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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 火災事件一覧 >  事件





平成15年那審第5号
件名

漁船第八若義丸火災事件

事件区分
火災事件
言渡年月日
平成15年8月27日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(上原 直、坂爪 靖、小須田 敏)

理事官
濱本 宏

受審人
A 職名:第八若義丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
機器の配線被覆、船員室の冷房機等を焼損

原因
電気設備(ディーゼル機関用セルモータの巻線及び同配線)の点検不十分

主文

 本件火災は、発電機を駆動するディーゼル機関用セルモータの巻線や同配線の点検が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年11月22日04時55分
 沖縄県久米島北方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八若義丸
総トン数 14.89トン
登録長 11.98メートル
3.37メートル
深さ 1.42メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 426キロワット

3 事実の経過
 第八若義丸(以下「若義丸」という。)は、昭和57年5月に進水したまぐろ延縄漁業に従事するFRP製漁船で、上甲板上には、船体ほぼ中央を前壁とする機関室囲壁及びその後方に煙突を、同囲壁天井の中央船尾部に船長室及び操舵室を配置し、操舵室の下方に船員室及びその後方に炊事場をそれぞれ設けていた。また、機関室への出入口として、煙突の左舷側にハッチ及び船員室前壁右舷側に木製の引き戸を取り付けていた。
 機関室は、同室中央に主機を据え付け、同機の前部動力取出軸からベルト駆動される、主としてレーダーや計器類の電源として使用される直流24ボルトの発電機を、主機の右舷側船首寄りに交流発電機(以下「補機」という。)とその船首側に同補機を駆動するディーゼル機関(以下「原動機」という。)をそれぞれ配し、同室後壁左舷側に2段の木製棚を設けて、その中段に主機始動用蓄電池2個、原動機始動用蓄電池2個を並置し、上段には変圧器や充電器をそれぞれ配置していた。また、同室両舷船尾側に合計の容量が約2.5キロリットルの船体付き燃料タンクが設置されていた。
 原動機は、ヤンマーディーゼル株式会社製の2ES型と呼称する連続定格出力16キロワットの4サイクル2シリンダ・ディーゼル機関で、同機をセルモータで始動し、原動機右舷側後部のフライホイール近くに配置されたセルモータは、呼称出力3.7キロワットで、その作動は、始動スイッチを入れると2個の蓄電池を直列に結線した24ボルトの電源からアーマチャに主電流が流れ、モータが回転して原動機を起動させるもので、補機は、旭電機株式会社製のYMG15型と称する電圧220ボルト、容量15キロボルトアンペア、定格回転数毎分1,800の4極の発電機で、夜間照明用と、主として電圧を100ボルトに落として投縄後の休息時や就寝時の船員室の冷房機の電源として使用されていた。
 ところで、原動機用セルモータの巻線及び同配線は、原動機始動の際、大きな始動電流が流れ、原動機の始動回数も多かったことから、特に同セルモータの巻線や同配線の絶縁抵抗が経年により劣化すると、短絡して蓄電池と直結しているセルモータへの配線被覆が焼損するおそれがあったが、平成6年8月に中古船として購入されて以来、電気修理業者に依頼するなどして点検整備が行われていなかった。
 A受審人は、昭和50年11月28日に一級小型船舶操縦士の免許を取得後、漁船の船長として乗り組み、電気設備の運転管理にも当たっていたもので、沖縄県糸満漁港を基地として、1航海10日から2週間の操業を周年にわたり行っており、平成14年9月15日に主機用セルモータのブラシとスリップリングとの接触不良で運航不能に陥ったことから、主機の換装工事を行ったばかりであった。
 ところで、A受審人は、原動機の始動時の調子が良かったものの、セルモータの巻線や同配線の絶縁抵抗が劣化していて短絡するおそれがあったが、本件発生3箇月前に原動機用セルモータの配線をウエスで拭いて点検したところ、少し焦げた色に変色していただけで、同配線に傷がなかったので大丈夫と思い、電気修理業者に依頼するなどして同セルモータの巻線や同配線の点検を十分に行わなかったので、このことに気付かなかった。
 こうして、若義丸は、A受審人ほか2人が乗り組み、平成14年11月20日15時00分糸満漁港を発し、翌21日05時00分同県久米島北方漁場に至って操業を始め、翌々22日投縄場所に向かって航行中、絶縁抵抗が劣化した原動機用セルモータの巻線や同配線が短絡して配線被覆に着火し、一緒に束ねられた他の機器の配線被覆、木製棚と同棚に収容されていた蓄電池、変圧器及び充電器等にも燃え移り、04時55分久米島灯台から真方位345度13.4海里の地点において、機関室が火災となった。
 当時、天候は曇で風力3の北東風が吹き、海上には白波があった。
 その後、若義丸は、まもなく主機の回転が異常になり、原動機が停止して船内電源を喪失し、A受審人が機関室周辺の通気口等からの黒煙に気付き、急いで炊事場近くに備え付けてあった持運び式泡消火器2本を機関室で消火しようとしたものの、船体の動揺などで消火器2本を海中に落としてしまい、その後は通風遮断による消火活動により約1時間ぐらいで鎮火させ、携帯電話で救助を要請して来援した僚船に久米島まで曳航され、後日糸満漁港まで引き付けられた。
 火災の結果、機器の配線被覆、木製棚と同棚に収容されていた蓄電池、変圧器や充電器及び機関室への船員室の木製引き戸並びに船員室の冷房機などを焼損させ、のち新替え修理された。

(原因)
 本件火災は、電気設備の運転管理に当たる際、原動機用セルモータの巻線や同配線の点検が不十分で、絶縁抵抗が劣化した同セルモータの巻線や同配線が短絡して配線被覆に着火したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、電気設備の運転管理に当たる場合、原動機の発停が頻繁で、原動機始動の度に大きな始動電流が流れる原動機用セルモータの巻線や同配線に短絡のおそれの有無を確認できるよう、電気修理業者に依頼するなどして同セルモータの巻線や同配線の点検を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、本件発生前に同セルモータの配線を点検したところ、少し焦げた色に変色していただけで、同配線に傷がなかったので大丈夫と思い、電気修理業者に依頼するなどして同セルモータの巻線や同配線の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、絶縁抵抗が劣化した同セルモータの巻線や同配線が短絡して配線被覆に着火し、同配線と一緒に束ねられた他の機器の配線被覆、木製棚と同棚に収容されていた蓄電池、変圧器及び充電器等にも燃え移り、機関室の火災を招き、配線等の延焼などで前示機器を焼損させたほか、機関室への船員室の木製引き戸及び船員室の冷房機などを焼損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する

 よって主文のとおり裁決する。





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