日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成15年門審第24号
件名

漁船第五松徳丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成15年7月16日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(安藤周二、橋本 學、千葉 廣)

理事官
大山繁樹

受審人
A 職名:第五松徳丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)

損害
主軸受、クランクピン軸受及びクランク軸のほか台板等の損傷

原因
主機据付けボルトの点検不十分

主文

 本件機関損傷は、主機据付けボルトの点検が不十分で、同ボルトが緩んだまま運転が続けられ、潤滑油ポンプ管継手に亀裂が生じて空気が吸い込まれ、潤滑が阻害されたことによって発生したものである。
 なお、損傷が拡大したのは、主機始動準備が十分でなかったことによるものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年5月2日14時00分
 鹿児島県奄美大島北西方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第五松徳丸
総トン数 94トン
全長 33.00メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 279キロワット
回転数 毎分655

3 事実の経過
 第五松徳丸(以下「松徳丸」という。)は、昭和56年1月に進水した、かつお一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、主機としてヤンマーディーゼル株式会社が製造したT220-T2型と呼称するディーゼル機関を装備し、操舵室に主機の遠隔操縦装置、計器盤及び潤滑油圧力低下警報装置等が組み込まれている警報盤を備え、同機を始動する際には圧縮空気が用いられていた。
 主機は、台板据付面とそれに対応する機関台左右両舷側据付面とに片舷ごと7箇所のボルト穴が開けてあり、同穴位置にそれぞれ厚さ30ミリメートル(以下「ミリ」という。)奥行き125ミリ幅110ミリのU字形鋳鉄製の調整ライナが挿入され、クランク軸の軸心が保たれるようになっていて、両端に呼び径33ミリのねじ部を持つ長さ270ミリの炭素鋼製ボルト(以下「据付けボルト」という。)がボルト穴上下を貫通して二重のナットで締め付けられ、機関台に固定されていた。
 主機の潤滑油系統は、台板下部の容量約300リットルの油だめから別置き固定の潤滑油一次こし器を介して直結駆動の歯車式の潤滑油ポンプに吸引された油が、潤滑油二次こし器、潤滑油冷却器を通って主管に入り、主軸受を経てクランクピン軸受、カム軸受及び調時歯車装置等に送られ、各部の潤滑を行って油だめに戻る経路で循環していた。そして、主機は、各主軸受及びクランクピン軸受が船首方から順番号で呼ばれ、また、電動式の予備潤滑油ポンプが装備されており、主管における油の圧力を表示する潤滑油圧力計が機側にあり、通常の同圧力値が4.0ないし4.5キログラム毎平方センチメートル(以下、圧力の単位をキロという。)、潤滑油圧力低下警報値が2.0キロに設定されていた。
 ところで、主機の潤滑油ポンプは、架構前部に取り付けられ、吸引側管継手が吸引管の一端に、他端に潤滑油一次こし器がそれぞれ接続されていて、油だめ上方位置にあることから、運転時には吸引側が負圧状態になっていた。
 松徳丸は、宮崎県大堂津漁港を基地とし、毎年、漁期の2月上旬から12月上旬にかけて鹿児島県奄美大島沖合等の漁場で、一回7日間程度の操業を繰り返していた。
 A受審人は、松徳丸の就航時から機関長として乗り組み、主機の運転保守にあたり、平成12年12月定期検査の受検に備えて業者によるピストン抜出等の開放整備後、月間420時間ばかりの運転を続けていたが、始動の際には平素、予備潤滑油ポンプの運転によるプライミングなどの始動準備を行わず、始動後に警報盤の電源スイッチを入れていた。
 ところが、主機は、運転が続けられているうち、長期間増締めが行われていなかった据付けボルト全数が徐々に緩んでいて、船首方から左舷側5番目及び右舷側4番目の調整ライナ挿入箇所における同ボルトの緩みにより同ライナが摩耗して脱落し、振動が増大した。
 しかし、A受審人は、主機の運転時に異常な振動がないことから支障ないものと思い、操業の合間に据付けボルトを打検するなどして点検しなかったので、前示据付けボルトの緩みに気付かず、そのまま運転を続け、振動が増大した影響により潤滑油ポンプ吸引側管継手に亀裂が生じて進行し、同ポンプ吸引側が負圧状態のため、空気が吸い込まれて吸引管内に少しずつ滞留する状況になったが、見回りの際に漏油していない同亀裂を見付けることができなかった。
 こうして、松徳丸は、A受審人ほか16人が乗り組み、操業の目的で、同14年4月30日11時30分大堂津漁港を発し、奄美大島北西方沖合の漁場に到着して主機を全速力前進から停止回転数毎分380に減速したとき、主機の潤滑油ポンプが潤滑油とともに吸引管内に滞留していた空気を吸引し、潤滑油圧力が不安定になって著しく低下し、5月2日14時00分宝島荒木埼灯台から真方位263度42海里の地点において、潤滑油圧力低下警報装置が作動したものの、潤滑が阻害され、2、3、4番及び6番主軸受とクランクジャーナルとが、同クランクピン軸受とクランクピンとがそれぞれ焼き付き始めた。
 当時、天候は晴で風はなく、海上は穏やかであった。
 A受審人は、甲板作業中に操舵室の警報ベル音を聞き、機関室に赴いて主機の見回りをしたところ、潤滑油圧力計が3.5キロを表示し、油だめの油量が正常であったことから、操業を行うためにそのまま運転を継続し、同日の日没時に操業を終えて主機を停止した。
 その後、A受審人は、連日夜間漂泊した後、操業開始に備えて主機を始動する際、いつものとおり予備潤滑油ポンプの運転によるプライミングなどの始動準備を行わなかったので、潤滑油ポンプの空気吸込みにより潤滑油圧力の上昇が遅れる間、各部への通油が途絶した状況で運転を開始することとなり、主軸受等の焼付きによる損傷を拡大させた。
 松徳丸は、5月4日昼帰港の途に就き、翌5日夕大堂津漁港に帰港した後、A受審人が主機の潤滑油を取り替える際に潤滑油一次こし器を点検して金属粉の付着を認めたことから、主機の精査を業者に依頼した結果、主軸受、クランクピン軸受及びクランク軸のほか台板等の損傷が判明し、各損傷部品が取り替えられた。

(原因)
 本件機関損傷は、主機据付けボルトの点検が不十分で、同ボルトが緩んだまま運転が続けられ、振動の増大により潤滑油ポンプ吸引側管継手に亀裂が生じ、空気が吸い込まれて潤滑油圧力が著しく低下し、潤滑が阻害されたことによって発生したものである。
 なお、損傷が拡大したのは、主機潤滑油圧力が著しく低下した後、始動準備が十分でなかったことによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機の運転保守にあたる場合、据付けボルトが緩むことがあるから、その緩みを見落とさないよう、操業の合間に同ボルトを打検するなどして点検すべき注意義務があった。しかし、同人は、運転時に異常な振動がないことから支障ないものと思い、操業の合間に据付けボルトを打検するなどして点検しなかった職務上の過失により、同ボルトの緩みに気付かず、運転を続けて振動の増大により潤滑油ポンプ吸引側管継手に亀裂が生じ、空気が吸い込まれて潤滑油圧力が著しく低下し、潤滑が阻害される事態を招き、主軸受、クランクピン軸受、クランク軸及び台板等を損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION