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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成15年神審第51号
件名

プレジャーボート白天乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成15年9月5日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(竹内伸二)

副理事官
河野 守

受審人
A 職名:白天船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船底に破口、航行不能、のち廃船

原因
夜標の確認不十分

裁決主文

 本件乗揚は、針路目標としていた夜標の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年5月4日03時39分
 和歌山県田辺港沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート白天
登録長 7.25メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 86キロワット

3 事実の経過
 白天は、FRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、知人3人を乗せ、魚釣りの目的で、船首0.4メートル船尾0.9メートルの喫水をもって、平成15年5月4日03時25分和歌山県田辺港第2区の田辺漁港岸壁を発し、沖合の釣り場に向かった。
 A受審人は、平成7年9月に一級小型船舶操縦士の免許を取得し、翌8年2月に白天を購入して以来、年間50回以上同船を運航して魚釣りに出かけ、備付けの海図第74号及び同77号を見るなどして田辺港及びその周辺の水路状況を熟知していた。そして同港沖合の田辺沖ノ島灯台(以下「沖ノ島灯台」という。)周辺に危険な暗岩や干出岩などの険礁が散在することを知っており、夜間の入出航時には、備付けの磁気コンパスを見ないで同港入口付近に設置された灯台などの夜標を見て針路を定めていた。
 ところで、沖ノ島灯台は、灯高15メートルで、毎3秒に1回の白色閃光を発し、また、同灯台南南東方1,200メートルの水深4.7メートルの地点に高潮観測塔があって、その上端に毎8秒に1回白色モールス符号光(U)を発する灯高19メートルの京都大学田辺中島高潮観測塔灯(以下「高潮観測塔灯」という。)が付設されており、A受審人は、これらの夜標が同じ白色光を発するものの、灯質が異なることを知っていた。
 発航後A受審人は、防波堤内を3ノットばかりの微速力で航行し、同15年5月4日03時30分半沖ノ島灯台から076度(真方位、以下同じ。)1.9海里の地点で、田辺港江川西防波堤灯台を右舷側50メートルに航過したとき、針路をいつも出航するときと同じように、高潮観測塔灯の北方約100メートルを航過する238度に定め、機関を全速力前進にかけて15.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
 A受審人は、キャビン内の操舵ハンドル後方に立ち、隣の座席に座っていた同乗者と会話をしながら、針路目標の高潮観測塔灯を左舷船首方向に見て操舵にあたっていたところ、03時33分少し過ぎ田辺港アボセ灯浮標を左舷側180メートルに航過したとき、右舷前方に自船の前路を横切る態勢で接近中の漁船と思われる小型船の灯火を認めたので、減速してその進路を避けた。このとき、前路をかわった同船の航走波を受けるなどして船首が北方に40度ばかり振れたが、高潮観測塔灯から目をそらし小型船の動きばかりを見ていたので船首が振れたことに気付かず、同船が無難に航過したあと、ほぼ船首方向に認めた沖ノ島灯台の白色閃光を針路目標の高潮観測塔灯と思い、同時34分半沖ノ島灯台から091度1,950メートルの地点で、同灯台北方130メートルに向首する274度に転じ、再び速力を15.0ノットとして続航した。
 その後A受審人は、船首方向少し左に見える沖ノ島灯台の閃光を一べつしただけで高潮観測塔灯と思い込み、同閃光をしばらく注視してその灯質を確かめ、高潮観測塔灯かどうか十分に確認することなく、同乗者との会話に夢中になっていたので、同閃光が高潮観測塔灯ではなく、予定進路をそれたことに気付かず、沖ノ島灯台北西方の険礁に向かって進行した。
 03時39分少し前A受審人は、沖ノ島灯台を左舷側に航過したが、依然として同灯台を高潮観測塔灯と思い込み、険礁に向首したまま続航中、03時39分白天は、沖ノ島灯台から337度150メートルの地点において、原針路、原速力のまま干出岩に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力1の東南東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
 その結果、船底に破口を生じて航行不能となり、連絡を受けて来援した友人のプレジャーボートによって田辺漁港に曳航される途中沈没し、のち台船によって引き揚げられたが、廃船処分とされた。

(原因)
 本件乗揚は、夜間、和歌山県田辺港沖合において、出航時、針路目標としていた夜標の確認が不十分で、沖ノ島灯台北西方の険礁に向首したまま進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、和歌山県田辺港沖合において、高潮観測塔灯を針路目標として出航中、右舷前方から接近する他船の進路を避けたあと、ほぼ船首方向に白色閃光を認めた場合、しばらく同閃光を注視してその灯質を確かめ、高潮観測塔灯かどうか十分に確認すべき注意義務があった。しかし、同人は、一べつしただけで高潮観測塔灯と思い込み、しばらく同閃光を注視してその灯質を確かめ、高潮観測塔灯かどうか十分に確認しなかった職務上の過失により、同閃光が針路目標の高潮観測塔灯ではないことに気付かず、隣の同乗者との会話に夢中になり、沖ノ島灯台北西方の険礁に向首したまま進行して乗揚を招き、船底外板に破口を生じさせ、航行不能となるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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