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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成15年長審第20号
件名

漁船37安栄乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成15年8月7日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(原 清澄、清重隆彦、寺戸和夫)

理事官
金城隆支

受審人
A 職名:37安栄船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船底外板に破口を伴う凹損

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年9月6日07時55分
 長崎県臼浦港
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船37安栄
総トン数 19トン
全長 24.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 190

3 事実の経過
 37安栄(以下「安栄」という。)は、網船のほか灯船3隻と運搬船3隻(安栄を含む。)で構成する中型まき網船団のFRP製灯船兼運搬船で、一級小型船舶操縦士免許(平成11年3月31日取得)を有するA受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.50メートル船尾2.50メートルの喫水をもって、平成14年9月5日17時30分長崎県楠泊漁港を発し、同県平戸島西方沖合の漁場に向かった。
 A受審人は、18時45分前示漁場に至って夜間操業を行ったのち、翌6日06時前ころ六島瀬戸の東方沖合で、魚群の探索を行っていたとき、灯船に乗船中の漁ろう長から操業を終える旨の連絡を受け、同時02分黒母瀬灯台から173度(真方位、以下同じ。)2.3海里の地点を発進して帰途に就いた。
 ところで、A受審人は、夏場の操業の対象魚がイリコ用の小魚であったことから、夕方17時ころ出港して平戸島周辺の海域で操業を行い、翌朝07時ころ漁場からまっすぐ楠泊漁港に帰港し、加工場に水揚げしたのち、同人は、加工作業には従事していなかったものの、小魚を干す作業や出港準備としての氷の積込み作業などに従事するため、1日の睡眠時間としては約4時間が限度であった。
 A受審人は、連日の操業で十分な休息がとれず、発進時からいくぶん眠気を感じていたものの、舵輪の後方に置いた背もたれ付きのいすに腰を掛けて手動操舵で操船にあたり、06時57分少し前下枯木島灯台から250度7.0海里の地点に達したとき、針路を米瀬と下枯木島との間に向く074度に定め、機関回転数を全速力前進より少し落とした毎分1,100とし、10.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
 07時16分A受審人は、下枯木島灯台から246度3.4海里の地点に達したとき、急に強い眠気を感じるようになったが、発進後、缶入りコーヒーを2缶飲んでいたこともあってか、まさか居眠りに陥ることはあるまいと思い、いすから立ち上がって操舵にあたるなど居眠り運航の防止措置をとることなく、いすに腰掛けたまま続航した。
 07時32分A受審人は、下枯木島灯台から220度1,500メートルの地点に至り、眠気もいくぶん収まってきたうえ、前路に航行中の他船も操業中の漁船も見あたらないことに安堵し、同時35分同灯台から187度950メートルの地点で、舵を自動操舵に切り替えて進行中、港に近づいて気分的に余裕ができたためか、いつしか居眠りに陥った。
 安栄は、A受審人が居眠りに陥って適切な操船が行われないまま、原針路を保って続航中、07時55分臼浦港楠泊東防波堤灯台から263度1,160メートルのところの、野島南東方に拡延した浅所に、原速力のまま乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力1の南風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
 乗揚の結果、船底外板に破口を伴う凹損を生じ、舵及び推進器に曲損を生じたが、のち修理された。

(原因)
 本件乗揚は、長崎県平戸島南岸沖合を東行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、同県野島の南東方に拡延する浅所に向けて進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、長崎県平戸島南岸沖合を東行中、眠気を覚えた場合、連日の操業で睡眠が不足した状態にあったから、居眠りに陥らないよう、いすから立ち上がって操舵にあたるなどの居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、いすに腰を掛けたまま手動で操舵しているうち、いくぶん眠気がとれてきたので、もう大丈夫と思い、いすに座ったまま自動操舵に切り替えて運航にあたり、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、港に近づいて気分的に余裕ができたためか、いつしか居眠りに陥り、適切な操船が行われないまま進行して乗揚を招き、船底外板に破口を伴う凹損を、舵及び推進器に曲損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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