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平成15年那審第10号
件名

漁船八号萬漁丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成15年7月10日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(上原 直、坂爪 靖、小須田 敏)

理事官
濱本 宏

受審人
A 職名:八号萬漁丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)

損害
防振ゴム全数を切損

原因
主機逆転減速機の据付けボルト締付け状態の点検不十分

主文

 本件機関損傷は、主機逆転減速機の据付けボルト締付け状態の点検が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年2月27日17時00分
 鹿児島県沖永良部島東方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船八号萬漁丸
総トン数 70.79トン
全長 32.54メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 536キロワット
回転数 毎分655

3 事実の経過
 八号萬漁丸(以下「萬漁丸」という。)は、昭和56年に進水し、平成9年2月に現船舶所有者が購入したかつお一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、ダイハツディーゼル株式会社が製造した6DSM-22S型と呼称するディーゼル機関を主機として装備し、主機の船尾側に同社が製造したDRA-11E型と呼称する逆転減速機(以下「減速機」という。)を備えていて、操舵室から遠隔操縦装置により、主機の増減速及び減速機の前後進切換え操作ができるようになっていた。
 主機及び減速機は、操舵室下方の機関室中央に据え付けられ、主機及び減速機共それぞれ主機取付け台及び減速機取付け台に固定され、それから主機及び減速機共通の機関台に、主機取付け台は、チョックライナを挟んだりして鋼製リーマボルトなどで、減速機取付け台は、左右舷にそれぞれ外側3本内側2本の計10本の呼び径M22長さ84ミリメートルの鋼製ボルトで、それぞれナットで締め付けられたうえ、各ナットには止めナットが施されていた。また、主機及び減速機はたわみ軸継手で連結されていた。
 減速機は、入力軸と出力軸が同芯のもので、両軸の上方、右舷側に前進クラッチ軸が、左舷側に後進クラッチ軸が、互いに減速歯車を介して噛み合うよう配置され、各クラッチ軸には、油圧作動湿式多板クラッチが組み込まれていた。
 たわみ軸継手は、主機フライホイールの円周上にボルトで締め付けられた8個の丸形防振ゴムを、減速機入力軸に固定された慣性円板の対応する円周上の孔の中に挿入し、挿入後に慣性円板側から防振ゴムの取付け板でネジ止めして押さえ、防振ゴムを介して主機と減速機とを連結しており、主機の回転力のみを伝えるとともに、機関に発生するトルク変動やねじり振動による衝撃を吸収して減速歯車や前後進の各クラッチを保護しており、減速機出力軸が、プロペラ軸と連結されていた。
 ところで、減速機は、主機の振動などで主機及び減速機共通の機関台への減速機の据付けボルト(以下「減速機の据付けボルト」という。)に緩みが生じ、緩みにより主機フライホイールと減速機入力軸との軸心に狂いが生じた場合、たわみ軸継手の防振ゴムに異常な応力が作用し、同ゴムのクリープ量が増大して同ゴムが切損するおそれがあり、減速機の取扱説明書には、減速機の据付けボルト締付け状態の点検については1年ごとに行い、増締めについては中間検査受検時に行うよう記載されており、注意を喚起していた。
 A受審人は、漁船の甲板員として約20年間乗り組んだのち、昭和45年1月に五級海技士(機関)(機関限定)免許を取得し、同月内航貨物船の一等機関士として乗船して平成7年に定年を迎えた。その後、同11年12月に本船の一等機関士として乗船し、同12年2月から機関長職を執るようになり、宮崎県日南市を基地とし、鹿児島県奄美大島から沖縄島周辺の漁場で、1航海約1週間のかつお一本釣り漁を周年にわたって行っていたもので、主機については取扱説明書を読んで運転管理に当たっていたが、減速機についての取扱説明書が備え付けられていなかったこともあって、減速機の据付けボルト締付け状態の点検時期等については知らなかった。
 A受審人は、減速機の据付けボルトが緩み、それを増締めした経験がなかったことから、同ボルトが主機運転中の振動などで緩むことはあるまいと思い、平成13年1月の中間検査受検時に同ボルト締付け状態の点検を工場側に指示しなかったばかりか、テストハンマーを利用して打検を行うなど同ボルト締付け状態の点検を行わなかったので、主機の運転中、いつしか主機の振動の影響を受けるなどして前示止めナットが緩むとともに、減速機の据付けボルトにも緩みが生じていたことに気付かず、主機フライホイールと減速機入力軸との軸心に狂いを生じたまま主機の運転を続けていた。
 こうして、萬漁丸は、A受審人ほか14人が乗り組み、船首2.1メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、平成14年2月22日12時00分鹿児島県山川港を発し、同県沖永良部島東方沖合の漁場に至って操業を始め、同月27日12時30分ごろ急に船体が激しく振動する事態を生じ、A受審人が直ちに主機を停止して点検したところ、主機取付け台及び減速機取付け台の締付けボルト並びに、主機及び減速機共通の機関台への主機の据付けボルトに緩みはなかったが、減速機の据付けボルトの右舷最船首側ボルト1本が折損し、残り9本のボルトはナット1回転ほど緩んでいるのを認めた。
 A受審人は、緩んでいた全ての減速機の据付けボルトを締め付け直して、16時00分主機を再始動して操業中、萬漁丸は、17時00分国頭岬灯台から真方位104度41.8海里の地点において、主機フライホイールと減速機入力軸とを連結しているたわみ軸継手の防振ゴム全数が疲労限度に達して切損し、主機の動力がプロペラに伝動しなくなった。
 当時、天候は晴で風力2の南風が吹き、海上は穏やかであった。
 甲板上で操業に従事していたA受審人は、船長からクラッチが外れたとの連絡を受け急いで機関室に降り、フライホイールカバーを開けたところ、前示防振ゴム全数の切損を認め、運転は不能と判断して事態を船長に報告した。
 萬漁丸は、僚船によって日南市大堂津港まで曳航され、修理業者に依頼して主機及び減速機を精査した結果、切損した防振ゴム8個の新換え及び主機フライホイールと減速機入力軸との軸心調整などを行った。

(原因)
 本件機関損傷は、減速機の運転管理に当たる際、減速機の据付けボルト締付け状態の点検が不十分で、主機フライホイールと減速機入力軸との軸心に狂いを生じたことにより、たわみ軸継手の防振ゴムに異常な応力が作用したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、減速機の運転管理に当たる場合、主機運転中の振動などで減速機の据付けボルトが緩むと、主機フライホイールの軸心と減速機入力軸の軸心とに狂いを生じ、たわみ軸継手の防振ゴムに異常な応力が作用し、同ゴムが切損するおそれがあったから、減速機の据付けボルトが緩むことがないよう、定期的に同ボルト締付け状態の点検を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、減速機の据付けボルトが緩み、それを増締めした経験がなかったことから、同ボルトが主機運転中の振動などで緩むことはあるまいと思い、減速機の据付けボルト締付け状態の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、主機フライホイールと減速機入力軸とを連結しているたわみ軸継手の防振ゴムに異常な応力を生じさせ、防振ゴム全数を切損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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