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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成15年那審第27号
件名

漁船第三勝丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成15年9月17日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(坂爪 靖、小須田 敏、上原 直)

理事官
平良玄栄

受審人
A 職名:第三勝丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船底全般に破口、浸水し、全損

原因
錨泊方法不適切

主文

 本件乗揚は、錨泊方法が適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年11月7日04時00分
 沖縄県硫黄鳥島南西岸
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三勝丸
総トン数 4.91トン
登録長 9.95メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 50

3 事実の経過
 第三勝丸(以下「勝丸」という。)は、昭和55年7月に進水した一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、同53年9月に一級小型船舶操縦士免許を取得したA受審人が中古の本船を平成6年1月に購入し、鹿児島県沖永良部島和泊港を基地とし、同県徳之島から沖縄県硫黄鳥島付近にかけての漁場で、しけの日を除き早朝出漁しては翌日早朝帰港し、翌々日も早朝から出漁するという操業形態を繰り返していたところ、同人が1人で乗り組み、まぐろなどを釣る目的で、船首0.5メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同14年11月6日05時00分和泊港を発し、硫黄鳥島西北西方約14海里沖合の漁場に向かった。
 硫黄鳥島は、沖縄県最北端に位置する無人島で、沖縄島北端辺戸岬の北方約59海里、和泊港の北西方約35海里のところにあり、北北西方から南南東方への長さ約3キロメートル、幅約1キロメートル、周囲約7.3キロメートルで、その海岸線はほとんど断崖絶壁となっていて船舶を係留できるところはなかった。
 09時00分A受審人は、漁場に至って操業を開始し、一本釣り漁を行っていたところ、午後から北の風が強まり、波が次第に高くなるなど荒天模様となったので漁を止め、同方向からの風波を遮る硫黄鳥島の南西岸付近に避泊して天候の回復を待つこととし、16時00分硫黄鳥島212メートル頂(以下「硫黄鳥島頂」という。)から275度(真方位、以下同じ。)13.8海里の地点を発進した。
 ところで、そのころ、日本海中部には1,028ヘクトパスカルの高気圧があって時速46キロメートルで東進中で、硫黄鳥島付近が高気圧の南のへりにあたり、北東ないし東の風が吹き、そのあと気圧の谷が接近しており、風向が南東に変わって風が次第に強まる状況で、奄美地方に波浪注意報などが発令されていたが、A受審人はこのことを知らなかった。
 17時00分A受審人は、硫黄鳥島南西岸に至り、海岸線から約300メートル、その沖合の干出さんご礁外縁からは約150メートル離れた、硫黄鳥島頂から166度2,420メートルの地点で、水深約50メートル、底質岩のところに、重さ40キログラムの5爪錨を船首から投下し、同錨に取り付けた長さ5メートルのチェーンに直径20ミリメートルのナイロンロープの錨索をシャックルで連結し、全長100メートルの同索のうち約70メートルを延出して錨泊した。
 A受審人は、翌朝まで錨泊を続けるつもりでいたが、投錨時、硫黄鳥島の島陰となり、風は風速毎秒6メートルほどの北東風で、ほとんど風浪やうねりがなく海上も穏やかであったことから、翌朝まで天候が変化することもあるまいと思い、風向風力の変化などに備え、予備錨の5爪錨を船首から投下して二錨泊とするなどの適切な錨泊方法をとらないで、船首が風に立ち錨索に異常がないことを確かめたあと21時00分ごろ操舵室前部で休息した。
 勝丸は、その後風向が北東から南東に変わり、沖合からの風が強く吹き始めたため、風波により走錨を始め、風下の硫黄鳥島南西岸の干出さんご礁外縁付近の浅礁に向かって圧流されていたものの、A受審人がこれに気付かないまま休息中、翌7日04時00分硫黄鳥島頂から166度2,110メートルの地点において、船首が南東方を向いて、同礁外縁付近の浅礁に乗り揚げた。
 当時、天候は曇で風力6の南東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
 乗揚の結果、風波によって干出さんご礁の上を圧流されているうち、同礁で擦れるかして錨索が切断し、陸岸に打ち寄せられ船底全般に破口を生じて浸水し、全損となった。

(原因)
 本件乗揚は、夜間、沖縄県硫黄鳥島南西岸の島陰において、荒天を避けて錨泊する際、錨泊方法が不適切で、風向風力が変化して走錨し、同島南西岸沖合の干出さんご礁外縁付近の浅礁に向かって圧流されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、沖縄県硫黄鳥島南西岸の島陰において、荒天を避けて錨泊する場合、風向風力が変化すると走錨して同島南西岸沖合の干出さんご礁外縁付近の浅礁に乗り揚げるおそれがあったから、走錨することのないよう、風向風力の変化などに備え、予備錨の5爪錨を船首から投下して二錨泊とするなどの適切な錨泊方法をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、投錨時、風は風速毎秒6メートルほどの北東風で、ほとんど風浪やうねりがなく海上も穏やかであったことから、翌朝まで天候が変化することもあるまいと思い、適切な錨泊方法をとらなかった職務上の過失により、休息中、風向が北東から南東に変わり、沖合からの風が強く吹き始めたため、風波により走錨を始め、風下の同礁外縁付近の浅礁に向かって圧流されて乗揚を招き、その後陸岸に打ち寄せられ、勝丸の船底全般に破口を生じて浸水させ、同船を全損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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