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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成14年横審第122号
件名

漁船開運丸機関損傷事件(簡易)

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成15年7月24日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(吉川 進)

理事官
井上 卓

受審人
A 職名:開運丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
全シリンダのピストン、シリンダライナが焼き付いてかき傷

原因
主機停止の措置不適切

裁決主文

 本件機関損傷は、荒天下、船首を網船の船尾部に吊り上げられた状態で主機をアイドリング運転として漁場を移動中、主機停止の措置がとられなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年10月25日19時30分
 千葉県犬吠埼沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船開運丸
総トン数 12トン
全長 13.20メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 404キロワット
回転数 毎分1,850

3 事実の経過
 開運丸は、平成10年12月に進水した、まき網漁業に従事する軽合金製漁船で、主として青森県太平洋沿岸から千葉県沖までの海域で操業する網船にレッコボートとして搭載され、漁場で網の展張や保持を援助するもので、主機として、昭和精機工業株式会社が製造した、6LAH-ST型と呼称するディーゼル機関を装備していた。
 主機は、冷却水タンクの清水が冷却水ポンプによって循環し、各シリンダライナ周囲、シリンダヘッドなどを冷却し、同タンクに内蔵された清水冷却器を通して海水に放熱する間接冷却型で、一方、往復運動しながら高温の熱負荷に曝される(さらされる)ピストンには、下面に潤滑油が噴き付けられ、循環する潤滑油が潤滑油冷却器を通して海水に放熱するようになっていた。
 主機を冷却する海水は、船体中央付近の左舷寄り船底に設けられたシーチェストから船底弁を通して吸引され、主機駆動の、ヤブスコ式海水ポンプで前示の各冷却器に送られ、受熱後に右舷側の水線付近から船外に排出されるようになっていた。
 A受審人は、平成2年11月に一級小型船舶操縦士免状を取得し、開運丸の船長として運転に携わっており、日常的な冷却水量、潤滑油量の点検や海水の船外排出の確認を自ら行っていた。
 開運丸は、A受審人ほか1人が乗り組み、船首部を網船の船尾に吊り上げられて曳航(えいこう)され、平成13年10月25日15時00分千葉県銚子港を発し、操業の目的で、犬吠埼北東方の沖合に向かい、16時過ぎに網船の船尾から降ろされ、第1回目の操業を行ったのち、18時ごろ主機を回転数毎分700のアイドリング運転としたまま、再び網船の船尾に吊り上げられ、間もなく次の漁場に移動するため、南下を開始した。
 A受審人は、海面状態が悪くなり、船底が波に叩かれるようになったので、次の漁場に着くまで網船で待機することとしたが、普段から網船に吊り上げられた状態で主機をアイドリング運転としたまま移動することが多かったので問題ないと思い、主機停止の措置をとることなく、18時30分ごろ網船に移動した。
 こうして、開運丸は、船首を網船の船尾部に吊り上げられ、海水吸込部がようやく海面に接する状態で、主機をクラッチ中立のまま毎分回転数700にかけて引かれ、船底が激しく波に叩かれるうちに、海水ポンプが空気を大量に吸い込んで空転し続け、同ポンプのリップが過熱して破損し、海水が途絶えて主機の冷却が阻害され、冷却水温度警報の作動のもと、無人で運転が続けられ、ピストンとシリンダが焼き付いて自停し、19時30分ごろ犬吠埼灯台から真方位093度8.6海里の地点で、網船が魚群探査を開始したころ、A受審人によって海水の船外排出が止まっているのを発見された。
 当時、天候は晴で風力4の北東風が吹き、波高約2メートルの波浪があった。
 A受審人は、網船から開運丸に乗り移り、機関室に入って点検し、主機が停止して全体が過熱していることを認めた。
 開運丸は、網船に曳航されて銚子港に戻り、主機が陸揚げのうえ開放され、精査の結果、全シリンダのピストン、シリンダライナが焼き付いてかき傷を生じ、クランク軸受が異常摩耗していることが分かり、のち損傷部が取替え修理された。

(原因)
 本件機関損傷は、荒天下、船首を網船の船尾部に吊り上げられた状態で主機をアイドリング運転として漁場移動中、主機停止の措置がとられず、多量の空気が海水ポンプに吸い込まれ、同ポンプが破損し、主機の冷却が阻害されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人が、荒天の中、船首を網船の船尾部に吊り上げられた状態で主機をアイドリング運転として漁場移動していたところ、船底が波に叩かれる状況となった場合、船底から吸い込む海水が途絶えて、冷却が阻害されないよう、主機停止の措置をとるべき注意義務があった。しかるに、普段から網船に吊り上げられた状態で主機をアイドリング運転としたまま移動することが多かったので問題ないと思い、主機停止の措置をとらなかった職務上の過失により、主機の海水ポンプが大量に空気を吸い込んで空転し、同ポンプが破損して海水が途絶える事態を招き、主機の冷却が阻害され、全ピストンがシリンダに焼き付いて運転不能を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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