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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成15年那審第35号
件名

漁船美好丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成15年9月25日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(坂爪 靖)

副理事官
神南逸馬

受審人
A 職名:美好丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
右舷側水線付近の外板及び船底外板に破口、浸水し、全損

原因
水路調査不十分

裁決主文

 本件乗揚は、水路調査が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年3月26日23時30分
 沖縄県久米島兼城港
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船美好丸
総トン数 3.2トン
登録長 9.85メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 70

3 事実の経過
 美好丸は、昭和60年11月に進水し、船体後部に操舵室を設けた、レーダーを備えないFRP製漁船で、同50年10月24日に二級小型船舶操縦士(5トン限定)免許を取得したA受審人が平成3年3月に中古の美好丸を購入して船長として乗り組み、沖縄県糸満漁港を基地として同漁港北西方約31海里の渡名喜島周辺漁場で周年延縄漁業に従事していたところ、同人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同15年3月26日04時30分糸満漁港を発し、渡名喜島東方沖合の漁場に向かった。
 07時00分ごろA受審人は、漁場に至って操業を開始し、その後渡名喜島周辺を移動しながら操業を行ったものの、漁獲がおもわしくなかったので、19時10分同島西南西方約20海里の久米島南岸付近の漁場に移動して操業を再開した。そして、22時30分ごろその日の漁を終え、同島兼城港で翌朝まで休息することとし、同時44分同島南端島尻埼南南西方約0.8海里の、兼城港第1号灯標から133度(真方位、以下同じ。)4.2海里の地点を発進した。
 兼城港は、その前面南側が同港北西部の精川島から陸岸まで北北東へ約150メートル延びる防波堤及び同島から南東方へ約1,200メートル延びる防波堤によって囲まれ、防波堤先端付近から沖合にかけて中干瀬、その南方には大干瀬とそれぞれ呼ばれるさんご礁が拡延していた。そして、その水路は、中干瀬と大干瀬に挟まれた長さ約800メートル可航幅約200メートルの、外洋からほぼ北東方に防波堤先端付近に向かうもので、水路入口付近の航路標識としては、中干瀬南端に兼城港第1号灯標(群閃緑光、毎6秒に2閃光、左舷標識)、同瀬東端に兼城港第3号灯標(単閃緑光、毎3秒に1閃光、左舷標識)及び大干瀬北西端に兼城港第2号灯標(群閃赤光、毎6秒に2閃光、右舷標識)がそれぞれ設けられていた。
 ところで、兼城港には、水路中心線の延長上の陸岸に水路入航針路を示す兼城港指向灯が設けられていたが、これが数年前に廃止されて、それに伴い水路両側に前示灯標が設けられていたもので、A受審人は、同港への入航は約10年ぶりであったうえ、最新版の海図W238(久米島南部)やW244(南西諸島諸分図第4、久米島兼城港)を所持していなかったので、このことを知らなかった。しかし、同人は、それまでは何度も兼城港に入航した経験があったことから、同港水路入口付近の航路標識や浅礁の位置などの水路状況は分かっているつもりで大丈夫と思い、事前に僚船や漁業協同組合、関係機関等に問い合わせて同港水路入口付近の航路標識の設置場所や灯質等を確かめるなどの水路調査を十分に行わずに前示のとおり漁場を発進した。
 発進後、A受審人は、機関を半速力前進にかけ、6.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、久米島南西岸沿いを北上し、23時10分兼城港第1号灯標から152度1.4海里の地点に達したとき、針路を317度に定め、遠隔操舵によって、GPSを使用しながら同一速力で続航した。
 23時22分A受審人は、兼城港第1号灯標から217度650メートルの地点に達したとき、針路を同港水路入口のほぼ中央に向首する050度に転じて進行したところ、予定していた兼城港指向灯の灯光が認められず、航路標識が以前と変わり、様子が違っていることに気付き、周囲の状況を確かめようと同時25分同灯標から162度150メートルの地点に至って行きあしを止めた。
 美好丸は、水路の状況を確認中、南東方からの風波を受けて中干瀬南端付近の浅礁に向かって徐々に圧流され始め、23時30分少し前A受審人が左舷前方至近に浅礁を認め、慌てて機関を後進にかけたが効なく、23時30分兼城港第1号灯標から283度100メートルの地点において、船首が北方を向いて、浅礁に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力4の南東風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、視界は良好であった。
 乗揚の結果、右舷側水線付近の外板及び船底外板に破口を生じて浸水し、全損となった。

(原因)
 本件乗揚は、夜間、沖縄県久米島南岸付近の漁場で操業を終え、休息のため同島兼城港に向けて同漁場を発進する際、水路調査が不十分で、同港水路入口付近で行きあしを止めて水路の状況確認中、同入口北側の中干瀬南端付近の浅礁に向かって圧流されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、沖縄県久米島南岸付近の漁場で操業を終え、休息のため同島兼城港に向けて同漁場を発進する場合、同港への入航は約10年ぶりであったうえ、最新版の必要な海図を所持していなかったから、同港南側に拡延する中干瀬、大干瀬間の水路を安全に通航することができるよう、事前に僚船や漁業協同組合、関係機関等に問い合わせて同港水路入口付近の航路標識の設置場所や灯質等を確かめるなどの水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、それまでは何度も兼城港に入航した経験があったことから、同港水路入口付近の航路標識や浅礁の位置などの水路状況は分かっているつもりで大丈夫と思い、水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、同入口のほぼ中央に向首する針路で進行するうち、予定していた兼城港指向灯の灯光が認められず、航路標識が以前と変わり、様子が違っていることに気付き、同入口付近で行きあしを止めて水路の状況確認中、中干瀬南端付近の浅礁に向かって圧流されて乗揚を招き、美好丸の右舷側水線付近の外板及び船底外板に破口を生じて浸水させ、同船を全損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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