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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成15年那審第8号
件名

漁船第八龍伸丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成15年9月29日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(坂爪 靖、小須田 敏、上原 直)

理事官
平良玄栄

受審人
A 職名:第八龍伸丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船底外板全般に破口、舵及び推進器翼に曲損、のち廃船

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年11月15日02時00分
 鹿児島県奄美大島皆津埼西岸付近
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八龍伸丸
総トン数 4.89トン
登録長 9.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 264キロワット

3 事実の経過
 第八龍伸丸(以下「龍伸丸」という。)は、昭和55年1月に進水し、船体後部に操舵室を設けたFRP製漁船で、平成3年2月21日に一級小型船舶操縦士免許を取得したA受審人が同12年9月に中古の龍伸丸を購入後船長として乗船し、鹿児島県奄美大島古仁屋港を基地として同島南端皆津埼の南方沖合の漁場で、1航海が4ないし5日の操業を月間3航海ほど行い、周年まぐろ旗流し漁に従事していたところ、同人及び甲板員の息子1人が乗り組み、操業の目的で、同14年11月10日20時00分古仁屋港を発し、皆津埼の南方約54海里の、北緯27度12.6分東経129度25.6分の地点に設置されている浮魚礁付近の漁場に向かった。
 翌11日07時00分ごろA受審人は、漁場に至り、釣針に餌を付けた枝糸3本を幹糸に取り付け、その先端に重りを付け、他端は浮子に結び付け、これに目印の旗竿を付けた漁具4本を潮上から投入し、浮魚礁近くまで流れてきたところで引き揚げ、潮上りして元の地点に戻り、再び投入するという作業を息子と一緒に何度も繰り返して18時00分ごろその日の漁を終えた。その後機関を中立運転として漂泊し、漁具の後片付けを済ませて食事を取り、22時00分ごろ機関を停止し、2人とも翌12日早朝まで休息した。そして、04時00分ごろ起床して機関を始動したあと餌の準備などを行い、05時00分ごろ漁場に向けて移動を開始し、07時00分ごろから18時00分ごろまで操業を行っては22時00分ごろ休息するという操業形態を連日繰り返した。
 同月14日18時00分A受審人は、まぐろ約400キログラムを獲たところで、漁を終え、喜念埼灯台から139度(真方位、以下同じ。)36.5海里の地点を発進して帰途についた。
 発進したとき、A受審人は、古仁屋港への入航目標としてGPSプロッターに入力してある皆津埼灯台の手前1.2海里の、大島海峡東口に向け、針路を357度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて6.8ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
 翌15日00時15分ごろA受審人は、皆津埼灯台から178度12.0海里の地点に達したころ、漁場では夜間毎日6時間ほどの睡眠時間がとれたものの、漂泊中なので通航船や風向、潮流の状況などが気になり、なかなか熟睡できず、4日間の連続操業で疲労が蓄積していたうえ、操業を終え休息時間をとらないまま漁場を発進し、そのまま1人で船橋当直にあたるなど睡眠不足気味であったことから、眠気を催すようになったが、休息中の息子を起こして2人当直にするなどの居眠り運航の防止措置をとらないで、少し休息するつもりで、それまでの立った姿勢から操舵室の床に座り込んでいたところ、いつしか居眠りに陥った。
 01時49分A受審人は、皆津埼灯台から184度1.2海里の、古仁屋港港口に向ける転針予定地点に達したものの、居眠りをしていてこのことに気付かず、転針の措置をとることができないまま、皆津埼西岸付近に向かって続航し、02時00分皆津埼灯台から287度300メートルの地点において、龍伸丸は、原針路、原速力のまま、同埼西岸付近の浅礁に乗り揚げた。
 当時、天候は曇で風力5の南西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
 乗揚の結果、左舷側ビルジキールに欠損、船底外板全般に破口、舵及び推進器翼に曲損を生じたが、救助船により引き下ろされ、のち廃船とされた。

(原因)
 本件乗揚は、夜間、鹿児島県奄美大島皆津埼南方沖合を漁場から同島古仁屋港に向けて帰航中、居眠り運航の防止措置が不十分で、皆津埼西岸付近に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、鹿児島県奄美大島皆津埼南方沖合を漁場から同島古仁屋港に向けて帰航中、眠気を催した場合、漁場では夜間毎日6時間ほどの睡眠時間がとれたものの、漂泊中なので通航船や風向、潮流の状況などが気になり、なかなか熟睡できず、4日間の連続操業で疲労が蓄積していたうえ、操業を終え休息時間をとらないまま漁場を発進し、そのまま1人で船橋当直にあたるなど睡眠不足気味であったから、居眠り運航とならないよう、休息中の息子を起こして2人当直にするなどの居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、A受審人は、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、少し休息するつもりで、それまでの立った姿勢から操舵室の床に座り込んでいたところ、居眠りに陥り、皆津埼南方の転針予定地点に達したことに気付かず、同埼西岸付近に向首進行して乗揚を招き、龍伸丸の船底外板全般に破口、舵及び推進器翼に曲損等を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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