を有し、進英丸の竣工時から乗り組み、操船のほか自ら機関の保守運転管理にも当たり、2、3年ごとに主機の開放整備を行い、同12年3月山口県下関港において主機を開放整備した際、冷却海水ポンプのインペラを新替えし、その後、主機を月間300時間ばかり運転して、日本海を順次北上しながらいか一本つり漁を行い、8月から青森県の太平洋側で操業を続けているうち、インペラの標準新替え周期に達したが、次回の主機整備時期に新替えすればよいと思い、インペラを新替えするなど、同ポンプの整備を十分に行うことなく、12月末に地元の青森県奥戸漁港に帰着して漁期を終え、なおも同ポンプの整備を行わないまま、翌年も同様の操業形態を繰り返した。
 越えて同14年2月進英丸は、奥戸漁港を発し、長崎県壱岐島の芦辺港に至り、同港を基地として日帰り操業を繰り返していたところ、主機冷却海水ポンプのインペラが長期使用により遂に材料疲労を起こし、羽根の根元に亀裂を生じる状況となった。
 進英丸は、A受審人及び甲板員1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.7メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、同14年3月20日16時00分芦辺港を発し、17時45分壱岐島北方沖合の漁場に至り、パラシュート型シーアンカーを投入し、18時00分主機回転数を毎分1,800にかけ集魚灯を点灯して操業を開始した。
 22時00分A受審人は、いつものように漁労作業を甲板員に任せて仮眠をとることとしたが、主機警報盤の外部スピーカー接続スイッチを入れずに操舵室左舷後部の寝台で横になった。
 こうして、進英丸は、操業を続けているうち、主機冷却海水ポンプのインペラの羽根が根元から破断し、破断片が干渉して他の羽根も折損するようになり、送水が途絶えて冷却清水温度上昇警報が作動したものの、主機警報盤の外部スピーカー接続スイッチが入っていなかったので、警報音が甲板上のスピーカーに伝わらず、甲板上にいた甲板員が警報の出たことに気付くことができなかったため、冷却阻害となったまま主機の運転が続けられ、やがてピストンが膨脹し、翌21日00時30分若宮灯台から真方位008度16.5海里の地点において、主機が自停した。
 当時、天候は曇で風力2の北風が吹き、海上は平穏であった。
 一方、A受審人は、主機警報盤のブザー音をかすかに耳にしながら、しばらく目覚めずにいたが、ようやく警報音であることに気付き、機関室に入って主機が過熱しているのを認め、冷めるのを待って再始動したところ、船外吐出口から海水が出てこなかったので、主機の運転を断念して救援を求めた。
 進英丸は、来援した僚船により発航地に引き付けられ、のち、シリンダライナ全数と連接棒1本が焼損していることが判明し、いずれも新替えされた。

(原因)
 本件機関損傷は、主機冷却海水ポンプの整備が不十分で、ゴム製インペラが材料疲労を起こして破断し、冷却海水が途絶えたこと及び主機警報盤の外部スピーカー接続スイッチの取扱いが不適切で、冷却水温度上昇の警報音が甲板上のスピーカーに伝わらなかったことにより、冷却阻害となったまま主機の運転が続けられたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、機関の保守運転管理に当たる場合、主機冷却海水ポンプのインペラがゴム製で材料疲労が進行しやすかったから、取扱説明書に明記されていた標準周期でインペラを新替えするなどして、同ポンプの整備を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、次回の主機整備時期に新替えすればよいと思い、同ポンプの整備を十分に行わなかった職務上の過失により、インペラが破断して主機の冷却阻害を招き、シリンダライナ全数及び連接棒1本に焼損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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