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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成14年横審第100号
件名

漁船第三十五富丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成15年7月10日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(吉川 進、阿部能正、稲木秀邦)

理事官
井上 卓

受審人
A 職名:第三十五富丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)

損害
1番主軸受メタルが焼損等、軸受台、クランク軸等損傷

原因
主機の潤滑油こし器の開放手順不適切

主文

 本件機関損傷は、主機の潤滑油こし器の開放手順が適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年7月25日14時15分
 千葉県銚子港
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十五富丸
総トン数 74トン
全長 27.72メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 735キロワット
回転数 毎分900

3 事実の経過
 第三十五富丸(以下「富丸」という。)は、昭和50年6月に進水した、沖合底引き網漁業に従事する漁船で、主機としてダイハツディーゼル工業株式会社が製造した、6DSM-22FS型と呼称するディーゼル機関を装備し、主機が減速装置を介して可変ピッチプロペラを駆動していた。
 主機は、一体鋳造の機関台板に装着した主軸受メタルに、クランク軸を抱き、同台板にシリンダブロックを載せてクランク室を構成し、同ブロックにシリンダライナを挿入した上にシリンダヘッドを載せた構造で、主軸受メタルには、鋳鉄製軸受キャップがかぶせられ、2組の貫通ボルトとナットで締め付けられていた。
 主機の潤滑油系統は、機関台板を油だめとするウェットサンプ方式で、容量200リットルの油だめから潤滑油が直結潤滑油ポンプ又は電動の補助潤滑油ポンプによって汲み(くみ)上げられ、潤滑油冷却器で放熱したのち、圧力調整弁で約2.5ないし3.5キログラム重毎平方センチメートルの圧力範囲になるよう一部が油だめに逃がされ、こし器を経てシリンダブロック内の潤滑油主管に入り、主軸受、ピストン冷却用テレスコ管、伝動歯車、カム軸受などに送られ、潤滑・冷却を終えて再び油だめに戻るようになっていた。
 主軸受は、機関台板の軸受台に、二つ割りの軟鋼製裏金にアルミニウム合金を圧接した薄肉メタルを装着し、鋳鉄製軸受キャップをかぶせたもので、同キャップの上部に潤滑油注油孔を開けて、潤滑油主管から分岐した潤滑油枝管がフランジ止めされるようになっていた。
 潤滑油枝管は、全長約180ミリメートル(以下「ミリ」という。)呼び径10ミリの圧力配管用炭素鋼管をクランク状に2箇所で曲げたもので、潤滑油主管側をシリンダブロックにねじ込まれた金具と袋ナットで、主軸受キャップ側を小判型フランジでそれぞれ接続するようになっていた。
 潤滑油こし器は、複式逆洗型で、鋳鉄製こし器本体に200メッシュ相当のノッチワイヤエレメントを置き、アルミニウムカバーで覆ったのち、貫通ボルトで締め付ける構造で、こし器本体に内蔵したコックを操作して両エレメントのろ過又は逆洗を切り替えるようになっていた。
 富丸は、もっぱら千葉県九十九里浜沖合を漁場として、01時ごろ出航し、翌日10時ごろ帰航する操業を周年繰り返し、月間の主機の運転時間が約400時間に達し、年間では4,000時間ほどであった。
 A受審人は、富丸が平成4年に購入されたときから機関長として乗り組み、機関の運転と保守管理に当たり、毎年7月から8月にかけての休漁期に行われる定期検査及び第一種中間検査に際しては、主機の開放整備を整備業者に依頼して行っていた。
 富丸は、平成13年が検査のない年であったことから、7月26日から船底洗いのために上架されるに先立って、同月中旬から主機の主要部の整備が行われることとなり、銚子港に係留されたまま、A受審人と甲板員2名の手でピストン抜き作業が開始された。
 A受審人は、ピストン仕組、シリンダヘッドなどを陸揚げし、それらの詳細な点検と部品取替えを整備業者に依頼し、カーボンなどが除去されてピストンリングが取り替えられたピストン仕組や、吸気弁・排気弁の摺り合わせが済んだシリンダヘッドなどを再び船内に積み込ませ、自ら組立作業を行った。その後、油だめに新しい潤滑油を張り込み、7月23日09時00分から約10分間の油通しと、こし器エレメントの掃除をしたうえで主機を始動し、約20分後にいったん停止してクランク点検を行い、各軸受の通油状況を確認した。
 ところで、潤滑油こし器は、潤滑油ポンプで通油しながら、切替コックの操作で1筒ずつ逆洗するとき、洗い落とされた異物がこし器本体に設けられたブロー出口から排出するようになっていた。また、エレメントを掃除する際には、同ポンプ停止の後、同コックをブローする位置に合わせ、カバー上部の空気抜きプラグから空気を吸わせてエレメント外側の潤滑油を排出しておかないと、カバーとエレメントを取り外すときにろ過前の異物がこし器出口に混入するおそれがあった。
 A受審人は、潤滑油のこし器を開放する際、空気抜きプラグを開いて圧力を逃がしておけば問題ないと思い、切替コックをブロー位置に操作したうえで空気抜きプラグを開けて内部の潤滑油を排出するなど、適切な手順をとることなく、カバーとエレメントを外し、その際にろ過前の潤滑油中の異物がこし器本体の出口側に落ちることに気付かなかった。
 主機は、同月23日から25日まで毎日午前及び午後の数時間、回転数毎分600にかけてクラッチ中立のまま無負荷で運転され、昼休み及び夕方に停止される毎に、潤滑油こし器が掃除されたが、綿くず状のゴミやペイントかすなど、整備作業で生じた異物の付着が続き、こし器カバーとこし器エレメントが開放される都度、異物の一部が出口側に落ち、潤滑油配管内に混入した。
 こうして、富丸は、同月25日13時20分、船首0.6メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、係留試運転のため主機を始動し、クラッチ中立のまま回転数毎分600にかけて無負荷運転を開始したところ、異物が潤滑油主管から1番主軸受の枝管に詰まり、潤滑油供給が途絶えて同軸受の油膜が切れ、クランクジャーナル、軸受メタルが焼き付いて過熱したが、潤滑油圧力の警報装置が作動する状況ではなかったので運転が続けられ、14時15分銚子港第2漁船だまり河堤灯台から真方位231度410メートルの地点において、シリンダヘッド付近から白煙を生じた。
 当時、天候は曇で風力2の南東風が吹き、港内は穏やかであった。
 A受審人は、主機の1番シリンダクランクケースが過熱しているのに気付いて主機を停止し、同ケース蓋を開いて1番主軸受キャップが過熱して黒変しているのを認めた。
 精査の結果、1番主軸受メタルが焼損して軸受台が変形し、クランク軸の1番クランクジャーナル及び1番クランクピンジャーナルにき裂を生じていることが分かり、のち機関台板、クランク軸などが取り替えられた。

(原因)
 本件機関損傷は、主機開放整備の後、係留運転の合間に潤滑油こし器を掃除する際、同こし器の開放手順が不適切で、こし器内に滞留した異物が、エレメント取り出しの都度こし器出口側に落ち、潤滑油配管に混入して主軸受入口の枝管に詰まったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機の係留運転の合間に潤滑油こし器エレメントを取り出す場合、切替コックをブロー位置に操作したうえで空気抜きプラグを開けて内部の潤滑油を排出するなど、こし器を適切な手順で開放すべき注意義務があった。しかるに、同人は、空気抜きプラグを開いて圧力を逃がしておけば問題ないと思い、こし器を適切な手順で開放しなかった職務上の過失により、こし器エレメントを掃除するために開放する都度、異物がこし器出口側に落ち、潤滑油配管に混入して主軸受の潤滑油枝管に詰まり、主軸受の潤滑阻害を招き、主軸受メタル、軸受台、クランク軸に損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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