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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成15年横審第13号
件名

監視船はあもにい乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成15年9月11日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(大本直宏、吉川 進、西山烝一)

理事官
中谷啓二

受審人
A 職名:はあもにい船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
右舷船尾船底部に破口、機関室に浸水、推進装置に損傷、のち売船

原因
水路図誌の準備不十分

主文

 本件乗揚は、水路図誌の準備が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年6月14日20時23分
 静岡県須崎半島南岸沖
 
2 船舶の要目
船種船名 監視船はあもにい
総トン数 11トン
全長 12.70メートル
機関の種類 ディーゼル機関(2機)
出力 397キロワット

3 事実の経過
 はあもにいは、火力発電所の監視船に使用されていた2機2軸の、航海速力約32ノットのFRP製モーターボートで、A受審人(平成14年6月3日一級小型船舶操縦士免状取得)がレジャー用に購入し、同人ほか2人が乗り組み、長崎県佐世保港への回航目的で、船首0.8メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成14年6月14日16時30分京浜港横浜区を発し、第1寄港地の静岡県下田港に向かった。
 ところで、A受審人は、佐世保港に別のプレジャーボートを持っており、その艇内に、プレジャーボート・小型船用港湾案内(以下「港湾案内」という。)H-808九州北西岸(玄界灘―島原湾・対馬・五島列島)などを備え、同港付近で海釣り目的の日帰り昼間航海には慣れていたものの、本州南岸から瀬戸内海経由の航海は初めてなので、発航に先立ち、次のように航海計画を立て、航海に臨んだが、大縮尺の海図6枚を用意したので大丈夫と思い、同計画は天候等により左右され、錨泊地を近くに求める等の変更を余儀なくされることがあるから、水路調査を行うことにより危険海域を避け、適切に避泊地を選定できるよう、港湾案内H-801本州南岸1(東京湾―大王埼)ほか航海に関係する港湾案内を用意するなど、水路図誌の準備を十分に行わなかった。
(1)マリンスポーツ総合情報誌に掲載された横浜港から下田港・御前崎港・波切港経由航海の記事を参照し、その記事には、次の事項が指摘されていた。
ア 横浜港から下田港までの航海は、港湾案内H-801を想定していること
イ 実際に航行する際には正式な海図及び港湾案内を利用することの注記
(2)次の2点を前提に、第1寄港地としての下田港までの航海予定時間は3時間に設定したほか、順次に各寄港地を定めたものの、夜間航海を避けるのであるから、出港時刻調整が必要か否か検討できるよう、関係当日の各日没時刻を求めておくまでには至らなかった。
ア 佐世保港近くの海域までの航海は夜間航行を避ける
イ 燃料消費等から連続航行時間を約4時間以内とする
(3)大縮尺の海図W80「野島崎至御前崎」及び同縮尺程度の関係海図約6枚を用意した。
 A受審人は、GPSと関係海図により、船位を確かめながら東京湾及び相模灘を南下後、1人で航海当直に当たり、19時56分少し過ぎ爪木埼灯台から106度(真方位、以下同じ。)3.7海里の地点に達して、針路を270度に定め、折からの雨模様で減速し、12.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で手動操舵により進行した。
 間もなく、A受審人は、この時期の佐世保港付近では夕刻後の遅い時間帯まで明るいので、そのつもりで航行中、思いのほか周囲の暗くなるのが早く雨脚も強まり、下田港寄港を断念し、近くに錨泊地を選定することにした。
 ところで、静岡県須崎半島は、西側に下田港が、南岸のほぼ中央部に須崎漁港が位置し、同漁港南方沖近くに、平磯と称する高さ6メートルで平坦な小島と、平磯西方近くに恵比須島があって、同小島と恵比須島との間は多くの洗岩、干出岩等が存在する危険海域で、地元漁船の同漁港への出入港は、平磯の東側水域に限られ、南東部の爪木埼西方沖に所在する田ノ浦島の東側、西側両海域に小型艇の錨泊地が存在していた。
 こうして、A受審人は、港湾案内H-801を見るなど、水路調査を十分に行えなかったので、前示の危険海域と小型艇の錨泊地の存在を知ることができず、W80の海図を参照し、低速力にしてGPSと魚群探知機で測深しながら航行すれば須崎漁港に入航できると考え、同漁港を錨泊地に選び、前示の危険海域の存在に気付かないまま、20時15分少し前須崎恵比須島指向灯から129度1,500メートルの地点で、針路を309度に転じて機関を極微速力前進の5.0ノットに減じ、同時22分少し過ぎ同指向灯から129度300メートルの地点に達したとき、001度に転針して進行中、20時23分須崎恵比須島指向灯から104度220メートルの地点において、原針路原速力のまま、洗岩に乗り揚げた。
 当時、天候は雨で風力2の北東風が吹き、潮候はほぼ満潮期であった。
 乗揚の結果、右舷船尾船底部に破口を生じて機関室に浸水したほか、推進装置に損傷を生じたが、救助船により須崎漁港に寄せられ、のち売船の手続がとられた。

(原因)
 本件乗揚は、京浜港横浜区から長崎県佐世保港までの航海計画を立て発航に臨む際、水路図誌の準備が不十分で、静岡県須崎半島南東方沖を西進中、夜間となって雨脚が強まり、航海計画の変更を余儀なくされ、近くに錨泊地を選定するに当たり、水路調査を適切に行えず、須崎半島南岸の危険海域及び適切な錨泊地の各存在不明の状況下、須崎漁港を錨泊地に選び、同海域の洗岩へ向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、京浜港横浜区から長崎県佐世保港に向け、夜間航行を避け各寄港地を選んだ航海計画に従い、航海に臨む場合、同計画は天候等により左右され、錨泊地を近くに求める等の変更を余儀なくされることがあるから、水路調査を十分に行って危険海域を避け、適切に避泊地を選定できるよう、港湾案内H-801ほか航海に関係する港湾案内を準備するなど、水路図誌の準備を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、大縮尺の海図6枚を用意したので大丈夫と思い、水路図誌の準備を十分に行わなかった職務上の過失により、静岡県須崎半島南岸の危険海域及び適切な錨泊地の各存在を知ることができず、須崎漁港を錨泊地に選定し、同危険海域に向首進行して洗岩への乗揚を招き、右舷船尾船底部に破口を生じて機関室に浸水したほか、推進装置に損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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