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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成15年門審第3号
件名

貨物船第二ゆたか丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成15年7月15日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(安藤周二、長谷川峯清、千葉 廣)

理事官
大山繁樹

受審人
A 職名:第二ゆたか丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)

損害
タービン側玉軸受のほかタービン翼、ブロワ翼及びロータ軸等の損傷

原因
主機過給機タービン側軸受部の点検不十分

主文

 本件機関損傷は、主機過給機タービン側軸受部の点検が不十分で、玉軸受の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年9月21日06時50分
 大分県姫島北東方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第二ゆたか丸
総トン数 698トン
登録長 65.20メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,176キロワット
回転数 毎分410

3 事実の経過
 第二ゆたか丸(以下「ゆたか丸」という。)は、平成2年7月に進水した、セメント輸送に従事する鋼製貨物船で、主機として株式会社赤阪鉄工所が製造したK28SFD型と呼称するディーゼル機関を装備していた。
 主機は、C重油が燃料油に使用され、推進機関としてのほか、動力取出軸に連結されている増速機を介し、荷役用空気圧縮機及び船内電源用交流発電機を駆動しており、架構船尾側上部に排気ガスタービン過給機(以下「過給機」という。)を備えていた。
 過給機は、石川島汎用機械株式会社が製造したVTR201-2型で、タービン入口ケーシング、タービンケーシングやブロワケーシング等から成り、軸流式タービンと遠心式ブロワとを結合するロータ軸がタービン側及びブロワ側軸受ケーシングの各玉軸受で支持されていた。タービン側軸受ケーシングは、油だめに0.4リットルの潤滑油が入れられていて、ロータ軸端の円板ポンプの回転により同油が軸受部油路の注油リング孔等を経て玉軸受を潤滑しており、中央部下方寄りに円形油面計、給油口プラグ及び排油口プラグが取り付けられていた。また、タービン入口ケーシングのロータ軸貫通部は、タービンケーシングからの排気の侵入を防止する目的で、ラビリンスパッキン部にブロワ側の空気が導かれ、軸封構造になっていた。
 A受審人は、ゆたか丸の竣工以来機関長として乗り組み、主機の運転保守にあたり、年間5,000時間ばかり運転し、1,000時間の運転経過を目安に過給機のタービン側軸受ケーシング油だめの潤滑油を定期交換し、同12年10月には、第1種中間検査の受検に備えて各玉軸受を新替えするなどの開放整備を行っていた。
 その後、主機は、揚荷役時にセメント移送用の圧縮空気を供給するため、低負荷で空気圧縮機を駆動しているうち燃焼が悪くなり、排気に含まれる燃焼生成物のカーボンが増加していた。そして、過給機タービン側軸受部は、タービンケーシングから排気とともに流入するカーボンがラビリンスパッキン部に付着することに伴い、同部の軸封機能が低下して排気が軸受ケーシング油だめに侵入し、潤滑油の汚れの進行が早まり、カーボンやスラッジ等で油路の注油リング孔が詰まり始めた。
 しかし、A受審人は、同13年9月10日過給機のタービン側軸受ケーシング油だめの潤滑油を定期交換し、同油の汚れの進行を認めた際、翌10月中旬に予定の次回開放整備時まで無難に運転ができるだろうと思い、円板ポンプを取り外すなどして、タービン側軸受部を点検しなかったので、油路の注油リング孔が詰まる状況に気付かず、そのまま運転を続けていた。
 こうして、ゆたか丸は、A受審人ほか7人が乗り組み、セメントの積地に回航の目的で、9月20日14時50分大阪港堺泉北区を発し、福岡県苅田港に向け、主機を回転数毎分380にかけて航行中、過給機タービン側軸受部油路の注油リング孔が前示潤滑油の汚れの進行により閉塞(へいそく)し、玉軸受の潤滑が阻害され、翌21日06時50分姫島灯台から真方位026度2.4海里の地点において、玉軸受が焼き付き、過給機が異音を発して停止し、主機の給気が不足して回転数が低下した。
 当時、天候は晴で風はなく、海上は穏やかであった。
 A受審人は、機関当直中に異音を聞いて主機を見回り、過給機の異状を認め、その旨を船長に報告した。
 ゆたか丸は、主機を低速で運転して続航し、最寄りの山口県徳山下松港に寄港後、過給機を精査した結果、タービン側玉軸受のほかタービン翼、ブロワ翼及びロータ軸等の損傷が判明し、各損傷部品を取り替えた。

(原因)
 本件機関損傷は、過給機タービン側軸受部の点検が不十分で、潤滑油の汚れにより油路の注油リング孔が詰まる状況のまま運転が続けられ、玉軸受の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機の運転保守にあたり、過給機のタービン側軸受ケーシング油だめの潤滑油を定期交換し、同油の汚れの進行を認めた場合、汚れによる油路の詰まりを生じることがあるから、詰まりを見落とさないよう、円板ポンプを取り外すなどして、タービン側軸受部を点検すべき注意義務があった。しかし、同人は、一月後に予定の次回開放整備時まで無難に運転ができるだろうと思い、タービン側軸受部を点検しなかった職務上の過失により、カーボンやスラッジ等で同軸受部油路の注油リング孔が詰まる状況に気付かず、そのまま運転を続け、同孔が閉塞して玉軸受の潤滑が阻害される事態を招き、玉軸受、タービン翼、ブロワ翼及びロータ軸等の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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