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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成14年門審第129号
件名

貨物船航安丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成15年8月1日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(安藤周二、橋本 學、千葉 廣)

理事官
大山繁樹

受審人
A 職名:航安丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)

損害
玉軸受のほか、ロータ軸等の損傷、過給機を換装

原因
主機燃焼状態の確認及び主機過給機軸受部の点検不十分

主文

 本件機関損傷は、主機燃焼状態の確認及び主機過給機軸受部の点検がいずれも不十分で、玉軸受の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年5月7日14時20分
 大分県姫島南東方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船航安丸
総トン数 380トン
全長 61.60メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,029キロワット
回転数 毎分380

3 事実の経過
 航安丸は、平成2年11月に進水した、石材等の輸送に従事する鋼製貨物船で、主機として株式会社赤阪鐵工所製造のK28R型と呼称するディーゼル機関を装備し、主機架構船尾側上部には、石川島汎用機械株式会社製造のVTR201-2型と呼称する排気ガスタービン過給機(以下「過給機」という。)を備えていた。
 主機は、計画出力735キロワット同回転数毎分340(以下、回転数は毎分のものを示す。)として登録され、負荷制限のために燃料ハンドル最大位置の制限が施されたまま、プロペラ換装後、航海全速力前進時には回転数360ないし370で運転されていた。
 過給機は、軸流式タービン、遠心式ブロワ、ロータ軸、タービン入口ケーシング、タービンケーシングやブロワケーシング等から成り、タービンとブロワとを結合する同軸がタービン側及びブロワ側軸受部の玉軸受で支持されていた。
 タービン側及びブロワ側軸受部は、円板ポンプと油噴射筒がロータ軸に組み込まれ、同軸両端固定部の環状金物に嵌合された油噴射筒が同ポンプとともに回転することで、タービン側及びブロワ側軸受ケーシングの油だめに入れられた各0.4リットルの潤滑油が玉軸受に注油されて循環する構造になっており、それぞれの軸受ケーシング中央部下方寄りに油面計、給油口プラグ及び排油口プラグが取り付けられていた。また、タービン入口ケーシングのロータ軸軸封部には、タービンケーシングからの排気の侵入を防止する目的で、ラビリンスパッキンにブロワ側の空気が導かれていた。
 ところで、主機は、A重油が燃料油に使用されており、同11年1月定期検査受検に備えて業者によるピストン抜出や過給機の玉軸受交換等の整備後、排気弁及び燃料噴射弁の整備が行われないまま、年間3,000時間ばかりの運転が続けられているうち、燃焼生成物のカーボンが排気弁の弁棒と弁案内との間に少しずつ詰まり、これに動弁注油ポンプの故障が加わって同弁が固着し始め、燃焼最高圧力が低下するとともに排気温度が高まり、燃焼不良によるカーボンが増加した。そして、過給機は、排気に含まれるカーボンがタービン等に付着し、ロータ軸が動的不釣合による振動を生じたことから、タービン側及びブロワ側軸受部で油噴射筒と環状金物とが接触磨耗し、微量の鉄粉が潤滑油に混入するようになり、運転に伴う同油の汚れが助長されていた。
 A受審人は、翌2月航安丸に機関士として乗り組み、同12年2月以来機関長の職務に就き、主機の運転保守にあたり、過給機タービン側及びブロワ側油だめの潤滑油の汚れによる変色程度に応じて交換間隔を3ないし4箇月とし、同13年1月下旬同油を交換した後、航海中には主機の煙突から出る火の粉と黒色の排気を見ていて、燃焼不良により排気に含まれるカーボンが増加する状況下、4月20日回転数370で運転中に各シリンダの排気温度が420度ないし460度の高温状態を認めた際、インジケータ線図を採取するなどして燃焼状況を確認しなかったので、前示燃焼最高圧力低下に気付かず、さらに過給機タービン側及びブロワ側油だめの潤滑油の変色を認めたが、同油を定期的に交換していれば半年後の次回開放整備時まで運転を維持できるだろうと思い、タービン側及びブロワ側軸受部を点検しなかったので、油噴射筒と環状金物との接触磨耗による鉄粉の存在に気付かず、そのまま運転を継続した。
 こうして、航安丸は、A受審人ほか3人が乗り組み、石材を積み込む目的で、船首1.3メートル船尾3.2メートルの喫水をもって、5月7日10時15分愛媛県魚泊漁港を発し、積地の山口県秋穂町日地に向け、主機を回転数360にかけて航行中、過給機のタービン側及びブロワ側軸受部の油噴射筒と環状金物との接触磨耗の進行により循環油量が不足して玉軸受の潤滑が阻害され、14時20分国東港田深沖灯台から真方位068度4.3海里の地点において、玉軸受が焼き付いてロータ軸と固着し、過給機が異音を発した。
 当時、天候は曇で風力3の南東風が吹き、海上には白波があった。
 A受審人は、機関当直中、居住区で異音に気付いて機関室に赴き、乗組員により停止されていた主機の見回りをしたところ、過給機軸受部の損傷を認め、主機の運転の継続を断念し、その旨を船長に報告した。
 航安丸は、錨泊したのち引船を手配し、最寄りの山口県三田尻中関港に引き付けられ、業者による過給機の精査の結果、玉軸受のほか、タービン、タービン入口ケーシング、ブロワケーシング及びロータ軸等の損傷が判明し、同機を換装した。

(原因)
 本件機関損傷は、主機燃焼状態の確認が不十分で、燃焼不良によるカーボンが過給機のタービン等に付着したこと及び同機軸受部の点検が不十分で、ロータ軸の振動により油噴射筒と環状金物とが接触磨耗し、玉軸受の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機の運転保守にあたり、過給機タービン側及びブロワ側油だめの潤滑油の変色を認めた場合、煙突から排出される火の粉と黒色の排気を見ていて、主機の燃焼不良により排気に含まれるカーボンが増加する状況であったから、過給機のタービン等のカーボン付着による異状を見落とさないよう、タービン側及びブロワ側軸受部を点検すべき注意義務があった。しかし、同人は、潤滑油を定期的に交換していれば半年後の次回開放整備時まで運転を維持できるだろうと思い、過給機のタービン側及びブロワ側軸受部を点検しなかった職務上の過失により、油噴射筒と環状金物との接触磨耗による鉄粉の存在に気付かず、玉軸受の潤滑が阻害される事態を招き、玉軸受、タービン、タービン入口ケーシング、ブロワケーシング及びロータ軸等の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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